=== 放射性物質による被害 2 (p) ===

福島第一で内部被曝か 東電社員 2 人、全面マスク・防護服着用せず

東京電力は 22 日、福島第一原発で、設備の修理にあたっていた 40 代の男性社員 2 人が内部被曝(ひばく)した疑いがあると発表した。 本来は顔を覆う全面マスクや防護服を装着して作業すべきだったが、防塵(ぼうじん)マスクや作業服といった簡易な装備で作業していたという。 東電によると、2 人は医師の診察を受け、異常はなかった。 今後 50 年間の内部被曝線量は記録する必要がある 2 ミリシーベルトを大幅に下回ると推計している。 尿を測定して詳しく調べるという。

2 人は 19 日午前 10 時過ぎから約 1 時間半、同僚 2 人と、汚染水に含まれる放射性物質を取り除く設備につながる配管を交換。 このとき、配管内に付着していた放射性物質を体内に取り込んだ可能性があるという。 作業後の検査で、2 人の鼻の内側から放射性物質が検出された。 同僚 2 人の作業服からも放射性物質が検出されたが、体内への取り込みはなかったという。 東電は「本来は全面マスクなどを装着する区域として、作業すべきだったと反省している」と説明している。 (川村剛志、asahi = 11-22-21)

◇ ◇ ◇

福島第一原発の処理水、海洋放出の基本方針決定へ

東京電力福島第一原発にたまる処理済み汚染水の処分方針について、政府は 13 日にも関係閣僚らによる会議を開く見通しになった。 放射性物質の濃度を、法令の基準より十分低くした処理水にしたうえで、海洋放出する基本方針を決定する見込みだ。 処理済み汚染水の処分方針が決まれば、初めてとなる。

海洋放出には、漁業者らの反発が根強く残っている。 菅義偉首相は 7 日に首相官邸で全国漁業協同組合連合会(全漁連)の岸宏会長と面会。 理解を求めた後で、方針について「近日中に判断したい」などと述べていた。 処理済み汚染水は 1 千基以上のタンクに約 125 万トンが保管されている。 2022 年秋以降には確保したタンクが満杯になる見込みで、政府は処分方針の決定を「いつまでも先送りはできない」などと説明。 昨年 10 月に関係省庁による会合を開き、処分に伴う風評被害対策の検討を一層深めることなどを確認していた。 (asahi = 4-9-21)

◇ ◇ ◇

福島原発事故「健康に影響与える可能性低い」国連報告

【ウィーン = 細川倫太郎】 原子放射線の影響に関する国連科学委員会 (UNSCEAR) は 9 日、東日本大震災による東京電力福島第 1 原子力発電所事故の影響を分析した 2020 年版報告書をまとめた。 被曝が健康に直接影響を与える可能性は低いと結論付けた。 小児の甲状腺がんの増加は、被曝が原因ではないとも指摘した。 UNSCEAR は論文や調査を検証し、被曝による健康への影響の科学的根拠をまとめている。 今回は前回 13 年版の報告書作成時よりも多くのデータを基に分析した。

報告書は、原発周辺地域から避難した住民で事故後 1 年の実効線量は大人で最大 5.5 ミリシーベルト、1歳児で同 7.8 ミリシーベルトになると推定した。 被曝線量が 100 ミリシーベルト未満なら、明らかな健康被害はみられないとされる。

甲状腺がんとの関係では、子どもや胎児を含めいずれの年齢層でも、被曝によるがんの増加は見られそうにないと強調した。 診断例が増加しているのは、高精度のスクリーニング検査によって「これまでに検出されなかった甲状腺異常の罹患率を明らかにしたにすぎない」などと説明した。 福島県は県内すべての子どもを対象に甲状腺検査を実施し、一部はがんやその疑いがあると診断されていた。 報告書は、原発の作業員についても、白血病やがんになるケースが増える可能性は低いと結論付けた。 UNSCEAR は日米欧など 27 カ国の科学者らで構成される。 (nikkei = 3-10-21)

◇ ◇ ◇

原発事故、国の責任認める 仙台高裁判決で初の判断

東京電力福島第一原発事故をめぐり、福島県内の住民や避難者ら約 3,700 人が国と東電に損害賠償などを求めた訴訟の控訴審判決が 30 日、仙台高裁であった。 上田哲裁判長は一審・福島地裁判決に続き、国と東電の責任を認め、一審の約 2 倍の約 10 億円の賠償を命じた。 国が被告となった原発事故の集団訴訟では各地で地裁の判断が分かれているが、高裁判決は初めて。 2018 年 10 月に始まった仙台高裁の審理でも一審に引き続き、事故を引き起こした津波の予見可能性が争われた。

原告は国が 02 年 7 月に公表した「長期評価」により福島県沖で津波地震が起きる可能性を指摘した点を踏まえ、国が津波を予見し、東電に安全対策を指示すれば事故を防げたとして、国と東電に約 280 億円の損害賠償などを求めた。 一方、国と東電は長期評価の信頼性は低いため津波は予見できず、国の指針による賠償額以上を支払う必要もないと主張した。 福島地裁判決は津波の予見可能性については原告の主張を認め、東電と国に計約 5 億円を支払うように命じた。 一方、原告が住んでいた土地の放射線量を事故前の水準に引き下げる原状回復請求や、原告のうち帰還困難区域などに住んでいた 40 人が求めた「ふるさと喪失」への慰謝料は認めず、原告・被告とも控訴した。

原告の弁護団などによると、これまでの原発事故をめぐる集団訴訟では、国が被告の 13 の訴訟で地裁判決が出た。 うち 7 地裁は津波の予見可能性を認めて国に賠償を命じる一方、6 地裁は予見可能性は認めつつも、国が東電に安全対策を指示しても事故までに間に合わなかったなどとして、国に責任があると認めず、高裁の判断が注目されていた。 (小手川太朗、飯島啓史、asahi = 9-30-20)

◇ ◇ ◇

福島第一原発から出たセシウムはどこへ みえてきた現実

2011 年の東京電力福島第一原発事故で、環境中に放出された放射性物質はどこへ行き、どう動いたのか。 長期にわたる調査研究が続けられている。 森林、河川、淡水魚。見えてきた特徴から、将来の姿を予測できるかもしれない。

森林の表土が「吸収源」に

事故で出た放射性物質のうち、行方が特に注目されているのがセシウム 137 だ。 放射能が自然に半分になる「半減期」は約 30 年と長めで、放出量も多かった。 福島第一原発がある県東部は森林が多く、陸地に飛散したセシウムのほぼ 7 割は森林に沈着したとみられている。 8 月下旬、日本原子力研究開発機構と筑波大の研究者らの案内で、同県浪江町の森林に入った。 原発から北西に約 20 キロ。 立ち入りが制限される帰還困難区域に含まれる。 空間線量率は毎時 7 マイクロシーベルト(昨年 11 月時点)。 最近の福島市街と比べると、50 倍を超える高さだ。

傾斜が急なスギ林に着くと、ハンモックのように張られた 1 メートル四方の白いネットや、木の幹に取り付けたホースにつないだタンクが置かれていた。 ネットは木から落ちる枝葉を、タンクは木の幹を伝って流れてくる雨水を集めるもので、これらを回収して放射能濃度を測る。 事故から 9 年半で住宅地や田畑は除染が進んだ一方、森林はほぼ手つかずだ。 森林に蓄積した放射性物質が人の生活圏に出てきて空間線量率が上がったり、食べ物に取り込まれたりしないか - -。 そんな懸念を受けて、原子力機構は 2012 年から、福島県内の森林や河川の調査を続けている。

セシウムは森林のどこにあるのか。 17 年、同県川内村のスギ林で分布を調べたところ、幹や枝葉に含まれるのは 2% にとどまり、残り 98% は土や地表に落ちている枝葉に集まっていた。 では、土や地表の枝葉に集まったセシウムはどこへ行くのか。 原子力機構や筑波大が 11 - 19 年、同県川俣町のスギ林で分布の推移を調べると、当初は地表の枝葉に多く含まれていたのに、年を追うごとに深さ 3 センチまでの土の割合が増えていった。一方、3 センチより深い土中の割合はあまり増えなかった。

理由について、原子力機構福島研究開発部門の飯島和毅・環境影響研究ディビジョン長は「地表の枝葉の層は分解されて溶け出すセシウムが多いが、土の層はセシウムが土に強く吸着して、下に動かない」と解説する。 土に含まれる粘土鉱物が、セシウムとくっつきやすい分子構造だからだという。「将来も表土にとどまり、森林がセシウムのシンク(吸収源)になるだろう」と飯島さんは話す。 森林に蓄積したセシウムは、ほとんど外に出ないこともわかってきた。 13 - 18 年に川俣町と川内村の森林で実施した調査では、降雨時などに水や土と一緒に流出するセシウムの量は、いずれの年も森林に沈着したうちの 1% 未満だった。

川では濃度急減

森林にたまったセシウムは川の濃度に影響を及ぼしている。 原子力機構が 15 - 17 年度、福島第一の北を流れる請戸川と太田川を調べると、川の水に溶けたセシウム濃度は半減期の約 10 倍速いペースで減っていた。 セシウムは森林の落ち葉などから「供給」されているとみられる。 その落ち葉などに含まれる量が減ったため、濃度の減少が速いと考えられるという。 2 河川とも、濃度は夏に高く、冬は低めだった。 夏は落ち葉などの分解が活発で、川に溶け出すセシウムが多くなるためとみられる。 ただ、濃度は飲料水基準(1 リットルあたり 10 ベクレル)より十分に低く、「飲料水、灌漑用水として問題ない(原子力機構の飯島さん)」という。

豪雨があると、セシウムがついた流域の土砂が川に流れこみ、海への流出が増える。 ただ、その流出量をダムが抑えていることもわかってきた。 原子力機構は、豪雨があった 15 年度、福島第一周辺の 7 河川で海への流出量を調べた。 水に溶けたり水中の土砂についたりした状態で川から海に流れ出たセシウム量を、流域の沈着量で割った流出率は、ダムのない 4 河川で 0.1 - 0.5% 台、ダムのある3河川は 0.1% 未満だった。 川の水はダムに入ると流速が急激に落ちて、セシウムが付着した土砂は沈んでダムの底にたまるからだという。

筑波大などのチームは、事故から 15 年夏まで、河川のセシウム濃度を継続的にモニタリングした。 その結果、水田、畑、都市域などの人間活動の影響がある地域から流出するセシウム濃度が大きく低下していることがわかった。 筑波大アイソトープ環境動態研究センターの恩田裕一センター長は「水田や畑などに利用されることで、地表面の高濃度のセシウムが、かき混ぜられて深い部分に移動する。 そのため川に流れていく濃度は低くなる。」と分析している。

重い魚ほど濃度が高い傾向

福島県内の川や湖でとれる淡水魚は、海水魚よりセシウム濃度が高い傾向がある。 川のセシウムは、多く蓄積する森林から少しずつ「供給」が続くため、隔てるものがなく拡散が進みやすい海と比べると、濃度の低下はゆっくりになるからだ。 実際、福島沖の魚介類はすべての魚種で放射性物質の基準値を継続的に下回り、出荷制限が解除されたのに、アユやイワナ、ヤマメなどの淡水魚は、県内の一部地域で出荷制限が続く。

魚種によって、セシウム濃度に違いがあることもわかってきた。 国立環境研究所福島支部の石井弓美子主任研究員(生態学)らは、県内の川や湖で淡水魚に含まれるセシウムのデータを分析。 川も湖も、魚の体重が重い魚種ほど、セシウム濃度が高い傾向があった。 例えば、南相馬市を流れる真野川では、比較的体重が重いコクチバスの方が、軽いドジョウに比べて濃度が高い傾向があった。

重い魚は、小魚を食べるなど食物連鎖の上位にあり、エサに含まれるセシウムがたまっていくことや、セシウムが体から排出される速度が遅いことが、理由として挙げられるという。 石井さんは「魚のセシウム濃度が環境中の何に影響を受けているかを詳しく知ることで、濃度の減り方の予測につなげたい」と意気込む。 (福地慶太郎、今直也、asahi = 9-7-20)

解説や資料、情報サイトで

原発事故で放出された放射性物質に関する情報は、原子力機構の「福島総合環境情報サイト」でまとめられている。 一般向けの分かりやすい解説から、モニタリングデータや研究論文など専門家向けの詳しい資料まで調べることができる。

出荷制限続く山の恵み

山間部の森林でとれる野生のキノコやコシアブラなど一部の山菜は、「1 キロあたり 100 ベクレル」という基準値を超える放射性物質が検出されることもあり、現在も福島県の多くの自治体で出荷制限が続いている。 畑や水田などの農地と違い、森林はほぼ除染されていないことが原因にあると考えられる。

◇ ◇ ◇

福島第一原発の処理水放出案、地元が懸念 国の意見聴取

東京電力福島第一原発にたまる処理済み汚染水の処分方法について、政府は 6 日、福島市内で地元首長ら 10 人から意見を聴く会を開いた。 海か大気中への放出を「現実的」とする経済産業省の小委員会の提言を受け、初めて開催した。 風評被害への懸念は根強く、放出に反対する声や補償を求める意見などが相次いだ。

約 120 万トンに達する処理済み汚染水は、多核種除去設備 (ALPS) などで二次処理をしても、トリチウムという放射性物質が取り切れずに残る。 提言は、薄めて海か大気に放出する 2 案に絞り込んだ上で、海の方が技術的には「確実に実施できる」と有力視。 政府が地元などの意見を聴き、風評対策も含めた処分方針を決めるよう求めた。

県漁業協同組合連合会の野崎哲会長は、国による水産物の出荷制限が 2 月に全面解除され、漁業の復興や世代交代にとって重要な時期にあると指摘。 「福島の漁業者として反対する立場を主張したい」などと述べた。 県森林組合連合会の秋元公夫会長も、事故の影響が今も続いているとして「新たな放射性物質の放出には反対」と表明した。

一方、県旅館ホテル生活衛生同業組合の小井戸英典理事長は放出による被害を「故意の加害行為による損失」と指摘。 放出が終わるまで損失補填などを講じるよう求めた。 飯舘村の菅野典雄村長らも賠償や補償などの対応を要望した。 内堀雅雄知事は国と東電に対し、「風評対策と正確な情報発信の 2 点に責任を持って取り組むことが重要」などと求めた。 東電は、風評被害には「適切に賠償対応する」との立場だが、具体的な条件などは明らかにしていない。

処理済み汚染水の処分をめぐっては、経産省小委が 2018 年 8 月に福島県で一般市民が参加できる公聴会を開いたが、トリチウム以外にも基準を超える放射性物質が残る水が大半だったことで、反発を招いた経緯がある。 政府は今回、意見を聴く対象を首長や団体の代表に限り、市民の参加を受け付けなかった。 今回の座長を務めた松本洋平・経産副大臣は「賠償も含め、意見は受け止めていきたい」と話した。 政府は来週以降も自治体首長らから意見を聴く予定。 放出に必要な設備の準備には 2 年程度かかるとされる。東電の現在の計画では 22 年夏ごろにタンクが満杯になる見込みで、今夏ごろが判断時期になるとみられている。 (asahi = 4-6-20)

◇ ◇ ◇

100 ミリシーベルトを神話にするな 3・11 から 8 年

福島第一原発事故を招いたのは、安全神話に依存した結果だった。 今また、100 ミリシーベルトという新たな神話が原子力ムラを徘徊しているようだ。

原発事故の影響についてよくいわれる言葉がある。
「100 ミリシーベルト以上被ばくした住民はいない。 100 ミリシーベルト未満なら放射線の影響は考えにくい。」
だが、その説明が揺らいでいる。

1 号機が爆発した 2011 年 3 月 12 日午後 3 時半すぎ。 福島県双葉町で 11 歳の少女が友だちと屋外で遊んでいた。 放射線医学総合研究所が少女の被ばく線量を 100 ミリシーベルト程度と推計していた。 本紙が今年 1 月に報じた。

避難開始は早く

旧ソ連のチェルノブイリ事故では未成年者の甲状腺がんが多発した。 原因は主に放射性ヨウ素 131 だが、半減期が 8 日と短い。 国が行った調査は 11 年 3 月下旬で、対象は 30 キロ圏外にいた 15 歳以下の 1,080 人。 避難が遅れた人の存在は無視された。 旧ソ連はチェルノブイリ原発事故で数十万人を調べたという。 実測だけではない。 被ばく線量の推定も難しかった。 東大や国立環境研究所などの研究チームが福島県などに設置された浮遊粒子状物質 (SPM) 計に使われていたテープ濾紙を 101 カ所から集め、精緻な方法でヨウ素 131 の挙動を調べることに成功し、発表した。

研究では同県内全市町村と、18 通りの避難ルートについて、一歳児の被ばく線量を推定した。 呼吸だけで、食事や飲料水による摂取は含まれていない。 爆発が起きた 12 日に双葉町の屋外にいて、同日夜、避難を始めたケースは、最大 86 ミリシーベルトだった。 避難開始時間や避難ルートによって被ばく線量は変わるが、少女や友だちが大量被ばくした可能性は高い。 双葉町は国や東京電力からの情報がなく、避難が遅れた。 井戸川克隆町長(当時)は町民の避難を進めている最中に爆発が起きたと本紙に語っていた。 100 ミリシーベルト以上の被ばくをした住民がいるかもしれない、と考えるべきである。

少量でもリスク

健康への影響はどうだろうか。 米国立がん研究所は一昨年、小児甲状腺がんに関しては被ばく線量が 100 ミリシーベルト以下でもリスクがある、という論文を出した。 50 ミリシーベルトの被ばくでは、被ばくしていない人に比べるとリスクが 1.5 倍になる。 医療被ばくは近年、世界的な関心事である。 被ばくのマイナスより早期発見など、医療上のプラスの方が大きいとして制限は設けられていない。

厚生労働省は一昨年、「医療放射線の適正管理に関する検討会」を設置した。 海外の研究を基に、(1) 被ばくの影響は年齢によって多少、差があるが、相対的リスクは 20 歳未満が高い、(2) 皮膚がん、乳がん、脳腫瘍、甲状腺がんは影響が強い - という。 医療機器による被ばく量は結構、大きい。 コンピューター断層撮影 (CT) 検査は一回で 10 ミリシーベルト程度被ばくする。 低線量でもがんになるリスクがあることを前提に議論している。

原子力規制委員会は昨年 10 月、原発事故後 1 週間の被ばく線量の目安を決めた。 自治体が作る住民の避難計画に生かすためだが、その数値は 100 ミリシーベルトだった。 更田豊志委員長は記者会見で「福島の事故で多くの人命が損なわれたのは、十分に計画されていなかった避難を強行した」からとして「高齢な方であれば、無理な移動の方が数百ミリシーベルトの被ばくより危険です」と語っている。

たとえ高齢者や入院患者には避難よりも屋内退避の方が良くてもスタッフはどうなのか。 病院を支えるのは医師、看護師だけではない。 福島では派遣会社がスタッフの派遣をやめ、調理や清掃に苦労した病院もあった。 東大などの研究では、事故後、原発立地自治体の大熊町や双葉町に滞在し続ければ、最大 1,000 ミリシーベルトを超える被ばくをしていた。 屋内退避で防ぐのは難しい。 今回の目安は、規制委と医学界との間には認識のズレがあるのではないか、と疑わざるをえない。

適正管理はない

厚労省が検討しているのは、適正管理。 つまり、メリット、良いこととデメリット、悪いことの比較だ。 立地自治体や周辺自治体の住民にとって、再稼働後、事故で被ばくするリスクに見合うメリットはあるのだろうか。 メリットがなければ、受容できる被ばく量などはないはずだ。 100 ミリシーベルトの目安は、原子力ムラにとって都合がよいだけではないか。 そうなら、原発が人と共存できないことを端的に示しているのだろう。 (中日新聞 = 3-9-19)

◇ ◇ ◇

東電と国に賠償命じる 「ふるさと喪失」原発避難者訴訟

東京電力福島第一原発の事故の影響で、神奈川県に避難をした 60 世帯 175 人が東電と国を相手取り、計約 54 億円の賠償を求めた訴訟の判決が 20 日、横浜地裁であった。 中平健裁判長は東電と国の責任を認め、原告 152 人について、計約 4 億 2 千万円を支払うよう命じた。 福島第一原発の事故を巡る集団訴訟は全国で約 30 件起こされており、判決は今回で 8 件目。 8 件すべてで東電に賠償が命じられ、国が被告となった 6 件のうち 5 件で責任が認められた。

訴訟では、東日本大震災と同じ規模の地震が発生し、津波で原発の建屋が浸水して全電源を失う恐れがあることを予見できたかどうか、などが争点となっていた。 判決は、「2009 年 9 月時点で敷地高を超える津波が到来することを予見することが可能だった」と認定した。 判決はさらに、原発敷地内の電源設備を移設すれば爆発事故は防げたのにこれを怠ったとして、被告側の責任を認定。 国については、「発電施設が技術基準を満たすように命じることができたのに、怠った」とも判断した。 その上で、避難者の平穏生活権などの侵害を認め賠償を命じた。

 今回の訴訟を起こしていたのは、放射線量が高いなどの理由で避難指示などが出された区域からの避難者 44 世帯 125 人と、自主避難者 16 世帯 50 人。 「ふるさとを喪失し、生活を破壊された」ことへの賠償として 1 人あたり 2 千万円を請求していたほか、不動産や家屋に対する損害賠償なども求めていた。 判決を受けて東電は「事故により福島県民の皆様をはじめ、広く社会の皆様に大変なご迷惑をおかけしていることについて改めて心からおわび申し上げます。 今後判決内容を精査し、対応を検討して参ります。」などとコメントした。

原子力規制庁は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかったと考えている。 いずれにせよ引き続き適切な規制を行っていきたい。」とコメントした。 (飯塚直人、山下寛久、asahi = 2-20-19)

◇ ◇ ◇

福島県外の汚染土、埋め立て試験開始へ 栃木・茨城で

東京電力福島第一原発事故の除染で福島県外で発生した汚染土について、環境省は 31 日、地中に埋めて処分するための基準や手法づくりに向けた実証事業を、今春ごろから栃木県と茨城県で始めると発表した。

事業では、栃木県那須町の伊王野山村広場で 350 立方メートル、茨城県東海村の日本原子力研究開発機構原子力科学研究所敷地内で 2,500 立方メートルを埋める。 いずれも施設の立地自治体で保管している土を使う。 除染で出た土は国が定める方法で処分することになっており、環境省は福島県外では、地中に埋めることを軸に検討中だ。 実証試験で空間放射線量や、作業員の被曝量などを確認し、安全な処理の手法や手順づくりに役立てる。 (asahi = 1-31-18)

◇ ◇ ◇

東電に 6.7 億円の賠償命令 ゴルフ場、原発事故で損害

東京電力福島第一原発事故でゴルフ場が汚染され、損害を受けたとして、福島県南相馬市でゴルフ場を経営する鹿島総業(東京都)が、東京電力に約 58 億円の賠償などを求めた訴訟の判決で、東京地裁(水野有子裁判長)は 11 日、東電に約 6 億 7 千万円を支払うよう命じた。 ゴルフ場の除染を求める訴えは却下した。

判決によると、同社は同市で鹿島カントリー倶楽部を経営していたが、原発事故で 30 キロ圏内にあるゴルフ場が緊急時避難準備区域に指定された。事故の約 3 カ月後に営業を再開したが、一部のコースしか使えず、利用客が減少した。 判決はコースの使用制限や売り上げ減少と事故との因果関係を認め、事故前の収益などをもとに同社の損害額を約 6 億 7 千万円と認定した。 除染の要求は「除染の内容、方法が特定されておらず、不適法」と退けた。 (山本亮介、asahi = 10-12-17)

◇ ◇ ◇

原発事故で国の責任認め賠償命じる 福島地裁

東京電力福島第一原子力発電所の事故で、福島県で暮らす住民などが慰謝料などを求めた集団訴訟で、福島地方裁判所は「国が東京電力に津波の対策を命じていれば原発事故は防げた」として、国と東京電力の責任を認め、原告のうちおよそ 2,900 人に総額 4 億 9,000 万円余りの賠償を命じました。 全国の集団訴訟で国の責任を認める判決は前橋地裁に続き 2 件目です。

原発事故のあとも福島県内の自宅で暮らし続ける住民や、避難した人などおよそ 3,800 人は、生活の基盤が損なわれ精神的な苦痛を受けたとして、慰謝料などを求める訴えを起こし、これまでの裁判で国と東京電力が大規模な津波を事前に予測して被害を防ぐことができたかどうかなどが争われました。 10 日の判決で、福島地方裁判所の金澤秀樹裁判長は「平成 14 年に政府の地震調査研究推進本部が発表した地震の評価は、専門家による議論を取りまとめたもので信頼性を疑う事情はない。 国がこれに基づいて直ちに津波のシミュレーションを実施していれば、原発の敷地を越える津波を予測することは可能だった。」と指摘しました。

そのうえで「津波に対する安全性を確保するように東京電力に対策を命じていれば、原発事故は避けることができた」として、事故を防げなかった国の責任を認めました。 その一方で「安全確保の責任は一次的には東京電力にあり、国の責任の範囲は半分にとどまる」として、東京電力に対し、原告のうちおよそ 2,900 人に総額 4 億 9,000 万円余りの支払いを命じ、このうち 2 億 5,000 万円余りについては国も連帯して賠償するよう命じました。

また判決では賠償を認めた地域について、避難指示が出された区域の外でも、事故直後に一定の放射線量が計測されていた地域の一部の住民に、国の指針を上回る慰謝料を認めました。 一方で、福島県西部の会津地域などの住民については賠償すべき損害はないとして訴えを退けました。 原発事故をめぐる集団訴訟では全国 18 の都道府県で 1 万 2,000 人余りが訴えを起こし、ことし 3 月の前橋地裁は国と東京電力の責任を認めた一方、先月の千葉地裁は国の責任を認めず、判断が分かれていました。

裁判で判断分かれる

10 日の判決はことし 3 月の前橋地方裁判所に続いて、原発事故を防げなかった国の責任を認めたことが特徴で、全国で続く集団訴訟に影響を与える可能性もあります。 原発事故をめぐる集団訴訟ではことし 3 月に前橋地裁、先月には千葉地裁が判決を言い渡していますが、国の責任については判断が分かれています。 2 つの判決とも津波の危険性を国が事前に予測できたことを指摘しましたが、前橋地裁は「東京電力に対し、津波対策を命じていれば事故を防ぐことができた」として国の責任を認めた一方、千葉地裁は「仮に対策をとっていたとしても東日本大震災の津波の規模からすると、事故は避けられなかった可能性がある」として、国の責任を認めませんでした。

10 日の判決で、福島地方裁判所は原発事故が起きる 9 年前の平成 14 年に政府の地震調査研究推進本部が発表した地震の評価には信頼性があるとしたうえで、2 つの判決と同じく「国は福島第一原発の敷地の高さを超える津波を予測することが可能だった」と指摘しました。 そして 10 日の判決では「平成 14 年末までに津波に対する安全性の確保を東京電力に命じていれば事故を防ぐことができたのに、対策を命じなかったのは著しく合理性を欠いていた」と指摘して、前橋地裁に続いて国の責任を認めました。 今回の裁判の原告は一連の集団訴訟の中で最も多く、10 日の判決は全国で続く集団訴訟に影響を与える可能性もあります。

原告代表「国の責任認められたことは評価できる」

判決を受けて、原告と弁護団が福島市内で記者会見を開き、国の責任が認められたことを評価しました。 このうち原告の代表の中島孝さんは「国の責任が認められたことは今後のほかの原発訴訟でも同じような判断につながる可能性があり、高く評価できる。 これまでの国の指針に基づく慰謝料に上乗せして、一部の地域で賠償を認められた点についても評価したい。」と述べました。

また原告の弁護団の事務局長を務める馬奈木厳太郎弁護士は原告のうちおよそ 7 割の人たちに賠償が認められたことを評価したうえで「今回の判決の特徴は避難指示が出された地域の外の住民にも賠償を認めた点にある」と述べました。 そのうえで「賠償が認められなかった原告もいるのに加え、賠償金額の水準には不十分な点があり、今後、控訴するかどうかについては原告と話し合うなどして検討したい」と述べました。

原子力規制庁「国の主張 十分な理解得られなかった」

原子力規制庁の大熊一寛総務課長は「国の主張について裁判所の十分な理解が得られなかったと承知している。 原子力規制委員会としては原発事故を踏まえて作られた新たな規制基準の審査を厳格に進めることで、適切な規制を行っていきたい。」と述べました。 また今後、国として控訴するかどうかについては「今後の対応は関係省庁とともに、判決内容を検討したうえで対応を考えます」と述べました。

東京電力「判決を精査し対応検討」

東京電力は「原発事故で、福島県民をはじめ、広く社会に大変なご迷惑とご心配をおかけしていることについて、改めて心からおわび申し上げます。 判決については今後、内容を精査して対応を検討していきます」とコメントしています。

福島 浪江町長「判決評価できる」

判決について、原発事故に伴う避難指示の一部がこの春に解除された福島県浪江町の馬場有町長は「原発事故は人災だという国会事故調査委員会の報告書を踏まえて、国の責任を認めた判決は評価できる。 原発事故によって地域や学校のコミュニティなどすべてが崩壊した。 東京電力にはその被害を真正面から捉え、判決を真摯に受け止めてほしい。」と話していました。

福島 南相馬市長「国は重く受け止めを」

原発事故で去年 7 月までおよそ 1 万人の住民に避難指示が出されていた南相馬市の桜井勝延市長は「東京電力だけではなく、国の法的責任が認められたことを国は重く受け止めてほしい。 今後、国は現実の被害実態の把握に努め、従来の賠償基準の見直しを進めて、東京電力を適切に指導し、東京電力はより被害実態に従った賠償を行うことを期待する。」というコメントを発表しました。

専門家「賠償制度を見直す必要性も」

判決について原発事故の賠償に詳しい東洋大学法学部の大坂恵里教授は「国の責任も 2 分の 1 だが認められた。 これまで国は中間指針に基づいて東京電力が行う賠償を支援するという立場だったが、国の責任を認める判決が積み上がってきたことで、国自身も積極的に賠償に関わるよう制度の仕組みを見直す必要性も出てくるのではないか。」と話していました。

また、賠償の対象については「中間指針の対象以外の人にも賠償を命じたので、これまで賠償が認められなかった人にも影響がありえるのではないか。 一方で、認められた内容は中間指針から離れておらず、被害の実態が反映されていないと感じる。 今後の裁判では被害の実態に見合った賠償を裁判所がどう認めていくのか、原告がどう認めさせるのかが課題になると思う。」と話していました。

裁判は全国で少なくとも 31 件に

原発事故で被害を受けた人たちが事故の責任を問うために起こした裁判は、全国で 30 件を超えていて、今後も各地で判決が言い渡されます。 6 年前の福島第一原発の事故のあと、東京電力は国の指針に基づいて福島県に住む人や県外に避難した人に賠償を行っていますが、事故の責任を問うために裁判を起こす動きが広がっています。 件数は次第に増え、国や弁護団などによりますと、全国の少なくとも 18 の都道府県で 31 件の裁判が起こされ、原告は 1 万 2,000 人余りに上っています。

一方、国や東京電力は「事故を予測することはできなかった」などとして争っています。 ことし 3 月には集団訴訟で初の判決が前橋地方裁判所で言い渡され、「国と東京電力は津波を事前に予測して事故を防ぐことができた」として 3,800 万円余りの賠償を命じました。 また別の避難者が起こした裁判で、千葉地方裁判所は先月、原告側が求めていたふるさとを失ったことへの慰謝料を認め、東京電力に対し、3 億 7,500 万円余りの賠償を命じました。 一方で、国の責任は認めませんでした。 それぞれ異なる判断が示される中、来年 3 月には京都地方裁判所や福島地方裁判所いわき支部で判決が言い渡される予定で、裁判所の判断が注目されます。 (NHK = 10-10-17)

inserted by FC2 system