=== 原子力発電所事故 1 (v) ===

福島第一原発 1 号機、原子炉台座内壁が全周損傷 パノラマ写真公開

東京電力福島第一原発 1 号機(福島県)の原子炉の真下の調査で、東電は、撮影した画像をつなぎ合わせた写真を公開した。 原子炉を支えるコンクリート製の台座(高さ 8.5 メートル、外径 7.4 メートル)の内壁の下部約 1 メートルが全周にわたって鉄筋がむき出しになっていたという。 調査は 3 月下旬に実施。 東電はこれまで、撮影できた範囲から半周にわたって鉄筋がむき出しになっていると説明していたが、映像を解析した結果、全周の損傷が判明したという。

東電によると、台座の下部は厚さは約 1.2 メートル。 そのうち損傷がどの程度か確認できていないが、中ほどに入っている鉄板が一部で露出していたため、半分の厚さの 0.6 メートルまでコンクリートがなくなったと推定して耐震性を評価し直すという。 東電は 14 日の原子力規制委員会の会合で、台座の耐震性について、昨年 3 月の福島県沖を震源とする最大震度 6 強の地震など「これまでも強い地震を経験しているが、台座の支持機能は維持されているのは事実」と説明。 原子炉圧力容器の傾斜や沈下が起きる可能性は否定できないとしたものの、影響は限定的で、外部への影響もないと考えているという。

一方、原子力規制庁の担当者は「外部への影響はないと考えるというが、根拠は詳細には示されていない」として詳細な分析結果の報告を求めた。 1 号機は、核燃料が溶け落ちる「メルトダウン」が起きた。 高温の燃料デブリ(溶け落ちた核燃料)に触れたことで台座のコンクリートが溶けたとみられる。 (山野拓郎、asahi = 4-15-23)


福島第一原発デブリ取り出し 廃棄物は 30 万立方メートルと試算

東京電力は、福島第一原発の燃料デブリ取り出しに向けた準備工事で発生する廃棄物の量が 30 万立方メートルに上るとする試算を発表しました。 福島第一原発の廃炉について、東京電力は毎年今後 10 年で発生する廃棄物の量を試算し設備計画への影響を調べていて、最新の予測では 2034 年 3 月までに全体で 80.5 万立方メートルの廃棄物が発生する見通しです。

これとは別に、原子炉で今後進められる燃料デブリ取り出しに向けた準備工事で発生する廃棄物を試算したところ、その量は取り出し工法などによらず少なくともおよそ 30 万立方メートルに上ることが新たにわかりました。 東京電力は廃棄物が発生する時期は不透明としつつも、減容化を見込んだ廃棄物の発生量を今後精査し、必要となる貯蔵庫の保管容量などを試算していくとしています。 また処理水を保管するタンクについては、約 15 万立米の廃棄物が発生するとの試算も合わせて公表されています。 (福島中央テレビ = 2-21-23)


福島第一原発、デブリ見えぬ 1 号機 潜水ロボット投入し調査へ

東京電力福島第一原発 1 号機で、溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)などの調査が 12 日から始まる。 放射線量が高く人が近づけない原子炉格納容器の中に 6 種の潜水ロボットを投入する。 将来のデブリ取り出しに向けて、まずは格納容器下部の状況や、堆積物の広がりなどを確認する。

メルトダウンを起こした 1 - 3 号機のうち、1 号機は核燃料の溶け方が最も激しく、ほとんどが原子炉圧力容器の底を突き抜けて建屋の地下に落ちたとみられている。 2017 年、作業用の足場からカメラを格納容器にたまる水中に垂らして内部を調べたが、砂のような堆積(たいせき)物が多く、その下にあるとみられるデブリは確認できなかった。 そこで今回、日立 GE ニュークリア・エナジー(茨城県日立市)と国際廃炉研究開発機構 (IRID) は水中にもぐって泳ぐロボットを開発。 それぞれ異なる機能を持つ 6 種を順番に投入し、堆積物の撮影や厚さ測定、デブリの有無を調べる。

最初に投入するのは、電力や信号を送受信するため、ロボットについているケーブルが水中で絡まってしまわないように、水中で通過用の「輪っか」をとりつけるロボットだ。 格納容器の内壁に磁石で四つの輪っかを固定していく。 後続のロボットたちは、この輪っかをくぐって格納容器内を半周する。 輪をくぐる姿をイルカになぞらえ、ロボットたちを「IRIDOLPHIN (アイリッドルフィン)」と名付けた。

次に投入するのは、カメラによる目視調査を行うロボットだ。 さらに、堆積物の厚さを測るロボット、燃料に含まれる放射性物質からデブリを検知するロボット、微量の堆積物を採取するロボット、堆積物の分布を調べるロボットと続く。 調査の最後には、2 番目に投入したカメラ付きロボットを再び投入し、よりデブリに近い圧力容器の真下近くを調べる。 何かに引っかかって戻れなくなるリスクがあり「装置の残置もやむなし」とされる。

調査は、8 月まで続く予定。 東電の広報担当者は「堆積物の状況を詳しくつかむことによって、今後のデブリ取り出しの装置や手順の検討につながるような情報を得たい」と話す。 ロボットを使ったデブリの調査は、最も進んでいる 2 号機で 19 年 2 月、格納容器下部にあった小石状の塊を釣りざお状の装置で持ち上げることに成功している。 2 号機では、年内にも格納容器の穴からアーム型の装置を入れて少量のデブリの取り出しを始める予定だ。 (藤波優、asahi = 1-11-22)



デブリと処理水、先見えず 新たな懸念材料も - 福島第 1 原発・東日本大震災 10 年

廃炉作業で最難関とされる溶け落ちた核燃料(デブリ)の取り出しには、今後 20 - 30 年を要する見込みだ。 放射能汚染水を浄化した処理水の処分も時間がかかり、作業は長丁場となる。 デブリは原子炉内にあった核燃料が自ら発する熱で溶け、炉内の構造物と混ざり合った状態だ。 1 - 3 号機で推計 880 トンに上るが、詳しい状況は分かっていない。 調査が進む 2 号機では、来年にも試験的なデブリ取り出しに着手する。 原子炉格納容器の側面にある穴から伸縮するアームを差し入れ、底にあるデブリを回収する予定だ。 当初の取り出し量は数グラム程度にとどまるが、試行錯誤を重ねながら徐々に量を増やす計画という。

一方、原子力規制委員会の調査で、2、3 号機の格納容器のふた部分(シールドプラグ)に、高濃度の放射性セシウムが付着している可能性が浮上した。 更田豊志委員長は「ほとんど燃料デブリと言っていいようなもの」と廃炉作業への影響を懸念した。 東京電力福島第 1 廃炉推進カンパニーの小野明代表は、当面の作業には影響しないと分析。作業が進めば、格納容器上部からデブリを取り出す可能性もあり、「まずは情報を集め、対応をしっかり考えたい」と話した。

処理水の処分をめぐっては、海洋放出を軸に政府内で検討が続けられている。 ただ、地元の漁業者らの反発は根強く、結論は出ていない。 処理水には除去が困難なトリチウムのほか、取り切れなかった別の放射性物質が含まれているため、再度の浄化作業が不可欠。 東電は検討案で「一度に大量に放出せず、廃止措置(廃炉)に要する期間を有効に活用する」と明記しており、デブリの取り出しと並行し、長い時間をかけて少しずつ放出することになりそうだ。 (jiji = 3-7-21)


3 号機プール核燃料搬出完了 炉心溶融の建屋で初 - 2 年で 566 体・福島第 1

東京電力は 28 日、福島第 1 原発 3 号機の使用済み燃料プールから核燃料計 566 体を搬出する作業を完了したと発表した。 炉心溶融(メルトダウン)を起こした 1 - 3 号機のうち、燃料の取り出しが終わるのは初めて。 2019 年 4 月に始め、トラブルもあったが、今年 3 月末までの目標期限内に達成した。 遠隔で機械を操作し、専用容器に収納した最後の 6 体を、28 日に敷地内の共用プールと呼ばれる貯蔵施設に移送した。 建屋上部を覆う大型カバーを設置し、作業中に放射性物質が拡散しないようにした。

3 号機の燃料搬出は 14 年末にも開始する予定だったが、建屋の水素爆発によるがれきの撤去が難航し、延期を重ねた。 着手してからも、機械の不具合で作業の中断を強いられたほか、燃料をつかむハンドル部の変形への対策に時間をかけた。 使用済み燃料プールからの核燃料搬出は、14 年 12 月に 4 号機の 1533 体が完了。 建屋上部にがれきなどが散乱している 1 号機、建屋内の放射線量が特に高い 2 号機を含め、東電は 31 年末までに全ての取り出しを目指している。 東電は「準備を積み重ね、予定した作業を安全に終えることができた。 教訓や知見を 1、2 号機の燃料取り出しにも生かしたい」とコメントした。 (jiji = 2-28-21)



福島第一、高濃度の汚染部分が判明 廃炉工程見直しか

東京電力福島第一原発の 2 号機と 3 号機で、原子炉格納容器の真上にあるふたのような部分が極めて高濃度に汚染されていることが、原子力規制委員会の調査で判明した。 事故時に格納容器から漏れた放射性物質が大量に付着しているらしい。 容易に近づくことができず、この部分を動かすのは困難とみられる。 規制委は「極めて深刻」とみており、廃炉工程が見直しを迫られる可能性もある。

高濃度汚染が判明したのは「シールドプラグ」と呼ばれる円板状の鉄筋コンクリート(直径約 12 メートル、厚さ約 60 センチ)の部分。3 枚重ねて、原子炉建屋最上階の床面に据え付けられている。普段はふたのように炉心からの放射線を遮っているが、核燃料の入れ替えなどの作業時には一時的に取り外され、格納容器内にアクセスする出入り口となる。 規制委は現場の線量が下がってきたとして、昨年 9 月に原発事故の未解明事項の調査を約 5 年ぶりに再開。 これまでの東電などの調査で 2、3 号機のシールドプラグ付近の線量が異常に高かったことから、現地調査で周辺の線量を詳しく測定し直すなどして、汚染実態の解明を進めてきた。

その結果、3 枚重ねの一番上と真ん中の板の間付近にあると推定されるセシウム 137 の量は、2 号機で約 20 - 40 ペタベクレル(ペタは 1 千兆)、3 号機で約 30 ペタベクレルに達した。周辺の線量の測定値から 2 号機のその部分の線量を推定すると、毎時 10 シーベルトを超えるレベルになる。 1 時間もそばにいれば人は死に至る。 事故前に 1 - 3 号機の炉内にあったセシウムの総量は約 700 ペタベクレル、事故で大気中に放出されたのは約 15 ペタベクレルとされている。 2 号機と 3 号機のシールドプラグは破損が少なかった一方、1 号機は建屋の水素爆発の直撃を受けてずれたり変形したりしており、汚染は推定 0.16 ペタベクレルにとどまった。

規制委は、メルトダウン(炉心溶融)で格納容器から漏れ出た膨大な放射性物質を、損傷の少なかった 2、3 号機のシールドプラグがとらえたことで外部への放出量が抑えられたとみて、年明けにもまとめる事故調査の中間報告書案に盛り込む。 これほどの量のセシウムが集中した仕組みや理由ははっきりせず、今後も調査を進めるという。 シールドプラグが据え付けられた建屋最上階の開口部は、作業のため格納容器や圧力容器の内部にアクセスする主要なルートの一つ。 廃炉の最難関工程とされる溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しでも、2022 年以降に延期された試験的取り出しを終えた後の本格段階での活用が検討されている。

規制委の更田豊志委員長は 12 月下旬の会見で、シールドプラグの高濃度汚染について「デブリが高いところにあるようなものととらえてよい。 廃炉にとって極めてインパクトの強い状況だ。」と指摘。 シールドプラグを撤去する作業は、どんな工法を選んでも極めて難しくなるとの見解を示した。 東電は「デブリ取り出しの工法はまだ決まっていない。 シールドプラグの状況をしっかり把握したい。」と話している。 (桑原紀彦、asahi = 12-29-20)


福島第一原発の処理水、海洋放出へ 政府が最終調整

東京電力福島第一原発の敷地内にたまる処理済み汚染水の処分方法について、政府が海に放出する方向で最終調整していることがわかった。 早ければ月内にも関係閣僚会議を開き、正式に決める方針だ。 タンクの水を二次処理して海水で薄め、放射性物質の濃度を法令の放出基準より十分低くしてから流す。 準備に 2 年程度かかる。 風評被害が懸念されており、対策を福島県などと協議していく。

全漁連、海洋放出は「絶対反対」 原発の処理済み汚染水

福島第一原発では、溶け落ちた核燃料を冷やした水に原子炉建屋に流入した地下水などが混ざり、汚染水が発生。いまも 1 日に約 140 トン増えている。 東電はこれを多核種除去設備 (ALPS) などで処理してタンクに保管しており、すでに約 120 万トンたまっている。 東電は、現在のタンク増設計画では 2022 年夏ごろに満杯になるとしている。 処分に必要な設備の工事や原子力規制委員会の審査に 2 年程度かかるとされ、今夏ごろが判断の期限とみられていた。

処分方法をめぐっては、専門家でつくる経済産業省の小委員会が今年 2 月、海か大気中への放出を「現実的な選択肢」とした上で、海洋放出を「確実に実施できる」と有力視する提言をまとめている。 政府は 4 月以降、地元自治体や農林水産業者、経済団体など関係者から 7 回にわたり意見を聴取。 「政府が責任をもって早期に結論を出す」と繰り返していた。 一方、風評被害を懸念する漁業者らは海洋放出に強く反発している。 全国漁業協同組合連合会(全漁連)は 6 月に「国民の理解を得られない放出には絶対反対」と決議しており、今月 15 日には岸宏会長が梶山弘志経済産業相らに直接反対を伝えた。

海に放出する場合、タンクにたまる処理済み汚染水をもう一度 ALPS で処理し、トリチウム以外の放射性物質の濃度を環境中に放出してもよいとされる法令の基準値(告示濃度)を下回るまで下げる。 その上でトリチウムも告示濃度よりも十分低くなるように海水で薄める。 放出後も、モニタリング調査で海への影響を監視、情報を公開する。 関係者からの意見聴取では、風評被害への賠償方針が不十分で、国内外の理解を得るための正確な情報発信も不足しているとの指摘が相次いだ。 政府は、福島県や地元漁業者らと協議体を作るなどし、対策の議論を続ける方向で検討している。 (asahi = 10-16-20)

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汚染水の処理、海洋放出か大気放出 根拠は結局「前例」

東京電力福島第一原発にたまる処理済み汚染水の処分方法が、海洋放出と大気放出の二つに事実上、絞り込まれた。 処分方法について政府に提言する経済産業省の小委員会が 23 日、とりまとめ案を議論し、大きな異論は出なかった。 3 年にわたり風評被害の影響を検討してきたが、根拠にしたのは結局「前例」だった。 溶け落ちた核燃料を冷やす注水で生じる汚染水は、多核種除去設備 (ALPS) で処理しても、放射性物質のトリチウム(三重水素)が取り切れずに残る。 放射性セシウムなどに比べると放射線が弱く、国内外の原子力施設では濃度などを管理して流している。

だが、事故を起こした原発だけに風評被害が問題になる。 小委員会は、この水の処分方法を専門家らが社会的な観点から検討する場。 技術的な検討をした経産省の作業部会が報告書で示した五つの方法を踏まえ、2016 年 11 月から 16 回の議論を重ねてきた。 経産省が小委に示したとりまとめ案は、@ 薄めて海に流す海洋放出、A 蒸発させる大気放出、B 両者の併用の 3 ケースに絞った議論を提案するものだった。

社会的影響については「量を定性的、定量的に比べるのは難しい」とし、方法の優劣の判断を示さなかった。 委員からは「海洋放出は、社会的な影響が極めて大きいとはっきり書くべきではないか」などの声は出たものの、絞り込んだことを覆す意見はなかった。 根拠としたのは前例だ。 海洋は国内の原発や再処理工場の数字を、大気は米スリーマイル島原発事故の例を引用した。 処分量や濃度も「前例と同程度の範囲内にすれば風評への影響が抑えられる」とした。 地層注入など他の三つは前例がなく、技術的にも時間的にも現実的でないとして退けた。 処分の開始時期や期間は「政府の責任で決めるべきだ」と判断をゆだねた。

一方、敷地内のタンクでの長期保管は、廃炉作業に必要な施設がつくれなくなるなどの理由で難しいとした。 敷地外への搬出も周辺自治体の理解を得るのが難しいなどと結論づけた。 敷地内のタンクにたまる処理済み汚染水は約 120 万トン。 東電は、タンク増設計画は約 137 万トン分までで、22 年夏ごろに満杯になるとしている。 期限を切って「処分ありき」の議論になりかねない状況で、委員からは「敷地内でさらに増設できないか」などの指摘が出た。 だが、東電は、計画以上の増設や敷地外での保管に慎重な姿勢を崩さず、小委は最大限の努力を求めるにとどめた。

とりまとめ案は、海洋、大気のいずれの方法でも、風評被害は避けられないため、対策の徹底を求めている。 タンクにたまった全量を 1 年間で処分しても住民の被曝は自然に受ける放射線量の 1 千分の 1 以下におさまり、十分に低いと評価した。

放出始まっても、新たな汚染水

小委員会のとりまとめは政府への提言となる。 これを受け、政府は地元などの関係者の意見を聴き、最終的に処分方法や期間、濃度、開始時期などの方針を決める。 ただ、決める手順やいつ決めるかなどは定まっていない。 農水産業や観光業に加え、外交にも関わるため、政治日程も影響しそうだ。 「国政選挙次第だろう」とこぼす政府関係者もいる。 処分方法が決まっても、放出開始までに年単位の時間がかかる。 薄めるための海水をくみ上げるポンプや、蒸発させるボイラーなど大型の設備が必要なためだ。 東電が原子力規制委員会に申請し、認可を受けなければならず、工事も大規模になる。 規制委の更田豊志委員長は、海洋放出の場合「準備期間に 2 年ぐらいはほしい」と言う。

放出の準備が、敷地内タンクが満杯になるとされる 22 年夏に間に合わない可能性もある。 その場合、東電はタンクの追加増設を迫られるが、東電は「増設の余地は限定的」としている。 また、処理済み汚染水の多くは放出前に「二次処理」が必要だ。 約 8 割に、トリチウム以外の除去すべき放射性物質が放出基準を超えて残っている。 東電は、ALPS などで再び処理しなければならない。 実際に放出する際には濃度を測り、基準値を下回っていることを確認する。

放出が始まっても、汚染水は新たに生まれ続ける。 汚染源がなくならない限り放出し続けることになる。 東電は 1 日あたりの汚染水の発生量を 18 年度の 170 トンから段階的に減らし、25 年に 100 トンに抑える目標だが、実現は不透明だ。 (今直也、川田俊男)

漁業・農業関係者は「時期尚早」、「強引」

福島県内では、とりまとめ案で難しいとされた敷地内での長期保管を求める声が強く、海や大気への放出には反発の声が上がった。 いわき市漁業協同組合長で底引き網漁業を営む江川章さん (72) は「処分方法を決めるのは時期尚早。 陸上保管を続けるべきだ。」と主張した。 2012 年から試験操業を始め、今はほとんどの魚種で操業できるようになったが、第一原発から半径 10 キロ圏内は操業を自粛中。 「海洋放出したら、消費者のイメージが悪くなり、魚が売れなくなる。 漁民としては認められない。」と語気を強めた。

原発事故で避難指示が出た南相馬市小高区に農地を持つ大友章生さん (82) は「強引に計画を進めず、長期保管し、その間に納得できる解決策を考えて」と注文する。 来年からコメの作付けを再開する予定で、「大気放出が農作物にどんな影響を与えるのか心配。 帰還する住民や農業の後継を志す若者にとって大きな壁になる恐れがある。」と話す。 (柳沼広幸、江川慎太郎、asahi = 12-24-19)

小委員会のとりまとめ案の骨子
・処分方法は、@ 海洋放出、A 大気放出、B 両者の併用、の 3 ケースを提示
・敷地内での長期保管や敷地外への移送は困難
・廃炉完了までに処分を終えている必要がある
・情報発信や経済対策など徹底した風評被害対策が必要
・処分の開始時期や期間は政府の責任で決めるべきだ


核燃料取り出し開始、最大 5 年遅れ 福島第一工程表改訂

国と東京電力は 27 日、福島第一原発の廃炉工程表を約 2 年ぶりに改訂した。 1、2 号機の使用済み燃料プールからの核燃料取り出し開始が、従来より 1 号機で 4 - 5 年、2 号機で 1 - 3 3年遅れることになった。 全体で 30 - 40 年かかるとする工程の大枠は維持した。 政府の廃炉・汚染水対策関係閣僚等会議(議長・菅義偉官房長官)で決定した。 改訂は 5 回目。 1、2 号機の燃料取り出し開始時期は、前回の改訂で 2023 年度に遅らせた。 だが、原子炉建屋を覆うカバーなどを新設して作業員の被曝や放射性物質の飛散を抑えることにしたため、さらにずれ込んだ。 1 号機は 27 - 28 年度、2 号機は 24 - 26 年度になる。 いずれも完了までに 2 年ほどかかるという。

1 - 6 号機すべてのプールからの燃料取り出しを 31 年末までに完了する目標も新たに掲げた。 11 年 12 月に決めた工程表では「1 - 4 号機の燃料取り出しを 21 年末までに終える」としており、目標は当初から 10 年遅れとなった。 また、汚染水の発生量についても、1 日あたり約 170 トン(18 年度)から、25 年末までに 100 トン以下に減らす目標を新設した。 廃炉工程で最難関とされる溶け落ちた核燃料(燃料デブリ)の取り出しを、21 年内に 2 号機から始めることも正式に決まった。 初めは試験的に数グラム程度を取り出すのみで、デブリの状態を調べながら段階的に増やしていく。 (今直也、asahi = 12-27-19)


福島第一、見えぬ廃炉の最終形 更地に? 汚染土壌は?

東京電力福島第一原発の事故発生から 8 年半が過ぎた。 炉心で溶け落ちた核燃料の取り出し開始は 10 年以内の目標に向けて作業が進むが、30 - 40 年後とされる「廃炉完了」の姿は今もはっきり示されていない。 ふつうの原発と同じように更地に戻すのか、一部の施設は敷地に残るのか。 困難な現実を直視した議論に踏み出すべきだという声が、原子力を支える「身内」からもあがり始めた。

溶けた核燃料、取り出し多難

「溶融燃料を全量取り出せる確証はない。 どこまで取り出したら廃炉が終了するかは、地元との話し合いで決めたい。」 8 月初め、東電の定例会見で廃炉について聞かれた広報担当者が口にした発言に、記者たちはざわついた。 「全量取り出し」にこだわらないとも解釈できる内容で、「困難だが、現時点で諦める必要はない」としてきた東電福島第一廃炉推進カンパニーの小野明代表の説明と微妙に違っていたからだ。 会見後すぐ、別の担当者が「小野の発言が社として正式な回答」と火消しに走った。

福島県は事故直後から、県内の全原発の廃炉と放射性廃棄物の県外撤去を訴えてきた。 国と東電は 2011 年 12 月に発表した廃炉工程表で「10 年以内に溶融燃料の取り出しを開始し、30 - 40 年後に建屋等を解体して廃炉を完了する」と明記。 「全量」取り出すとも、施設を全て撤去して「更地に戻す」とも約束していないが、その可能性に期待をもたせる、あいまいなスタンスを維持してきた。

溶融燃料の取り出しは廃炉工程のなかで最も困難な作業だ。 推計量は、1 - 3 号機の原子炉格納容器内に計約 800 トン。 人が近づけない高線量で、どこに、どれだけ、どんな状態で存在するかもわからない。 東電はロボットで少しずつ調査し、最も作業しやすそうな 2 号機を皮切りに 21 年から取り出す方針を示した。 「まずは取り出した溶融燃料を調べてから、具体的な方法を決めたい」と説明する。

だが、そもそも 30 - 40 年は、無事に運転を終えた原発の廃炉にかかるとされる時間だ。 東電が工程表づくりの参考にした米スリーマイル島原発事故は、規模がはるかに小さいにも関わらず、事故から 40 年後の今年に今後 60 年かけて廃炉を進めることが発表された。 チェルノブイリ原発は、核燃料を建屋ごとコンクリートで封じ込めた「石棺」を、耐用年数 100 年の巨大なカバーでまるごと覆う計画が進む。

動きをみせたのは日本原子力学会だった。 廃炉の技術課題を検証する委員会で、施設を全て撤去して更地にする、地下の施設を残す、など四つのシナリオを想定し、今春の公開シンポジウムで公開した。 宮野広委員長は「最後の姿を考えないといつまでにどんな作業をすべきかが決められない。 まずは議論のきっかけをつくりたい。」と話す。 今後議論を進め、年度内に報告書にまとめて公表する予定だ。

委員会によると、施設と汚染された土壌を 40 年で全て撤去すると放射性廃棄物の発生量は 800 万トンにのぼるが、汚染が広がらない工事をした上で原子炉建屋の地下部分や周辺の汚染土壌を残せば 400 万トンとなり、廃炉を数十年先延ばしして放射能の減衰を待てばもっと減らせる。 ただし、一部を残せば土地は再利用できず、地下に放射性廃棄物が残り続けることになる。

学会の動きに、廃炉の計画づくりに関わる政府関係者は当面、政府として廃炉完了後の具体的な姿を示すことが難しいと認めつつも「政府と足並みがそろわない見解を示されると、地元に混乱を呼ぶだけだ」と不快感を示した。 6 月にあった東電の株主総会では、ある株主が「更地にできないのなら、作業員に無用な被曝を強いる溶融燃料の取り出しは諦めるべきだ」と 60 年間は廃炉作業を凍結するよう提案した。 東電は「放射性物質による汚染がさらに起こるリスクを下げるためにも、廃炉を進める」と反論。 提案は反対多数で否決された。

40 年の期限、一人歩きも

「廃炉の最終形」は復興の未来図をも左右する。 定義があいまいなまま完了の期限だけがひとり歩きすることへの懸念も浮かぶ。 「40 年での廃炉完了は難しいかもしれないが、安全を最優先に進めて欲しい。 ただ、国には今から放射性廃棄物の搬出先の検討をきちんと進めてほしい。」 福島第一原発のある福島県大熊町の町商工会長、蜂須賀礼子さんはそう語る。 事故を検証した国会事故調査委員会の委員も務めた。

背景には、除染で出た汚染土の現実がある。 「事故前の状況まで戻すべきだ」と求める県民世論を踏まえ、30 年以内に県外に運び出すと法律で定められたが、行き先が決まらないまま原発に隣接する中間貯蔵施設にためられている。 避難者の調査を続ける今井照・地方自治総合研究所主任研究員は、40 年たって国が廃炉完了を宣言すると、被災者の生活支援や健康管理が打ち切られるのではないかと心配している。

実際、避難者の損害賠償請求訴訟では、事故収束をめぐって野田義彦首相(当時)が原子炉の「冷温停止状態」を宣言した 11 年末を、帰還時期の目安とみなした判決も出ている。 今井さんは「国は将来にわたり被災者の健康へのケアや帰還する権利を保障するメッセージを出すべきだ」と話す。 チェルノブイリ原発のあるウクライナは、事故の 12 年後に「廃炉法」を制定。 廃炉の定義を「核燃料を原子炉施設から搬出した後、住民や周辺の安全性を確実にすること」とし、作業員の給与水準保証や廃炉後の年金早期支給、原発に依存してきた地域経済の立て直しなども定めた。 作業員の社会保障だけでなく、財政支援をする各国に対し、廃炉をどう進めるかを示す目的があるという。

関西学院大災害復興制度研究所の尾松亮・研究員は「福島第一原発事故では廃炉完了の定義がないが、ウクライナのように法律で廃炉を定義すれば、政府が勝手な判断で廃炉を宣言できず、住民に甘い見通しを示せなくなる。 日本でも議論を始めるべきではないか。」と語る。 (杉本崇、asahi = 11-21-19)


【台風 19 号】東電福島第 1 原発の 6 カ所で法面崩落

台風 19 9号による豪雨で、廃炉作業が進む東京電力福島第 1 原発(福島県大熊町、双葉町)敷地内にある法面(のりめん) 6 カ所が、一部崩落していたことが分かった。

東電によると、台風通過後の 13 日に行った構内の設備を点検するパトロールで、陳場沢川(じんばざわがわ)河口付近や第 2 土捨場北構内道路などで崩落を確認。 崩落は最も規模が大きい場所で高さ 30 メートル、幅 15 メートルに及んでいた。 東電では 15 日に応急処置を行い、場所によっては立ち入りを制限するなどした。 原発のプラントなどの設備、廃炉作業などへの影響はないという。 また、東電では台風による主要設備の異常は確認されていないとしている。 (sankei = 10-16-19)


制御しきれぬ福島第一 汚染水の水位下がらず理由も不明

東京電力福島第一原発の汚染水対策が難航している。 原子炉建屋などの地下にたまる高濃度汚染水はなお約 1 万 8 千トン。 計画通りに減らせていない場所もある。 安倍晋三首相は 2013 年 9 月の東京五輪招致演説で「状況はコントロールされている」と言い切ったが、開幕まで 1 年を切った今も、現場は汚染水を制御しきれていない。

「見通しが立っているのか、お手上げなのか、示して欲しい。」 廃炉の進捗を監視する原子力規制委員会の 6 月の検討会で、伴信彦委員は東電の担当者にいらだちをぶつけた。 3 号機の原子炉建屋地下階の一部エリアで計画通り水位が下がらない状態が 2 カ月も続いているのに、原因についてあいまいな説明に終始したからだ。

建屋地下の高濃度汚染水は、福島第一が抱える汚染水リスクの「本丸」だ。 1 - 3 号機の溶融燃料を冷やした水に、建屋の割れ目などから流入する地下水が加わって生まれる。 放射性物質の濃度は、タンクに保管されている処理済み汚染水の約 1 億倍。 事故直後には、地下の坑道を伝って海へ漏れ、魚介類から基準値を超える放射性物質が検出される事態を招いた。

100 万トン以上に増えたタンクの汚染水も、もとは建屋地下からくみ上げたもの。 この「おおもと」をなくさない限り汚染水対策は終わらない。 事故当初、1 - 4 号機の原子炉建屋とタービン建屋の地下にたまっていたのは約 10 万トン。東電は、井戸から地下水をくみ上げたり、建屋の周りの土壌を凍らせる「凍土壁」をつくったりして地下水の流入を減らしながら、地下の汚染水の水位を徐々に下げてきた。 事故から 8 年が過ぎた今、1 万 8 千トンに。 20 年度中に 6 千トンに減らし、最下階の床をほぼ露出させる目標だ。

ただ、思うようには進まない。 検討会で規制委から「持ち帰って検討しますでは、また 1 カ月が無駄になる」と追及されることもあった。 3 号機の問題の区画も、溶融燃料を冷やす水が流れ込んでいることはわかったが、そこだけ水位が下がらない理由が不明だ。 建屋内の水位が高いままだと、周囲の地下水の水位を下げたとき割れ目などから汚染水が地中へ漏れ出す恐れがあるため、作業全体が滞ってしまう。 その後、東電は実際に作業員を現場に向かわせ調査したが、理由は特定できなかった。

「おおもと」を減らす作業と並行して、規制委は津波対策も求めている。 再び巨大津波に襲われると、引き波で地下の高濃度汚染水を海へもっていかれるおそれがあるからだ。 国の地震調査研究推進本部が 17 年、北海道沖の千島海溝で東日本大震災級の地震が切迫している可能性が高いとの見解を公表するなど、警戒を緩められない状況にある。 だが、この対策も遅れがちだ。 原発事故の影響で密閉できなくなった扉など、津波時に汚染水の流出ルートになりうる開口部を約 50 カ所閉じる工事は 21 年度末までかかる見込み。 千島海溝の巨大地震の津波も防げる防潮堤の増設は 20 年度上半期までかかるという。

「把握ルート以外にも流出経路あると考えないと。」 「コントロール」発言があった 13 年 9 月当時は、タンクにためていた高濃度汚染水があちこちで漏れて海へ流れたり、地中にしみこんだ汚染水が地下水と混ざって港湾内へ流れ込んだりしていた。 政府は「港湾外の海水の放射性物質濃度は検出できないほど低くなっており、全体として状況はコントロールされている」と説明してきた。

その後、岸壁に鉄板を打ち込むなどの対策が進み、海への汚染水流出はほぼ止まったとされる。 ただ、建屋の表面や地表に残る放射性物質が雨水とともに海に流れ込むのは防ぎきれていない。 東電は、16 年度に排水路を通じて 1 日平均約 1 億ベクレルの放射性セシウムが流出していたと試算している。

一方、筑波大の青山道夫客員教授(地球化学)が、東電が公表している原発周辺の海水に含まれる放射性物質のデータをもとに、同時期に原発から海へ流出した放射性セシウムの量を試算すると、1 日あたり約 20 億ベクレルと出た。 魚介類に影響が出るようなレベルではないものの、「東電が把握しているルート以外にも流出経路があると考えないと説明できない。 しっかり調査すべきだ。」と指摘する。

東電は「計算の仕方が違っており、単純に比較できない。 海水の放射性物質の濃度は大きく変動しておらず、新たな流出はないと考えている。」と説明する。 安倍首相は五輪招致にからみ、「汚染水による影響は、港湾内の 0.3 平方キロの範囲内で完全にブロックされている」とも述べた。 東電は「放射性物質が外に漏れるのを完全に遮っているわけではない。 少なくとも近海で放射性物質の濃度が上昇しているとは認められない。」としている。(杉本崇、今直也)

実態とかけ離れていた「コントロール」発言

福島第一原発事故は、発生直後から汚染水との格闘の連続だった。 電源復旧作業に向かった作業員が足を水につからせ被曝。 海への流出元の特定に時間がかかったうえ、高濃度汚染水の保管場所を確保するため、比較的低濃度の汚染水を意図的に海に放出し、海外から批判を浴びた。 いくらくみ出しても、地下水が流入して追いつかない。 状況把握は後手に回り、場当たり的な対応を繰り返した。 タンクからの水漏れなどトラブルも相次いだ。 「コントロール」発言があったのは、まだまだ混乱の渦中と言うべき時期だった。 国際社会の懸念を払拭する目的だったとしても、歯切れの良い言い切りは、現場の実態とかけ離れていた。

あれから 6 年。 当時に比べれば対策は進み、高濃度汚染水の量も減ったとはいえ、封じ込めができていない状況に変わりはない。 農林水産省によると、原発事故を理由とする水産物の輸入規制は 22 カ国・地域で続いている。 事故を起こした国に対する海外の視線はいまだ厳しい。 東京五輪が近づくなか、何かのトラブルで汚染水がまた海に漏れ出すことがあれば、日本の国際的な信用は大きく傷つくだろう。 潜在的なリスクから目をそむけてはならない。 (編集委員・佐々木英輔、asahi = 7-28-19)


東電ミスで排気筒解体を延期 福島第一、クレーン届かず

政府と東京電力は 30 日、福島第一原発で、倒壊リスクのある 1、2 号機の排気筒の解体について、今月開始予定だった工事を 2 カ月延期すると明らかにした。 作業用のクレーンの構造の確認を怠ったといい、汚染水対策をはじめ、今後の様々な作業にも影響が出るおそれがある。 高さ 120 メートルの排気筒は 8 年前の原発事故で外部に放射性物質を含む水蒸気を放出する「ベント(排気)」に使われた。 損傷が見つかったが、周辺の線量が高く、放置されてきた。

東電は倒壊や、部品の落下を防ぐため上半分の撤去工事を 20 日に始める予定だった。 だが直前になって、クレーンが解体のための作業用装置を計画より 1.6 メートル低くしかつり上げられず、排気筒の上部に届かないことが判明した。 東電は、ミスの原因を当初「計器の誤差と考えられる」と説明していたが、その後「クレーンのワイヤの巻き上げ過ぎを防ぐ安全装置の場所を、実際より高い位置にあると思い込んで計画していた。 ワイヤは計画した高さまで巻き上げられなかった」と変更した。 実際のクレーンの詳しい設計図を確認せず、一般的なクレーンの構造をもとに計画書を作ったためという。

「厳しい状況はわかるが、事前の確認をしっかりしてほしい」と原子力規制委員会の更田豊志委員長は 29 日の会見で苦言を呈した。 対策として、東電はクレーンを排気筒側に移動させ、アームの角度を変えて対応するという。 ただ、周りの工事などへの影響を確認する必要があるため解体工事の再開は 7 月下旬になり、当初予定した年内の工事完了はほぼ不可能になった。

排気筒周辺は、廃炉に向けた様々な工事が並行して進む。 「工事スケジュールの調整は複雑なパズルを解くようなもの」と東電関係者。 解体工事の延期は周辺のがれき撤去や、汚染水の原因の一つである建屋に流れ込む雨水を防ぐ工事などに影響するおそれがあるという。 福島第一原発では、3 号機の使用済み燃料プールにある核燃料の取り出し作業でも昨年の試運転中からミスが頻発。 今月も 2 号機で水素爆発を防ぐために圧力容器に入れた窒素ガスが正確に計測できていない時があったことが発覚した。 ガスの注入量を測る機器の説明書が 6 年間間違ったままだった。

経済産業省の木野正登・廃炉汚染水対策官は会見で「(排気筒をめぐる)今回の原因はコミュニケーションと確認の不足だ。 3 号機の燃料取り出しの時と同様に管理体制に問題があった可能性がある。」と話した。 (杉本崇、石塚広志、asahi = 5-30-19)


プールの核燃料、搬出開始 福島第 1 原発 3 号機 当初目標から大幅遅れ

東京電力は 15 日、福島第 1 原発 3 号機の原子炉脇にある使用済み燃料プールからの燃料搬出作業を始めた。 炉心溶融(メルトダウン)を起こした 1 - 3 号機のプールからの搬出は初めて。 当初目標から 4 年以上遅れてようやく作業開始となる。 3 基のプールには大量の使用済み燃料が保管されたままで、廃炉を進める上で大きな障害となっている。 月内に未使用燃料 7 体を構内の別のプールに運び入れる。

3 号機プールには使用済み燃料と未使用燃料が計 566 体保管されている。 今回、比較的リスクの低い未使用燃料 7 体を搬出した後は、移送先のプールが法令点検に入るため、6 月にも本格的な搬出を再開する予定。 令和 2 (2020) 年度中に完了する計画だ。 使用済み燃料は熱と強い放射線を長期間、出し続け、冷却や放射線を遮るため水中に保管されている。 1 - 3 号機のプールには未使用も含め計 1,573 体ある。 (sankei = 4-15-19)


福島第一、困難な工事へ 挑む地元企業の操作拠点はバス

東京電力福島第一原発は東日本大震災の後、爆発を 3 回起こした。 8 年が過ぎ、1、2 号機の間にある排気筒(高さ約 120 メートル)の解体が始まる。 爆発や排気(ベント)で損傷や汚染が激しい上、遠隔操作で行う難しい工事だ。 第一原発が立地する福島県大熊町の地元企業が挑む。 昨年秋から訓練を重ね、5 月にも解体に着手するのは建設会社「エイブル」。 元々、第一原発から 2 キロの大熊町内に本社があり、原子炉の定期点検や配管工事に携わってきた。約 200 人の従業員の 7 割ほどは福島県出身。 今は県内の広野町に本社機能を移す。

排気筒は原子炉建屋の空調や換気に使われるもので、第一原発には同じものが計 4 本ある。今回の 1 本は 2011 年 3 月 12 日に 1 号機の原子炉建屋が水素爆発した影響で上部を損傷。 さらに炉内の圧力を下げるために実施したベントで、筒内や周辺が高濃度に汚染された。 事故から約 5 カ月後に測定した際は機器の針が振り切れ、毎時 10 シーベルト以上を示した。 15 年の調査でも毎時 2 シーベルト。 数時間いると死に至るレベルで、現在も容易に近づけない。 破断も数カ所確認され、原子力規制委員会が「倒れると危険」と指摘し、東電は解体の検討を進めていた。

東電がエイブルに工事を依頼したのは、排気筒の底部にたまった高濃度汚染水の排出に成功した実績があったからだ。 (石塚広志、asahi = 3-26-19)



福島第 1 原発、進まぬ核燃料取り出し 初歩的ミス続発

東京電力福島第 1 原子力発電所で、3 号機の使用済み核燃料プールからの取り出し作業が滞っている。 準備段階で専用の取り出し機器に不具合が相次いだ。 原因は東電や作業を担う東芝の初歩的なミスで、今後の本格的な廃炉作業でも同じことを繰り返さないか危惧されている。 取り出し作業だけでなく、全体の廃炉工程にも影響を及ぼしかねない。

「核燃料という重要なものを扱う認識が弱かった。」 東電の小野明廃炉推進カンパニー最高責任者は、15 日の原子力規制委員会の会合で一連の不具合の反省を述べた。 東芝エネルギーシステムズの畠沢守社長も納入品の不備を陳謝した。 不具合はまず 3 月、使用済み核燃料取り出しに使う専用機器を試運転した際に警報が連発した。 原因は電圧設定のミスだった。 8 月には、機器に使ったケーブルに保護カバーなどのない不良品があり、それが腐食し断線した。

2 社の調査で浮かび上がったのは、東芝が製造委託した米ウエスチングハウスやその関連メーカーとのコミュニケーション不足だ。 今回の機器は遠隔操作できる特殊な物で、何層もの下請け会社が細部を担った。 電圧設定のミスは、米国の工場で指示通りの試験が行われなかったことで起きた。 東芝はこれに気づかず確認を怠ったという。 またケーブルの不良品は、東電が海外メーカーに明確な仕様を伝えなかったことで起きた。

問題に気づける機会はあった。 取り出し装置を受け取った後、国内で約 3 年間保管し、動作確認をしていた。 そこで不具合が 30 件起きていたが両社は対策をしなかったという。 「(その時点で)品質を疑う必要があった。(東電担当者)」 日本原子力学会、廃炉検討委員会の宮野広委員長は「海外に発注するのに要求が明確でなかった。 今後の廃炉作業でも同じリスクがあり、改善が必要。」と指摘する。

一連の不具合はプールから燃料棒を移動させる機器に生じた。 今後は原子炉内に溶け落ちた燃料の取り出しも待ち受ける。 困難な廃炉作業に汎用品がそのまま使える場合は少なく、今後も海外に発注する機会が多いと予想されている。 例えば 19 9年以降にする溶融燃料の調査で、東電などは英国製のロボットアームを使う方針だ。 英国の核融合施設で実績があるため設計や製造を委託した。 だが今回のように連絡や確認を怠れば、トラブルも起こりかねない。

政府はこれまで 3 号機のプールからの取り出し作業開始を 18 年度中ごろとしていたが、今回の不具合で早くとも年明け以降に遅れた。 東電は今後、機器の部品交換などをした上で試運転を再開するという。 この遅れは他の廃炉工程にも影響しかねない。 まず考えられるのが、プールからの燃料搬出と並行して始まる溶融燃料の取り出しだ。 同じ原子炉建屋内の作業で、20 年ごろには準備工事が始まる計画だが、作業スペースの確保や安全対策が複雑になる。

規制委の更田豊志委員長は 17 日の記者会見で「取り出し作業はこれからが本番。 同じことを繰り返さないようにしてほしい。」とくぎを刺した。 東電や東芝はずさんな管理体制を立て直せるのか。 廃炉工程を担える企業なのかが問われている。 (五艘志織、越川智瑛、nikkei = 10-20-18)

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