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金正恩、凋落の始まり (14)

金正恩氏、また雲隠れ 「現実主義」との関連指摘も

今月 1 日に 20 日ぶりの動静が確認された北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長が、再び「雲隠れ」している。 韓国政府は政務をこなしているとみる。 正恩氏は最近、最高指導者の偶像化を弱めようとしており、この「現実主義」との関連を指摘する声も出ている。 正恩氏は 4 月 11 日に党政治局会議に出席してから動静が途絶え、15 日の金日成(キムイルソン)主席の生誕記念日「太陽節」の行事に出席しなかったことから、健康悪化説が広まった。 ところが 5 月 1 日、20 日ぶりに工場を視察する姿が報じられた。

その後、再び 20 日間以上、動静が報じられていない。 北朝鮮の内情に詳しい関係者は「正恩氏は地方の別荘などで幹部らと政策討議や事業報告、決裁をスケジュール通りこなしているようだ」とみる。

こうしたなか労働新聞が 20 日、最高指導者の偶像化に用いてきた「神話」を否定する記事を載せたことが、韓国の北朝鮮専門家らの間で注目された。 正恩氏の祖父の金日成主席や父の金正日(キムジョンイル)総書記は、落ち葉に乗って大きな川を渡るといったような宣伝を行い、偶像化を進めてきた。 これについて記事は「実際は人間が、いたところから消えたり再び現れたりできない」とした。 北朝鮮では、最高指導者に言及する際に独断で行うことはありえず、記事は正恩氏の意向が反映されているとみられる。

また、労働新聞の昨年 3 月の記事では正恩氏自身も「もし偉大さを強調するなどといって、首領(最高指導者)の革命活動や風貌を神格化すれば、真実を隠すことにつながる」と述べた。 韓国の北朝鮮専門家は「正恩氏が先代の神話による統治を薄め、現実主義や実用主義で政治を行おうとしている」とみる。 北朝鮮の内情に詳しい別の関係者は、健康悪化説の発端となった「太陽節」行事の不参加も、正恩氏の現実的な行動の一つだったとみている。 この関係者によると、北朝鮮は 4 月初めの時点で、新型コロナウイルスの影響から行事を中止か縮小すると事前に決めていたという。 (ソウル = 神谷毅)

- 朝日新聞 2019 年 5 月 22 日 -


水着美女の「誘惑作戦」も … 北朝鮮を悩ませた体制批判ビラの効き目

青瓦台(韓国大統領府)は 11 日、北朝鮮に向けて脱北者団体などが体制非難のビラなどを散布する行為について「今後は徹底的に取り締まり、違反があれば厳正に対応する」との方針を発表した。 脱北者団体によるビラ散布を巡っては、金正恩朝鮮労働党委員長の妹・金与正(キム・ヨジョン)党第 1 副部長が 4 日に発表した談話で、韓国政府の責任を問う立場を表明。 ビラ散布に対する法規制などの措置を迫った。 これに続き、北朝鮮は 9 日から、南北首脳間のホットラインをはじめ、南北間の全ての通信連絡線を遮断している。

こうした動きを受け、韓国政府は 10 日、ビラ散布を行っている脱北者団体を南北交流協力法違反などで告発し、両団体に対する法人設立許可を取り消すと発表している。 脱北者団体のビラ散布は、独裁体制下の人権蹂躙に苦しむ北朝鮮国民への支援活動ともリンクしており、韓国国内の対北強硬派だけでなく、国際人権団体からも反発が強まるのは必至だ。 実際、ヒューマン・ライツ・ウオッチ (HRW) は 11 日、韓国政府が北朝鮮にビラを飛ばした脱北者団体を刑事告発したことを巡り、韓国政府は北朝鮮の脅しに「平身低頭」していると批判した。

文在寅政権がこうした声に耳を傾けることなく、対北ビラの散布を抑え込むならば、金正恩氏は韓国との心理戦で、祖父や父の成し遂げられなかった大きな勝利を得ることになる。 韓国と北朝鮮は朝鮮戦争(1950 年 - 53 年)の時以来、政府当局や民間団体がビラの散布合戦を繰り広げてきた。 国連軍が朝鮮戦争において、北朝鮮と中国の共産陣営に対して散布したビラは 1,000 種以上、計 10 億枚にも及ぶ。 共産陣営側も負けじと大量のビラを配布し、朝鮮戦争は一部で「ビラ戦争 (Leaflet War)」とも呼ばれたという。

この時期に双方が撒いたビラは、主に敵の残虐なイメージを強調するものだった。 また戦争の後半には双方とも、母国を離れて戦う国連軍兵士や中国軍兵士の士気を落とすべく、郷愁を誘う内容のビラも散布した。 朝鮮戦争が休戦となった後も、南北は自国の体制の優越性を誇り、あるいは相手側の「ひどさ」を強調する「ビラ」を飛ばし合った。 北朝鮮が韓国に経済力で勝っていた 1960 年代から 70 年代にかけて、自国は「民衆中心の国」であり「医療費も要らず公害のない民衆が住み良い社会」であると宣伝し、金日成主席の偉大さをアピールしたビラは、一部の韓国国民に対してそれなりの説得力を持ったかもしれない。

だが、韓国が高度経済成長を経て豊かになるにつれ、ビラを通じた宣伝力でも自ずと差が付き始めた。 韓国当局は 1980 年代、水着姿の美人タレントらの「悩殺写真」を刷ったビラを前線の北朝鮮兵士めがけて散布し、脱走と亡命を促した。  こうしたグラビアの類は、北朝鮮社会では決してお目にかかることの出来ないシロモノだ。 洗練された韓国美女の水着写真を見た 18、19 歳の北朝鮮兵士が、どれほどの衝撃を受けたかは想像に難くない。 そして最近、脱北者団体・自由北韓運動連合が北に向けて飛ばしたビラでは、北朝鮮の一般国民が決して知ることのできない金一族の「暗部」が暴露されている。

こうしたビラは北朝鮮国民に対し、どれほどの影響力を持つのか。 ビラの多くは非武装地帯などの韓国側地域に落下してしまい、北朝鮮国民に届くように飛ばすのは簡単ではないとされる。 だが、「少数でも人々の目に触れるならば、与える効果は絶大だ」と韓国在住の脱北者男性が話す。 「情報が厳しく統制されている北朝鮮社会でも、今や海外の話題も含め、様々な噂話が口コミで広く拡散している。 それでも、金一族に対するこうした情報はほとんど伝わっておらず、事実を知った時の衝撃は大きいのです。

私は 1980 年代に、韓国と旧ソ連が首脳会談を行ったことを知らせるビラを見たことがあるのですが、ものすごくショックでした。 『ソ連はわが方のはずなのに、なぜ!?』という感じです。 韓国からは、ビラと同じような内容を短波放送でも飛ばしていますが、聞く機会を得るのは難しい。 でもビラは一目で読むことができるし、回し見もできる。」 脱北者団体は、ビラと一緒に同様のコンテンツを記録した SD カードや USB メモリも飛ばしているが、北朝鮮当局は国内で使用される情報端末に、特別な認証を受けた記録媒体でなければ再生できなくする処置を施しているとも言われる。 しかし単なる紙のビラであれば、北朝鮮の人々の下に届きさえすればよいのである。 (高英起)

- デイリー NK ジャパン 2020 年 6 月 14 日 -


金正恩「秘密の家系図」が北朝鮮国内で拡散、当局緊張

北朝鮮北部、両江道(リャンガンド)の恵山(ヘサン)の市民の間では最近、「白頭の血統家系図」なるものが拡散している。 「白頭の血統」とは金正恩党委員長につながる金氏一族のことを指すが、米政府系のラジオ・フリー・アジア (RFA) の現地の情報筋は、その家系図の内容を次のように説明した。 「金日成主席と金正日総書記には複数の夫人がいて、金正恩氏は金正日氏の正妻ではなく妾との間で生まれた 3 番目の息子で、事実上『白頭の血統』とは程遠い。」

この「妾」とは、大阪出身で 1962 年に北朝鮮に帰国した在日朝鮮人の高ヨンヒ氏のことで、1970 年から金正日氏と同棲生活を始め、金正哲(キム・ジョンチョル)、金正恩、金与正(キム・ヨジョン)の 3 人の子の母となった。 彼女以外にも金正日氏は、わかっているだけでも生涯に 5 人の女性と関係を結んでいる。 その中には、クアラルンプール国際空港で暗殺された金正男(キム・ジョンナム)氏の母の成恵琳(ソン・ヘリム)氏や、唯一の正妻で 3 番目の妻と言われている金英淑(キム・ヨンスク)氏も含まれている。

ややこしい関係だからこそ、余計に人々の好奇心をくすぐるのだろうが、金氏一族のプライベートについて言及すること自体が極めて不敬なこととされ、バレれば重罪は免れない。 また、「監督不行き届き」として、管轄の安全署(警察署、旧称保安署)や保衛部(秘密警察)までが責任を負わされる可能性もある。

両江道安全局(道府県警本部に相当)と保衛局は、新型コロナウイルス対策で国境が封鎖されているのに、この手の不敬な情報が流れているのは、違法に持ち込まれた中国キャリアの携帯電話のせいだと見て、大々的な取り締まりを始めた。 そんな携帯電話を持っているだけで、最高尊厳(金正恩氏)を毀損する情報など、体制を脅かす内容を拡散させかねないとして、所有者をしらみつぶしに探しているという。

咸鏡北道(ハムギョンブクト)の情報筋は、15 日に茂山(ムサン)で行われた脱北者糾弾大会に参加した人 2 人が、違法な携帯電話を所持していた容疑でその場から連行されたと伝えた。 恐怖心を煽るためのショーのネタとして利用された形だ。 ところが困ったのは、脱北して韓国に住む家族を持つ人たちだ。 彼らは、中国キャリアの携帯電話を使いブローカーを通じて韓国の家族から仕送りを受けているが、取り締まりの強化で受け取れなくなり、暮らしていけないというのだ。 困るのは脱北者家族だけではない。保衛部は、あれこれ理由をつけて仕送りの一部を脅し取ることで収入としてきたが、取り締まりを強化すれば、自分たちの収入も減ってしまうのだ。 (高英起)

- デイリー NK ジャパン 2020 年 6 月 28 日 -

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