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豊 か さ と 幸 せ の 基 準 - アジアの養殖魚

筆者も東南アジア諸国では、しばしばティラピアをいただきました。 最初にこの魚名を地元の友人に教えて貰った時は、一瞬あの人食い魚でないかと驚いてしまったのですが、淡白な白身魚でくせもありません。 それ以来アジアの諸国を訪れるたび、この魚を選んで食するようになっています。 ただ、この魚が 50 年前に現天皇が前タイ国王に養殖を勧めた魚だったとは全く知りませんでした。

筆者がタイをしばしば訪れていたのは、ずっと前、若い頃でしたのでティラピアをバンコクで食べた記憶はありません。 まだ普及していなかったのでしょう。 筆者の体験は、シンガポールやマニラでした。 とりわけ、フィリピンは、他のアジア諸国に比べると意外と淡白で、日本人にとっては馴染みやすい味付けです。

かみさんとレストランに入り、ティラピアの料理を頼んだ時など、直ぐにシェフが厨房から飛び出してきて、調理法を確認してくれました。 もしや、ローカル色豊かな料理を期待しているのかもしれないと気にしてくれたのでしょう。 しかしローカルフードに食べ飽きていた筆者は、しつこくならないように、バターでサッとソテーして、ライムをスクィーズ、あっさりと魚の味そのものが賞味できるようにお願いしました。

タイが愛する陛下の魚 半世紀で養殖拡大、今や国民食

天皇、皇后両陛下が28日からベトナムを訪れた後、3 月 5 日にタイに立ち寄り、昨年 10 月に死去したプミポン前国王の弔問をする。 天皇陛下はおよそ半世紀前、タイの食糧難を救おうと、前国王にティラピアの養殖を勧めた。 その養殖が広がり、ティラピアはタイで最も愛される大衆魚となり、両国の「友好の証し」にもなっている。

甘辛いタレや香草で

バンコク有数の食品市場クロントイ。 魚売り場は午後も客足が絶えない。 「プラーニン(黒い魚)」と呼ばれる黒光りしたティラピアが店頭の半分以上を占める。 1 キロ近い大物は 1 匹 60 バーツ(約 200 円)。 女性店主のドントゥリーさん (45) は「半日で 500 キロ売れる。 休む時間がないよ。」と笑った。 ティラピアは、魚食が盛んなタイで最も消費が多い淡水魚だ。 定番は甘辛いタレや香草で味付けした姿揚げ。 水産局によると、2014 年の出荷量は約 19 万トンで 20 年前の約 3 倍となり、出荷額は年 34 億円を超えた。 淡水魚の養殖は約 40 万人の雇用も生んでいる。

養殖の歴史は 1960 年代にさかのぼる。 魚類学者でもある天皇陛下(当時は皇太子)が 64 年末にタイを訪れた際、農村の食糧難を救う手として、繁殖力の強いティラピアを勧めた。 翌年、日本から贈られた 50 匹をプミポン前国王が宮殿の池で繁殖させた。 1 万匹まで増やし、水産試験場を通じて稚魚が各地に配られた。

養殖池は、国を縦断するチャオプラヤ川流域を中心に国内約 28 万カ所に広がった。 総面積は東京ドーム 1 万個分を超える。 最下流にある中部サムットプラカーン県には、国内最大の 800 軒の養殖農家が集まる。 かつて米農家だったスリヤン・プルアンスィさん (55) は「10 年前に養殖に切りかえ、年収が約 15 倍の 360 万円に増えた」と喜ぶ。 米価の低迷と肥料高騰に悩む米農家が、水田を掘って池に変えている。

同県の水産試験場長ブラシャット・チャンタカノンさん (53) は「高価なエビを一緒に飼って収益を上げたり、池に鶏小屋を掛けてフンをエサ代わりにしたりと、様々な裏技が編み出されています」と語る。 輸出も増加。 14 年には計 1 万 5 千トンが米国や日本へ。 白身フライなどに使われている。 釣りも人気で、バンコク近郊の釣り堀「パイロット 111 フィッシング」は、月の利用客約 600 人の約 8 割が日本人だ。 従業員は「放流すれば勝手に増えるし、大型魚のエサにもなってくれる」と重宝する。

歌会始で感慨を詠む

ガラス壁(へき)に産みし卵をかはりあひて親のティラピア守り続けをり

天皇陛下は 67 年の歌会始で、タイで養殖が広がった感慨をこう詠んだ。 タイでは、王室関連の出版物や大学の教材に、ティラピアが日本との交流の象徴として登場する。 地元の養殖業者たちは「日本は、食べてなくなる『魚』ではなく、暮らしを支える『魚の育て方』をもたらしてくれた」と口々に言う。 昨年の国王死去後は、追悼番組で養殖の実績が紹介された。 有力英字紙バンコク・ポストも、陛下訪問を伝えるニュースの中で「50 年を超える親交」を紹介。 記事のアクセスは約 1 万件に上り、タイでは両陛下の歓迎ムードが漂う。

世界100カ国以上で養殖

日本からタイに贈られたティラピアは、その後、アジア各国に広がった。 タイ中部のモデル農家スラチャイ・サージウさん (56) の池には、中国や欧州などから年に約 4 千人が研修に来る。 今では世界の 100 カ国以上で飼われているという。 国際機関の集計によると、世界のティラピアの生産量は 14 年時点で約 370 万トンと、この 10 年で倍増した。 養殖魚としてはサケを超え、コイに次いで 2 番目に多い。 国連食糧農業機関 (FAO) は「発展途上の国々はティラピアの養殖によって、必要最低限のたんぱく質を確保してきた」と分析している。 (バンコク = 乗京真知)

縁が深い王室と皇室

タイ王室と皇室の縁は深い。 プミポン前国王夫妻は 1963 年に国賓として来日。 89 年の昭和天皇の大喪の礼、翌 90 年の即位の礼には皇太子だったワチラロンコン国王が出席した。 天皇、皇后両陛下は 64 年にタイを初訪問。 91 年には即位後初の外国訪問先として、2006 年には国王即位 60 年式典で訪れた。 皇太子さまをはじめ皇族方もたびたび訪問。 特に秋篠宮さまは研究などで何度も訪れ、03 年にはご一家で旅行。 長女眞子さま、次女佳子さまにとっては初の外国旅行だった。 プミポン前国王の死去後、天皇陛下は弔電を送り、両陛下は 3 日間、お気持ちとして喪に服した。 (島康彦)

皇室とタイ王室の交流とティラピアの養殖

1963 年 プミポン国王(当時)が日本を訪問
1964 年 皇太子だった天皇陛下がタイを訪問、養殖を勧める
1965 年 日本からタイに稚魚約 50 匹が贈られる
1966 年 バンコクの宮殿の池で繁殖後、各地に広がる
2006 年 プミポン国王の即位 60 年の祝典に天皇陛下出席
2016 年 養殖 50 周年で、タイ閣議でティラピア料理配膳

ティラピア〉 アフリカ原産の淡水魚で、古代エジプトの壁画にも登場する。 水質を選ばず、繁殖力が強い。 タイでは料理しやすい 500 グラムから 1 キロが主流で、1 匹 150 円前後。 日本にもチカダイ、イズミダイの名で輸出されている。日本では主に沖縄や鹿児島に生息。環境省が、生態系に影響を及ぼす恐れがある外来種として監視している。

- 朝日新聞 2017 年 2 月 26 日 -

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