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「弥生時代」の大幅な延長 (25)

「異様」な副葬品 奈良・富雄丸山古墳の木棺、被葬者の謎に迫る

造り出し(突出部)の木棺から新たに銅鏡と竪櫛(たてぐし)が見つかった奈良市の富雄丸山古墳(4 世紀後半)。 副葬品としては同時期の古墳と比べて少ないとされ、置かれた位置も含めて、「異様」な発見となった。 そんな棺に葬られたのは? 既に出土した巨大な蛇行剣や類例のない盾形銅鏡も視野に入れながら、専門家たちが性別や身分も含めて様々な見立てを語った。

被葬者は女性? それとも …

全長約 5.6 メートルの木棺は 3 分割され、被葬者は中央の「主室」に納められたとみられる。 竪櫛はその足側とみられる位置で見つかった。 鏡は足側の「副室」で、3 枚重ねて置かれていた。 「日本最大の円墳」の頂上からは過去、三角縁神獣鏡も出土したとされ、鉄製武器なども見つかった。 「墳頂部の被葬者は男性で軍事を、造り出しの被葬者は女性で祭祀(さいし)を分担したのでは。 きょうだいだった可能性が高い。」 今回の調査を指揮した奈良市埋蔵文化財調査センターの鐘方正樹所長はこう踏み込んだ。

古墳被葬者の性別による副葬品の違いを研究する岡山大の清家章教授は、女性の決め手となる遺物がなかった点を指摘。 一方で、「これだけの大型古墳の被葬者で武器を副葬されないのは男性なら考えにくい」との見方も示した。 「副葬品のセットが欠けている。 これでは性別は分からない。」 古墳時代の棺や埋葬施設に詳しい岡林孝作・奈良県立橿原考古学研究所(橿考研)学芸アドバイザーは、今回の副葬品の少なさに着目する。 いずれも「足側」に置かれた遺物も含めて、何度も「異様」と口にした。

蛇行剣と盾形銅鏡も併せ考えると

世の中を驚かせた蛇行剣と盾形銅鏡も考慮しながら、木棺に納められた人物の「立場」を考えるべき - -。 専門家の間ではそんな意見も目立つ。 岡林氏はこの二つの特異な遺物も念頭に置き、種類の少なさ、配置とも不可解な副葬品に目を凝らし、「中心の埋葬施設の被葬者を守護するようなイメージで極めて従属的」と描く。 邪馬台国の女王卑弥呼が死んだ時、百余人が殉葬されたとする魏志倭人伝にも言及。 「考古学ではあまり議論されてこなかった殉葬も視野に入れて考える事例になる」と語った。

福永伸哉・大阪大大学院教授は銅鏡など古墳の副葬品から「ヤマト政権」の姿に迫っている。 盾形銅鏡のほか、今回見つかった銅鏡のうち 1 枚は、三角縁神獣鏡の可能性もある。 「ヤマト政権に関与して様々な器物を手に入れたのは墳頂部の被葬者。 造り出しの被葬者は、その人物を補佐し、貴重な品々の一部を分け与えられる立場だったのでは」と推測する。

重要古墳の被葬者をめぐる議論は、しばしばファンも巻き込み話題を集める。 富雄丸山古墳の発掘調査検討会議で座長を務める和田晴吾・兵庫県立考古博物館長は「巨大な蛇行鉄剣と盾形銅鏡は他の古墳との比較が難しく、棺内の副葬品も少なかった。 今ある材料だけで被葬者の人物像に迫るのは難しいのでは。」と慎重な議論を求める。 泉森皎・由良大和古代文化研究協会代表理事はおよそ半世紀前、橿考研で同古墳の発掘調査を担った。 いま、古墳の謎に再び挑もうとしているが、岡林氏らと同じく、木棺の被葬者の性別は分からないと考える。 「玉や歯など、もう少し決め手となるような遺物がほしい。」

朝日新聞社は 5 月 31 日まで、富雄丸山古墳の価値などについて紹介するトークイベント「すごいぞ! 奈良の古墳 〜富雄丸山古墳と桜井茶臼山古墳に迫る〜」を配信しています。 福永氏と岡林氏が、この国の成り立ちに迫る重要古墳の意義を解説。 現地を取材する奈良総局の今井邦彦記者と橿原支局の清水謙司支局長が参加し、最新情報を交えてお届けしています。 無料でご覧いただけます。 申し込みは (a href="https://ciy.digital.asahi.com/ciy/11013036" target="_blank" alt="">募集ページ か QR コードから。 (今井邦彦、清水謙司)

- 朝日新聞 2024 年 3 月 14 日 -


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