=== 原発への対応と将来の展望 3 (n) ===

福島の廃炉、国民負担 8.3 兆円 新電力にも負担要求

政府は、東京電力福島第一原発の廃炉や賠償、一般の原発の廃炉などの費用を広く消費者に負担させる仕組みの検討を始めた。 新たな国民負担が 8.3 兆円ほど生じ、4 月の電力自由化で家庭用小売りに参入した「新電力」に乗り換えた消費者にも負担させる。 ただ、原発を持つ大手電力の負担軽減策との批判も出そうだ。

原発の廃炉費は、その原発を持つ大手電力会社が自社の電気料金収入からまかなうのが原則で、福島第一原発も例外ではない。 ただ、福島事故の賠償については、大手電力が負担金を納める国の認可法人「原子力損害賠償・廃炉等支援機構」が支援している。 だが、東電はさらなる追加支援を国に求めている。 廃炉費がどこまでふくらむか見通しが立たないためだ。 東京電力ホールディングスの数土文夫会長は 7 月、「有効な手が打てるかどうかわからない」と訴えていた。

経済産業省がつくった内部資料も、関連費用の増加を指摘している。 2 兆円としていた福島第一の廃炉費は 4 兆円増えるほか、被害者賠償金は 3 兆円、他原発の廃炉費用も 1.3 兆円ほど不足するとし、全体で約 8.3 兆円の新たな国民負担が発生すると試算する。 東電の求めと省内の試算をもとに、経産省は新たな枠組みづくりに着手することにした。 標的となっているのが、4 月の電力自由化で家庭向けにも参入した「新電力」だ。

3 月までは大手電力が家庭向けを独占しており、廃炉費も電気料金の一部として回収してきた。 一方、新電力は原発を持たないので、廃炉費も負担しないしくみになっている。 ただ、新電力を選ぶ消費者が全契約者数の 2% ほどにとどまる現状から増えていくと、廃炉費が想定通り集まらなくなる可能性がある。

そこで、家庭に電気を届ける手段がない新電力が大手電力の送電網を使っている「使用料」に目をつけ、廃炉費などの負担を上乗せする案を考え始めている。 新電力に切り替えた消費者も以前は原発で生み出された電力を利用していたから、「すべての人から公平に費用を回収する必要がある(経産省幹部)」という理由だ。

経産省の試算では、福島第一原発の廃炉費が重くのしかかる東電管内(関東エリア)の「標準家庭(3 人家族)」では、毎月 180 円ほどの上乗せを見込む。 その他のエリアでも、毎月約 60 円の上乗せを想定している。 経産省は 27 日に総合資源エネルギー調査会(経産相の諮問機関)の下に小委員会を設け、具体的な制度設計を始める。 年内にとりまとめ、来年の通常国会に電気事業法改正案を出すことをめざす。

ただ、これまで経産省が進めてきた電力改革では、新電力に原発関連の負担を求めなかった。 もしこの案がそのまま実現すると、原発を嫌って大手電力を離れた消費者も廃炉費などを負担することになる。 与党・自民党からは早くも「電力改革の理念を損なう(河野太郎前国家公安委員長)」といった声も上がる。 (風間直樹、米谷陽一、asahi = 9-21-16)

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核燃サイクルは堅持 「もんじゅ」廃炉の方向

政府は高速増殖炉原型炉「もんじゅ(福井県)」について原子力関係閣僚会議を 21 日夕に開く。 「廃炉を含め抜本的な見直しを行う」との方針をとりまとめ、廃炉の方向を決める。 高速炉開発に関する官民の会議を新たに設け、今後の計画を示すほか、与党や地元の福井県などの意向も踏まえたうえで年内にも最終判断する。 原子力政策の中核をなす核燃料サイクル政策は堅持する意向だ。

関係閣僚会議ではもんじゅを廃炉の方向で抜本的に見直す方針を確認する。 また「高速炉開発会議」を新設し、電力会社やメーカーとともに年内をめどに高速炉研究の今後の方向性を確定させる予定だ。 そのうえで関係閣僚会議を再度開き、廃炉を最終的に判断する。 閣僚会議には菅義偉官房長官、もんじゅを所管する松野博一文部科学相、エネルギー政策を担う世耕弘成経済産業相らが出席する。 菅氏は 20 日の記者会見で「議論の結果を踏まえながら地元自治体の意見もよく伺い、最終的な対応を決することになる」と述べた。

高速炉開発に欠かせないとして、もんじゅの再稼働を訴える文科省と廃炉を主張する経産省との意見の隔たりは大きく、政府内の調整に時間を要してきた。 文科省はもんじゅを再稼働させた場合、少なくとも 18 年間で約 5,800 億円の費用が必要と試算する。 もんじゅにはすでに 1 兆円超の事業費を投じた。 さらに巨額の費用がかさむとなれば、存続の意義を国民に説明するのは難しいとの意見が政府・与党内で強まっている。

政府はもんじゅの廃炉を前提に、今後の高速炉研究の方向性をまとめることで、核燃料サイクルを堅持する姿勢を示したい考えだ。 経産省はすでにある実験炉「常陽(茨城県)」や、フランスと共同開発する実証炉「ASTRID (アストリッド)」などで研究を継続できるとみる。 もんじゅが立地する敦賀市の渕上隆信市長らは 20 日、首相官邸を訪れ、萩生田光一官房副長官にもんじゅ存続を求めた。 西川一誠福井県知事も同日、「もんじゅに対する考え方に変わりがある場合は文科相自ら直ちに説明に来る必要がある」と述べ、政府をけん制した。 (nikkei = 9-20-16)

高速炉 : 次世代型の原子炉の一つで、エネルギーの高い(高速)中性子を利用するため高速炉と呼ばれる。 エネルギー資源の有効利用を目的に、研究開発が進められてきた。 放射性廃棄物の容量を減らす役割もある。 燃料のプルトニウムを消費した以上に増やす「もんじゅ」は特に高速増殖炉と呼ぶ。 普通の原子力発電所(軽水炉)は熱を取り出すのに水を使うが、高速炉は自然発火しやすいナトリウムを用いるなど扱いが難しい。

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原子炉の底、透視します 名大「ミュー粒子」実験公開

名古屋大学と中部電力は、透過力の高い宇宙線「ミュー粒子」を使い原子炉の底部を透視する研究を浜岡原発(静岡県御前崎市)で始めた。 8 月 31 日、報道機関に実験を公開した。 精度が確かめられれば、東京電力福島第一原発事故で溶け落ちた核燃料の状態を把握できる可能性があるという。 ミュー粒子は大気中を飛び交い、厚さ 1 キロの岩盤でも通り抜ける性質がある。 粒子の通り道に物質があると、その厚さや密度により透過する粒子の量が増減する。 その量を検出器で調べることで、大規模な建物などの内部を X 線写真のように知ることができる。 火山やピラミッドの調査にも使われている。

実験では、浜岡原発 2 号機の原子炉建屋地下 2 階(地下十数メートル)に、パネル状の検出器(縦 25 センチ、横 30 センチ)を 12 枚設置した。 鮮明な画像を得るため、これまで 3 週間だった観測期間を半年に延ばし、観測器の温度を一定に冷やし続ける工夫をした。 名大研究チームは福島第一原発 2 号機でも同様の方法で調査しているが、今回は解像度が 3 倍ほど上がるという。 名大の中村光広教授は「これまでは検出器を地上に置いて観測してきた。 地下に設置する方法で、低い位置にある格納容器の底をどこまで精度よく観測できるか見極めたい」と話す。(月舘彩子、asahi = 9-1-16)

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「脱原発」求め都内で集会 四つの市民団体が呼びかけ

東京電力福島第一原発の事故から 5 年になるなか、脱原発を求める「原発のない未来へ! 全国大集会」が 26 日、東京・代々木公園で開かれ、渋谷駅周辺をデモ行進した。 主催者発表では、約 3 万 5 千人が参加した。 脱原発への政策転換を求める「さようなら原発 1,000 万人アクション」など、四つの市民団体が呼びかけた。 ステージでは、作家の澤地久枝さんが「5 年たっても福島の人たちはふるさとを追われたまま。 一人でも多く声を上げ、政権に示そう。」と訴えた。

集会には学生団体「SEALs (シールズ)」のメンバーも参加。 芝田万奈さんは「廃炉には莫大(ばくだい)な時間とお金がかかる。 判断力、想像力のない人たちに未来は託せない。」と述べた。 1 歳の長男とデモ行進に参加した東京都清瀬市の主婦稲村友美さん (33) は「たった 5 年で原発回帰が始まっているのは悲しい。 子どものためにも原発ゼロを訴えていかなければならない。」と話した。 (asahi = 3-26-16)

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原発事故時、自治体の SPEEDI 活用を容認 政府方針

政府は 11 日、原発事故時の住民避難などで、自治体の裁量をより広く認めて財政的にも支援する方針を示した。 放射性物質の拡散を予測する SPEEDI (緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム)の活用の容認などが柱だ。 原発再稼働に向けて地元自治体の理解を得る狙いがある。 原子力関係閣僚会議で、全国知事会の 19 項目の要望への回答をまとめた「原子力災害対策充実に向けた考え方」を決定。 16 年度中に防災基本計画を修正する。

SPEEDI をめぐっては、原子力規制委員会は放射性物質の放出が予測と現実では異なり、かえって被曝(ひばく)量が増える危険をはらむとして、住民避難の判断には使わないことを決めている。 だが、自治体側には活用を求める声が多く、今回の回答では、自治体の責任で活用することは「妨げない」と容認した。 被曝して甲状腺がんになるのを防ぐ「安定ヨウ素剤」を、5 - 30 キロ圏でも事前に配ることも明記。 いずれも国が財政支援する考えを示した。 (川田俊男、asahi = 3-11-16)

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原発事故避難住民「帰れないと思う」 38% 共同調査

朝日新聞社と福島大学の今井照(あきら)教授は、東京電力福島第一原発事故で避難した住民に共同調査をした。 38% が事故前に暮らしていた地域に「もう帰れないと思う」と答えた。 5 年間に及ぶ避難生活で、帰還への希望が薄れている実態が浮かんだ。 調査は 5 回目で、これまで調査に応じた対象者 398 人にアンケートを送り、21 都府県の 225 人が答えた。 住まいの内訳は、仮設住宅が 65 人 (29%) で最も多く、新たに購入した家が 52 人 (23%)、借り上げ住宅が 47 人 (21%) と続く。事故前の自宅に戻った人も 36 人 (16%) いた。

避難中の人に帰還の意向を聞くと、「元のまちのようになれば帰りたい」が 41% で最も多かった。 「元のまちに戻らないから帰りたくない」が 25% で続いた。 何年たてば帰れる環境になるかについては「もう帰れないと思う」が 38%。 「5 年以内」が 22%、「10 年以内」が 17% と続き、「21 年以上」も 14% いた。 (根岸拓朗、伊沢健司、asahi = 3-10-16)

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避難前提の発電、あまりに大きいリスク 高浜再稼働

住民の避難を前提とする発電施設は本当に必要なのか - -。 川内原発 1、2 号機に続く高浜原発 3 号機の再稼働は、「核」とどう向き合うべきなのかという問いを改めて私たちに突きつけている。 しかも、高浜原発では事故に備えた避難の計画や訓練も十分とはいえない。 福島の事故で崩れたはずの「安全神話」が息を吹き返している。

大飯原発 3、4 号機の運転差し止めを命じた福井地裁判決(2014 年 5 月)は「生命を守り、生活を維持する人格権」を根源的権利と位置づけ、原発の稼働より優先されるべきだとした。 関西電力が控訴し、判決は確定していない。 だが、命や暮らしに甚大な被害をおよぼす可能性が万に一つでもあれば原発を動かすべきではないという視点は、日本が福島の事故から学んだ教訓といえる。

その事故から間もなく 5 年。 今も放射線で汚染された故郷へ帰れない人たちがいる。 4 月に発生から 30 年になる旧ソ連のチェルノブイリ事故でも住民が健康不安を抱え、廃炉も終わっていない。 地震や人為的ミスでひとたび核災害が起きた時の現実を、私たちは目に焼き付けてきたはずだ。 制御が難しい「核エネルギー」で湯を沸かし、発電する。 そのリスクは人類にとってあまりに大きい。(核と人類取材センター事務局長・副島英樹、asahi = 2-1-16)

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核のゴミ、見えぬ行き先 最終処分場、19 道府県すでに拒否 朝日新聞調査

原子力発電所から出る高レベル放射性廃棄物をめぐり、4 割の 19 道府県がすでに最終処分場の立地を受け入れない方針を固めていることが、朝日新聞の調査でわかった。 岩手、岐阜、高知、熊本など 15 府県は選択肢から「受け入れない」を選び、明確に拒否した。 北海道、新潟、岡山、宮崎の 4 道県は「その他」を選んだが、記述欄で事実上拒否する考えを示した。 残りの 6 割は未検討や情報収集中などで、「検討する余地はある」を選んだ都道府県は一つもなかった。

高レベル放射性廃棄物の最終処分は原子力発電環境整備機構 (NUMO) が担い、地下 300 メートルより深い地層に埋める。 政府は昨年 5 月、公募方式から国主導で処分地を選ぶ方式に転換する基本方針を閣議決定。 年内に処分に適した「科学的有望地」を示す方針だが、関連法は知事と市町村長の意見を聴いて十分に尊重するよう定めており、知事が拒否すれば立地は極めて困難になる。

調査は 47 都道府県に対し昨年 12 月下旬 - 今月上旬に実施。 「受け入れる」、「受け入れを検討する余地はある」、「受け入れない」などの選択肢を示し、理由とともに書面で回答を得た。 明確な拒否は地方に多く、原発立地県は北海道、福島、新潟、石川、福井が拒否の姿勢。 都市部では態度を明確にしない回答が目立つ。 自治体側の拒否感は強いが、経済産業省資源エネルギー庁の放射性廃棄物等対策室は「まずは有望地を示し、国民に関心を持ってもらうことに意義がある。 すぐに自治体に受け入れの判断を迫るわけではない。」と説明する。

原発立地県、強い抵抗感

NUMO が公募を始めた 2002 年以降で唯一、07 年に手を挙げた高知県東洋町では、その後、非難が集中して町長が落選。 応募は撤回された。 以来、正式に応募した自治体はない。 高知県は今回、「受け入れない」を選び、「南海トラフ地震対策を抱え、最終処分場を安全に運営する余力はない」と説明した。 原発立地県の回答には強い抵抗感がにじむ。 北海道電力泊原発がある北海道は 00 年制定の条例で、高レベル放射性廃棄物の持ち込みは「慎重に対処すべきであり、受け入れ難い」とうたう。 道は「この条例を順守しなければならないと考えている」と回答した。

東京電力柏崎刈羽原発がある新潟県は「首都圏への電力供給のため原発を抱え、一定の社会的責任を果たしている」、「県民感情からしても応じられない」とした。 北陸電力志賀原発がある石川県も「原発の立地を通じて国の政策に貢献している」、「電力を消費している地域を優先すべきだ」と政府に釘を刺した。 電力を大量消費する都市部で受け入れの可否を明示しない回答が目立った。 東京都は「国が最終的に判断していくべきもの」、大阪府も「国の責任で判断し、決定すべきである」と答えた。

00 年設立の NUMO は電力会社が事業費を出し、説明会を開くなどしてきた。 自治体が調査対象になると、文献調査に年 10 億円(最大で 20 億円)、ボーリング調査などをする概要調査に年 20 0億円(最大で 70 億円)の交付金が出る。 政府主導で有望地を示す手法に「一方的に有望地をマッピングして発表することは、既成事実化につながり、理解できない(香川県)」などと反発する回答もあった。 (土屋亮、小田健司)

沿岸の海底下、推す声も

経産省の作業部会は科学的有望地の基準作りを 14 年 12 月から開始。 昨年 12 月にまとめた中間整理では、火山や活断層の近くや侵食、隆起が見られる場所を除いたうえで、港に近い沿岸部を「より適性の高い」地域とした。 沿岸部の海底の地下については、専門家の一部に有力視する声もあり、技術的課題を洗い出す研究会の初会合が 26 日開かれた。

初会合では NUMO の担当者が、沿岸部や島に設けた入り口から斜めにトンネルを掘り、海底下の処分場までつなぐ例を示した。 海水の影響や地質に関するデータが少ないとの懸念も出された一方で、「地下水の流れが緩やかで非常にいい」との意見も出た。 高レベル放射性廃棄物は温度や放射能が下がるまで数万年 - 10 万年保管する必要があり、処分場は地盤や地下水が長期間安定していることが求められる。 海底の地下を含む沿岸部は、一般に地下水の流れが緩やかとされ、廃棄物の陸上での輸送が短くてすむが、経産省の担当者は「あくまでワン・オブ・ゼムの選択肢」と強調する。

有望地は、処分場としての適性を 3 段階に色分けして地図上に示すことが想定されている。 公表後、国が複数の自治体に選定に向けた調査を申し入れ、20 年ほどかけて絞り込んでいく流れだ。 選定手続きには自治体や住民の理解が欠かせないが、有望地公表から調査申し入れまでの期間や進め方など具体的なプロセスははっきり示されていない。 (北林晃治)

なぜ造る、国は説明を

西尾漠・原子力資料情報室(NPO 法人)共同代表の話 : そもそも高レベル放射性廃棄物を地下深くに埋めるのが最善か、というところから政策を吟味する必要がある。 何かあれば取り出しが容易な半地下程度の施設で長期に貯蔵する方が熱や放射能が下がり、好ましいという専門家もいるからだ。 国はなぜ最終処分場を造らなければならないのかを国民に丁寧に説明していない。 そこから改めるべきではないか。現状では、多くの国民が知らないまま、財政難の自治体に、国がお金と引き換えに押しつけて終わりになる恐れがある。 (asahi = 1-27-16)

キーワード

<高レベル放射性廃棄物> 原発で使われた核燃料(使用済み核燃料)を再処理して出る廃液で、日本ではガラスで固めて金属容器に入れた「ガラス固化体(高さ約 1.3 メートル、重さ約 500 キロ)」にして処分する。 これまで国内で使われた核燃料をすべて再処理すると、約 2 万 5 千本に相当する。 再処理された一部が青森県六ケ所村と茨城県東海村の再処理施設で貯蔵保管されている。

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「核のごみ」最終処分地 佐賀は方針示さず

共同通信調査 21 道府県は事実上拒否

原発から出る高レベル放射性廃棄物(核のごみ)の最終処分地選定をめぐり、13 府県が候補地に選ばれても一切受け入れる考えがないことが 28 日、共同通信の調査で分かった。 8 道県も受け入れに否定的で、全体の半数近い 21 道府県が事実上拒否の姿勢を示した。 「検討する段階にない」など方針を明確にしなかったのが 24 都府県、「情報収集から始め、受け入れの可否を慎重に検討する」が 2 県、受け入れに前向きな自治体はなかった。

玄海原発(東松浦郡玄海町)を抱える佐賀県は、最終処分地に選ばれた場合の対応について、「科学的有望地をどのように示していくかも決まっていないということであり、仮定の話に答えることは難しい」と回答した。 選定に関し「不安に感じる点」や「設置すべきと考える地域」、「提示方法」などの質問には、具体的な選択肢は選ばず、「最終処分を含めたエネルギー政策は、国が責任を持って決めるべきこと」との趣旨を答えた。

政府は 5 月、処分地選びを自治体の公募に頼る方式から、国が主導して有望地を提示し自治体に調査の受け入れを求める方式に変更。 今後、候補地として適性が高い地域(科学的有望地)を示す方針だが、選定の難しさがあらためて浮き彫りになった形だ。 「一切受け入れない」とした 13 府県のうち 4 県は原発立地県。 全国最多の原発がある福井県は「発電は引き受けたが、ごみまで引き受ける義務はない」と指摘、石川県は「電力を大量に消費する地域を優先すべきだ」との見解を示した。

2007 年に文献調査に全国で初めて応募し、その後撤回した東洋町のある高知県は「受け入れる余地はない」と回答。 当時、県議会が東洋町の応募に反対の決議をした隣の徳島県も「方向性は変わらない」と答えた。 「受け入れは難しい」などと回答した 8 道県では、使用済み核燃料再処理工場がある青森県が「最終処分地にしない確約を国から得ている」と強調。 核のごみを地下に埋める「地層処分」の研究施設がある北海道も、道条例を理由に受け入れには否定的な立場だ。

国が前面に立ち責任を持って対応するよう求める声が目立つ半面、不安な点(複数回答可)では 10 県が「国の押しつけによる立地」を挙げた。 「風評被害」、「施設の安全性」がもっとも多く 20 0県、「地震や火山などの自然災害」が 17 県だった。 調査は 20 月下旬から 11 月上旬にかけ書面で行い、全都道府県から回答を得た上で担当者に電話で追加取材した。 (佐賀新聞 = 11-29-15)

核のごみ最終処分

原発の使用済み核燃料を再処理してプルトニウムなどを取り出した後に残る廃液を、ガラスと混ぜて管理・処分に適した「ガラス固化体」にする。極めて強い放射線を出すことから高レベル放射性廃棄物と呼ばれる。

地下 300 メートルより深い位置に埋める「地層処分」方式で、約 10 万年にわたり生活環境から隔離し、放射能を低減させる必要がある。 廃棄物は金属製容器に閉じ込め、さらに粘土の緩衝材で覆って、地中に放射性物質が漏れ出さないようにする。 国内には約 1 万 8,000 トンの使用済み核燃料があり、ここから最終的に出る高レベル廃棄物は、既に再処理した分も含めるとガラス固化体換算で 2 万 5,000 本相当になる。

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もんじゅの運営見直しを勧告 原子力規制委、馳文科相に

原子力規制委員会は 13 日、高速増殖原型炉「もんじゅ(福井県)」の運営を見直すよう、所管する馳浩文部科学相に勧告した。 文科省は半年をめどに、日本原子力研究開発機構に代わる新たな運営主体を示すか、もんじゅのあり方の抜本的見直しを迫られる。 田中俊一委員長から勧告文を直接受け取った馳文科相は、「我が国の基本政策に関わる問題も内包しており、関係省庁と連携を取りながら取り組みたい」と新たな運営体制の検討を急ぐ意向を示した。

ただ、国内に高速増殖炉の運転経験のある組織は機構以外にない。 田中委員長は勧告後の会見で、「勧告に至ったのは原子力機構ではダメだと判断したから」と話し、機構の組織改編などでは抜本的な見直しと認めない考えを強調した。 国の核燃料サイクル政策の中核だったもんじゅの廃炉が現実味を帯びてきた。 (asahi = 11-13-15)

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もんじゅに異例の勧告案 規制委、運営主体の交代求める

原子力規制委員会は 4 日、高速増殖原型炉「もんじゅ(福井県)」を安全に運転する能力が日本原子力研究開発機構にはないとして、新たな運営主体を明示するよう馳浩文部科学相に勧告すると決めた。 文科省は運転再開を目指す姿勢を変えていないが、機構に代わる主体を見つけられなければ、もんじゅのあり方を抜本的に見直すことを迫られる。 核燃料サイクル政策の是非論が高まる可能性もある。

「停止中でさえ安全管理する能力が欠如している。 もんじゅの運転を任せるべきではない。」 規制委はこの日の定例会で、原子力機構を「不適格」とする見解で一致した。 勧告の内容を来週正式決定し、半年をめどに結論を報告するよう求める考えだ。

規制委が発足以来初となる異例の勧告に踏み切ったのは、2012 年に約 1 万点の機器の点検漏れが判明した後、「未点検を解消した」などと報告しながらも、新たな点検不備を繰り返しているからだ。 指摘された保安規定違反は 8 回を数え、今年 8 月には点検計画の前提となる機器の重要度分類自体の誤りが判明。 「なぜ誤ったのか、聴いても答えられない状況だった。(原子力規制庁幹部)」

13 年に運転再開準備を禁止する命令を出したにもかかわらず、事態は一向に改善されない。 規制委は、1995 年のナトリウム漏れ事故から 20 年間、組織改編や改革を重ねたにもかかわらずトラブルを繰り返してきた歴史的、構造的な問題に切り込む必要があるとの見方を強めていった。

もんじゅは研究開発目的の炉だが、出力 28 万キロワットと小型の原発並みの規模を持ち、水と激しく燃焼反応するナトリウムを冷却材として大量に使っている。 技術的にも安全を確保するのが難しく、撤退した国も多い。 「運営や管理は世界最高水準でなければいけないのに、現時点は平均値以下だ」との指摘が規制委員から出たこともある。

原子力機構を所管する文科省への視線も厳しい。 10 月の規制委会合で「不備は続いているが、内容は改善している」とかばった田中正朗研究開発局長に対し、田中俊一委員長は「当事者になり切っている。 監督官庁として冷静に判断して欲しい。」と突き放した。 4 日も「今回の違反だけでなく、長年の経緯で判断する。 解決のゴールが見えないことの本質的な問題を文科省は認識するべきだ。」と語った。 (東山正宜、asahi = 11-5-15)

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海の前、巨大な壁 防潮堤の建設進む 東日本大震災 5 年目

太平洋を望む東北の海岸線で、防潮堤の建設が進んでいる。 岩手、宮城、福島の 3 県で総延長約 400 キロ、総工費は 1 兆円ほど。 津波への備えとはいえ、徐々に姿を現す巨大なコンクリートの壁に、住民からは戸惑いの声も上がる。

縦 60 センチ、横 1.5 メートルの景色

宮城県気仙沼市の気仙沼港。 その南側で建設中の防潮堤には、一定間隔で「窓」が付いている。 縦 60 センチ、横 1.5 メートル。 完成時、全体の高さは 6.4 メートルなので、ずいぶん小さく見える。 当初の計画にはなかったが、地域の人から「海が見えなくなる」と指摘され、あけることにした。 今後、厚さ 3.5 センチのアクリル板を埋め込むので、水は通さない。 近くの工場に通う男性 (59) は「海を見るための窓なんですか。 津波が来た時に水が流れて、圧力を逃がすための穴だと思っていた。」と驚いていた。 (福留庸友、asahi = 9-21-15)

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「原発は環境汚染産業」 小泉元首相、再稼働を批判

小泉純一郎元首相 (73) が朝日新聞の単独インタビューに応じ、川内原発 1 号機が営業運転を再開するなど原発再稼働の動きが進んでいることについて、「間違っている。 日本は直ちに原発ゼロでやっていける。」と語った。 政府や電力会社が説明する原発の安全性や発電コストの安さに関して「全部うそ。 福島の状況を見ても明らか。 原発は環境汚染産業だ。」と痛烈に批判した。

小泉氏は首相在任中は原発を推進してきたが、東京電力福島第一原発の事故後、原発の危険性を訴え講演活動を続けている。 小泉氏が報道機関のインタビューに応じるのは、2006 年 9 月の首相退任以来初めて。 インタビューは原発問題をテーマに 9 日、東京都内で行った。

小泉氏は、07 年の新潟県中越沖地震や 11 年の東日本大震災など、近年、日本で大きな地震が頻発していることから「原発は安全ではなく、対策を講じようとすればさらに莫大(ばくだい)な金がかかる」と主張。 原発が温暖化対策になるという政府の説明についても、「(火力発電で発生する) CO2 (二酸化炭素)より危険な『核のゴミ(高レベル放射性廃棄物)』を生み出しているのは明らかで、全然クリーンじゃない」と語った。 (関根慎一、冨名腰隆、asahi = 9-12-15)

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農作物のセシウム吸収半減 硫酸塩を土壌に、岡山大

東京電力福島第 1 原発事故で放出された放射性セシウムに汚染された畑などに、硫酸塩の一種「中和シュベルトマナイト」を混ぜると、土壌から農作物へ移行、吸収されるセシウムの量を半減させられることを岡山大大学院の石川彰彦准教授(医薬品化学)らのチームが発見した。 チームは、原発事故で耕作ができなくなった土地などで活用できるようにしたい、としている。 シュベルトマナイトは、鉱山跡地などの水質を保全する処置をした際に発生する。 酸性のため、石灰を混ぜて中和した「中和シュベルトマナイト」は、土壌にミネラルを供給する農業用資材として商品化されている。

チームは 2014 年から、福島市内の畑でイネやサツマイモ、カブなどを育て、中和シュベルトマナイトを混ぜた土地と混ぜない土地で、セシウムの農作物への吸収を比較。 その結果、混ぜた土地では吸収割合が半分程度になった。 吸収が抑えられる仕組みは分かっておらず、研究を続ける。 シュベルトマナイトは河川などの水からヒ素や鉛を吸収することが知られている。 石川准教授は「原発事故による汚染に苦しんでいる農家の助けになれば」と話す。 (kyodo = 8-9-15)

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自主避難者、進む定住 受け入れ先が積極支援 東日本大震災 5 年目

東京電力福島第一原発事故の被曝を避けるため、国の指示がなく自主的に避難した人たちが、戻らずに定住する動きが広がっている。 人口が減るのをくい止める対策の一環として積極的に迎え入れる自治体もある。 政府も定住する人々への支援を重視していく構えだ。 一方、住民の帰還を待つ福島県の思いは複雑だ。

鳥取、住宅提供を延長

福島第一原発から 640 キロ離れた鳥取市。 矢野千代実さん (52) は 2011 年 7 月、避難指示が出ていない福島県会津坂下(ばんげ)町から、夫と 3 人の子どもと逃れてきた。 「福島から遠い場所なら、放射能で汚染された食品は入りづらいはず」と考えて鳥取市を選んだ。 いまは県営住宅に入り、定住すると決めている。

復興庁などによると、鳥取県内には、福島からの避難者が約 100 人いる。 震災直後から、東北に縁のあった人々が被災者を支えてきた。 当初から応援してきた「とっとり震災支援連絡協議会」の川西清美代表 (66) らが真っ先にやったのは、東北の人たちになじみの深い芋煮会。 今も月 1 回、地元の人たちとの交流会を開く。 川西さんは「帰還か定住かは、それぞれの考えを尊重しなければなりませんが、せっかくなら避難している人たちに鳥取を好きになってもらいたい。 帰還すると聞くと少し寂しい気もします。」と話す。

福島県から県外に避難している人は、強制避難者を含め今も約 4 万 5 千人いる。 昨年 3 月までの 1 年間では約 16% 減ったが、その後の 1 年では 2% 弱しか減らなかった。 こんな現実のもと、鳥取県は今年 2 月、自主避難者を含めた被災者への住宅の無償提供を 19 年 3 月まで延長すると決めた。 福島県が自主避難者向けに定めた無償提供期間より 2 年長い。 費用は鳥取県が独自に負担する。 県の担当者はその目的を「まずは避難者の不安を和らげるため。 そして、いずれは定住につながるのでは、という狙いもあります。」と率直に語る。

岡山、下見ツアー実施

7 月 12 日、岡山県が東京・有楽町で開いた「定住フェア」。 田舎暮らしにあこがれる人たちのほか、原発事故の影響を心配する人たちが多く集まった。 福島県ではなく、元々首都圏に住む人も多い。 132 組が訪れ、小さな子どもを連れた母親が目立った。 岡山市で避難者を支援している「うけいれネットワークほっと岡山」の服部育代事務局長 (43) は、会場で 7 人から相談を受けた。 「全員、放射能を心配する関東の人でした。 経済的な理由で移住できずにいても、4 年間たまった不安に、こらえきれなくなった人が多かった。」と話す。

なぜ岡山なのか。 岡山市の移住・定住支援室の見川彰彦室長によると、震災直後にある雑誌で、岡山は自然災害が少なく交通の便がいいと紹介され、口コミで人気が広まったという。 「市長も避難者を『おもてなしの精神で迎えよ』と指示しています。 移住を考えている人には下見ツアーも実施しています。」 6 月時点で、岡山県には 1,141 人の避難者が住んでいる。 福島、宮城、岩手の被災 3 県からは 392 人だけ。 首都圏からの自主避難者が多い。 最大の受け皿の岡山市では、12 年の年間の転入超過数が震災前の 10 倍に達している。

福島「帰還、強制するわけには」

鳥取や岡山が定住支援を進めやすいのは、被災地から遠いという理由もある。 つながりの深い、福島県と隣接する県の震災担当者は「避難者を奪い取るような政策は被災自治体との関係を崩す」と心配する。 しかし、そんな配慮も不要になるかもしれない。 政府は帰還が進まない実情を踏まえ、今月にも自主避難者に対する「子ども・被災者支援法の基本方針」を改める。 その中には「いずれの地域かにかかわらず、定住支援に重点を置く」との一文を盛り込む。 定住して避難者でなくなれば、支援に一定のめどが付けられるという国の思惑がにじむ。

県外の避難先で定住が進むと、福島県は大幅に人口が減ることを覚悟しなければならなくなる。 鈴木正晃副知事は慎重に言葉を選びながら言う。 「県は帰還を前提に避難者を支援しているが、強制するわけにはいかない。 これまで避難者を受け入れてくれた自治体には感謝しており、定住促進策をやめてほしいとは言えない。 この問題は本当に悩ましい。」 (編集委員・大月規義、asahi = 8-3-15)

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<原発事故の自主避難者> 政府が強制的に立ち退きを命じた約 8 万人の避難者のほかに、被曝を避けようと自主的に避難した人たち。 福島県の昨年末の推計で、約 2 万 5 千人いる。 うち 2 万人が県外にいるとみられる。 避難先の住宅の家賃は、強制避難者と同じく災害救助の予算が適用され無料だったが、県はこの支援制度を 2017 年 3 月で終える予定。

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放射性廃棄物 輸送容器 ボルト破損 4 カ月超報告せず

原燃輸送(東京)は 27 日、低レベル放射性廃棄物を海上輸送する際に使う金属製容器のふたを固定するボルト計五本が折れているのが見つかったと発表した。 同社は輸送中に折れたケースはないと説明し「環境への影響はなかった」としている。 国土交通省は 27 日、原燃輸送に対し、安全が確認されるまで低レベル放射性廃棄物を輸送しないよう命じた。 同社が輸送を独占しているため、全国の原発から当面、運び出せなくなる。

国交省によると、原燃輸送は 2 月にボルトが折れていたことに気付いたが「特異な事例」と判断して 4 カ月以上、同省に報告していなかった。 国交省や原燃輸送によると、同社は 2 月、青森県六ケ所村の保管施設で空容器を点検中、一個の容器に付いているボルト 4 本のうち 1 本が折れているのを確認した。 今月 22 日にも、関西電力美浜原発(福井県美浜町)で輸送の準備中に 1 本折れているのを見つけた。 同 25 日に六ケ所村の保管施設でも一本の破損を発見。 他の容器を点検したところ、新たに 2 本折れているのが見つかった。

容器は 200 リットルのドラム缶 8 本を収納。 原燃輸送は全国の原発から年間でドラム缶約一万本を運んでいる。 国交省は「年間の輸送回数は 10 回程度」としている。 原燃輸送は 2009 年 4 月、容器のボルトが緩んでいたケースがあったとして、国交省から厳重注意を受けた。 低レベル放射性廃棄物は、原発で使用した作業着や機器などをセメントなどで固めたもの。ドラム缶の中に密閉し、専用の容器で運ぶ。 (東京新聞 = 6-28-15)

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原発問題「選挙で言ったこと忘れたのか」 小泉純一郎氏

原発事故後、政府も原発依存度をできるだけ低く、低減させると言っていた。 それが今、これからも原発依存度を 20% 程度維持しなきゃならんと。 認めちゃ駄目だ。 原発を維持したいために、自然再生エネルギーが拡大していくのを防ぐ意図としか感じられない。 選挙で言ったことを、もう忘れちゃったのか。

核燃料を燃やした後のゴミ(使用済み核燃料)をどうするのか。 依然として(最終処分場が)見つからない。 再稼働すればどんどん増えていく。 せめてもう一切増やしません、出しません。 これまでのゴミ、そのための処分場は国民(に)協力してくれということじゃないと、各地域の住民は了解してくれない。 ゴミの捨て場所を見つけない限り、産業廃棄物業者は作ることができない。 核のゴミは産廃以上に危険だ。 捨て場所がないのに国はなぜ(再稼働を)許可するのか。 捨て場所を九州電力は確保しているのか。(鹿児島市のホテルで行った講演、会見で、asahi = 6-4-15)

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原発高レベル廃棄物 最終処分地「国が提示」

政府は 22 日の閣議で、原発の使用済み燃料など核のごみ(高レベル放射性廃棄物)を埋設する最終処分場について、政府が有望な地域を示して自治体に地盤などの調査を申し入れる方針を決めた。 これまで受け入れ自治体に手を挙げてもらう方式だったが、10 年以上たっても決まらないため方針転換する。 しかし、政府の原子力政策は信頼を失ったままで、申し入れを受けた自治体や住民の反発は必至だ。

最終処分場を決めないまま原発を推進してきた国の政策は「トイレなきマンション」と批判され、東日本大震災後の 2013 年には小泉純一郎元首相が脱原発を主張する理由に挙げ注目が集まった。 方針転換の背景には「最終処分場がないまま原発を推進するのは無責任」との批判をかわす狙いがあるとみられる。

経済産業省が放射性物質が漏れる心配が少ないと判断した複数の地域を選定。 原子力の開発や利用を促進するための内閣府の機関、原子力委員会が「お墨付き」を与える。 その上で住民と意見交換する場を設け、合意が得られた自治体に地盤などの調査を申し入れ最終的に一カ所に絞る考えだ。 しかし、候補地を選ぶ時期については宮沢洋一経産相は閣議後の記者会見で「いつまでに(有望地域を示す)というスケジュールはない」と説明した。

原発で使い終わった燃料は、プルトニウムなどを取り出した残りを「核のごみ」として地下 300 メートル以上に 10 万年にわたって安置する「地層処分」にすることが 2000 年に決定。 02 年からは電力各社からの出向者が中心の「原子力発電環境整備機構 (NUMO)」が処分場候補の自治体を公募してきた。 07 年に高知県東洋町が応じたが住民の反対で撤回。 ほかに公募に応じた自治体はない。 このため経産省は 13 年 11 月に国が主導する方針に転じ、有識者会合で手続きの細部を詰めてきた。

東京電力福島第一原発事故以降、国の原子力政策に対する信頼は失墜したまま。 有識者会合委員を務める原子力資料情報室の伴英幸(ばんひでゆき)共同代表は「『お墨付き』を与えるのが原発を推進する原子力委員会になってしまったこともあり、有望地に選ばれた住民の理解を得るのは難しい」と話している。 (東京新聞 = 5-22-15)

<高レベル放射性廃棄物> 原発の使用済み核燃料からプルトニウムなどを回収し、残りをガラスで固めた「核のごみ」の一種。 数万年にわたって強い放射線を出す。 現状では各原発の燃料プールに保管しているが、1 万 7,000 トン分に達し、限界に近づきつつある。 最終処分場が決まっているのは世界でスウェーデン、フィンランド、フランスの 3 カ国だけで、ほかの原発保有国の多くが処分に頭を悩ませている。 廃炉になった原発から出る部品や、福島第一原発事故の除染作業で出る比較的低いレベルの「核のごみ」は、種類により、処理方法が異なる。 こちらも処分場はほとんど決まっていない。

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