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中国、民主化への道? (116)

「チャイナスタンダード」なる言葉、何とも奇妙に聞こえます。 しかも、「札束」で多国にまで押し付けるとなると、もう中国が忌み嫌っていた「覇権主義」、「帝国主義」そのものです。 その自己矛盾を気づかないわけないと思えるのですが …。

〈追記〉 中国が、戦争で犯した日本の罪を言及する時と全く同じ言葉で、中国が天安門で犯した罪について返すことができます。 意図的に避けたり、目をつぶることなく、正面から向き合わなければいけないのです。 そこで初めて、新しい中国が生まれるのではないでしょうか。

世界を席巻する中国的価値観「チャイナ・スタンダード」

カンボジアのリゾート地シアヌークビルは「第 2 のマカオ」と呼ばれる。 中国資本によるカジノ建設が相次ぎ、その数は年内に 40 カ所を超える見通しだ。 中国から観光客や不動産投資家が押し寄せる。 街の中国語学校は現地の子どもや大人で満員だ。 校長は「この街では英語より中国語が重要だ」と言う。 カンボジアでは中国マネーの恩恵で年 7% の経済成長が続く。 中国の影は国家統治のあり方にも及ぶ。 首相のフン・センは 7 月の総選挙を前に最大野党を解党させた。 追いかけるのは、一党支配の中国が示す「民主化なき発展」の道だ。

欧米の影響力に陰りが見えるなか、中国の存在感が増している。 中国的なシステムや価値観が生み出す「チャイナスタンダード」が既存の秩序を揺るがしつつある。 民主主義や人権といった普遍的価値も例外ではない。

  1. 中国が手本、カンボジアの「民主化なき発展」

    フン・セン政権は昨年 10 月、「カンボジアのカラー革命」と題したビデオを公表した。 カラー革命とは 2000 年ごろから、旧ソ連・東欧や中東諸国で独裁や腐敗に抗議して政権を倒した民主化運動を指す。 ビデオは、デモ隊が治安部隊とぶつかる映像、野党が躍進した 13 年のカンボジア総選挙の際の衝突、さらには旧ポル・ポト政権時代の大虐殺を思わせる大量の頭蓋骨(ずがいこつ)を映し出した。 野党をのさばらせて「カラー革命」を許せばカンボジアにも悲劇が再来するとの暗示だ。

  2. 「カラー革命」敵視で共鳴 中国式ガバナンスへの傾倒

    同じようなビデオは、中国にも存在する。 13 年、軍幹部を養成する国防大学が制作した。 昨年 9 月、その中国から帰って来たフン・センは「中国とカラー革命の研究所を設立する」と発表。 「反カラー革命」は、個人の自由より国家の安定を重んじる中国的な統治に傾く国々を結ぶ合言葉となる様相だ。

  3. 国に屈した人権先進国 狙い撃ちされたノルウェー

    中国の価値観は先進国にも影を及ぼす。 ノルウェーのノーベル委員会が 10 年、中国共産党の支配を批判した人権活動家の劉暁波(リウシアオポー)にノーベル平和賞を贈ると、ノルウェー産のサーモンは中国の税関を通らなくなった。 秋波を送るノルウェーを中国が許したのは 6 年後。 この間の対立を経て、ノルウェーの国会内には超党派の親中グループができた。 「自由や民主主義は大事だが、『我々の道が唯一の道』というのは傲慢だ」とメンバーは話す。

  4. 「命の恩人」に急接近 中国の代弁者になるギリシャ

    欧州連合 (EU) は昨年 6 月の国連人権理事会で、中国の人権状況を批判する声明を準備したが、ギリシャの反対で挫折した。 ギリシャは 10 年の経済危機で EU 内で「お荷物」扱いされた時、中国に支えられた恩義がある。今は EU 内の「代弁者」となっている。

  5. 人権保護にも中国式、人権の定義書き換えへの懸念

- 朝日新聞 2018 年 6 月 2 日 -


習氏が唱える「中国式統治モデル」輸出の危うさ

中国国家主席、習近平(シー・ジンピン)が声高に唱え始めた中国外交の基本理念が今、世界各地に根を張る中国系の華僑・華人の間で「トランプ米政権との貿易戦争ばかりではなく、新たな摩擦を生み出しかねない」としてひそかに論争の種になっている。 それは先に 4 年ぶりに開いた共産党の中央外事工作会議で繰り返された中国が主導する「人類運命共同体」という概念である。 習近平は「中国的特色のある大国外交」について「人類運命共同体」の旗を掲げるとした。 中心に据えた考え方は「グローバル時代の多元性と多様性」だとしている。

「人類運命共同体」の多元性とは …

「昨秋の共産党大会で習近平の外交思想として出てきた『人類運命共同体』の当初の発想は良い。 だが、(中国政府の資金を使う経済圏構想である)『一帯一路』とセットの中国経済圏入りを意味するなら、多元性や多様性にはほど遠い。 中国を核とする新たな『冊封(朝貢)体制』づくりの理念であるという不必要な批判を受けてしまう。」

これは東南アジアなどで手広く商売を手掛けるある華人の言である。 世界に広がる 6,000 万にも上る華人・華僑の人脈と経済力。習近平政権は昨秋の共産党大会以降、中国の国際的な影響力を広げようと彼らに積極的に働きかけている。 各国で生活する華人・華僑らは現地の世論にも敏感だけに、一家言あるのだ。 確かに最近、米国防長官のマティスが、明王朝時代のような北京に叩頭(こうとう)する「朝貢体制」になぞらえて中国を激しく批判している。 それは 6 月末に習近平と北京で会談する直前という微妙なタイミングだった。

もう一つ大きな問題は「人類運命共同体が『中国式統治モデル』の輸出を支える理論になりかねない」と警戒され始めた点だ。 一党独裁の下、批判を許さぬ厳格なインターネット、交流サイト (SNS) 上の言論統制、人工知能 (AI) 連動のカメラによる顔認証といった国民皆監視システム …。

中国が得意とする社会管理システムを他国に輸出する行為は、結果的に世界で強権的な国家をどんどん増やしてしまう。 実際、中国は「中国方式の社会管理を学びたい国があれば歓迎する」としている。 発展途上にあるアフリカの小国家などが興味を示しているという。 中国側にも事情はある。 第 2 次世界大戦後、社会主義体制の国家群は膨張し、中国が親しい仲間と見なす国は一時、30 カ国を超えた。ところが、1989 年の東西ドイツの壁崩壊と、それに続くソ連解体に象徴される社会主義国の破綻で、中国の仲間は急速に減っていった。

「仲間は 4 カ国のみ」の窮状

今や中国共産党機関紙、人民日報が特別扱いする同志の国は、ベトナム、北朝鮮、キューバ、ラオスぐらいである。 それらの社会主義国といえども中国べったりではない。例えばベトナムとは、かつて中越戦争を戦い、南シナ海で対峙している。 中国は経済的には極めて大きくなったが、安全保障上は楽ではない。 真の仲間が少ないのだ。 そんな中国は、小さくてもよい、強権的な国家でもよいから仲間を増やす必要に迫られている。 仲間らは、将来にわたって自らの体制を守る保険にもなる。 これが人類運命共同体が掲げる「多元性、多様性」の一つの側面である。

その意味では、若き金正恩(キム・ジョンウン)の北朝鮮が米朝首脳会談の結果、トランプ側に行ってもらっては大いに困るのだ。 金正恩に翻弄されながらも、習近平は「大人の対応」を取っている。 頻繁な中朝首脳会談は、北朝鮮引き留めのためでもある。 この「人類運命共同体」に関連して、習近平は最近、対米関係で一定の融和的な姿勢も示している。 6 月末、北京でマティスと会談した際も、これまで繰り返してきた米中二大国だけによる「太平洋分割統治の提案」と見られがちな言説を封印した。

そして「大きな太平洋は中国と米国ばかりでなく、その他の国家も受け入れるだけの広さがある」と強調したのだ。 2013 年から習近平が何度も使った「太平洋は中国と米国を受け入れるだけの広さがある」との言い回しの後に「その他の国家」を加えたのは初めてだった。 これは今年、トランプ政権がハワイ沖で実施する環太平洋合同演習(リムパック)に中国軍を招待しなかった経緯も意識していた。 中国が南シナ海であっという間に建設した人工島の「軍事拠点化」が理由だった。 中国としては、中国軍の太平洋進出は譲れないものの、それは他国を排除するものではないと言いたいのである。

対米関係は "微修正"

習近平は 12 年に共産党トップに就いた後、胡錦濤(フー・ジンタオ)前政権までの爪を隠して力を蓄える「韜光養晦(とうこうようかい)」と呼ばれる対外政策を捨て去った。 それは国内、そして対外的な経済政策でも明確だった。 35 年までに少なくても経済面で米国に追い付く - -。 トランプ政権が目の敵にしている「中国製造 2025」と対をなすこの国家目標の達成時期は、胡政権の時代に比べ 15 年近くも前倒しされている。

米国に追い付く過程で中国自身のテリトリー、生存圏を拡大するための理念が「人類運命共同体」である。 とすれば今回の中国の "軟化" は、「習近平新時代」になってから一貫して強気だった中国外交の方針転換とは言いにくい。 それは米国との摩擦激化に対応する微修正にすぎない。 (中沢克二)

1987 年日本経済新聞社入社。 98 年から 3 年間、北京駐在。 首相官邸キャップ、政治部次長、東日本大震災特別取材班総括デスクなど歴任。 2012 年から中国総局長として北京へ。 現在、編集委員兼論説委員。 14 年度ボーン・上田記念国際記者賞受賞。

- 日経新聞 2018 年 7 月 3 日 -

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