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横田早紀江さん「悲観していない」 前向く拉致家族に歓迎と戸惑い

史上初の米朝首脳会談でトランプ米大統領は 12 日、金正恩(キム・ジョンウン)朝鮮労働党委員長に「拉致問題を提起した」と表明し、拉致被害者家族からは評価する声が上がった。 ただ、トランプ氏は具体的内容や金氏の反応を説明せず、「これから協議する」との言及にとどまり、同日夜にトランプ氏と電話会談した安倍晋三首相からも進展について明言はなく、家族は日米両国に対して「解決の道筋を明示してほしい」と切望した。

「簡単には解決しない。 後は日本がやらねば。 悲観はしていません。」 米朝会談終了を受け 12 日夕、記者会見した横田めぐみさん (53) = 拉致当時 (13) = の母、早紀江さん (82) は力を込めた。 早紀江さんは米朝トップが握手を交わし、拉致が提起されたことに「歴史的なことが起きたが、不安もある」と語った。 また、全被害者の即時帰国へ、安倍晋三首相と金氏による直接交渉を求め、「めぐみに一瞬でも会いたい」と訴えた。

家族会代表で田口八重子さん (62) = 同 (22) = の兄、飯塚繁雄さん (80) は「歴史的会談で日本人拉致が再度クローズアップされてきたことは歓迎するし期待もする」と述べた。 会談前、拉致解決へトランプ氏の踏み込んだ発言を期待していた飯塚さんは「そこまでいかなかったようだが、提起を受けて日本政府、安倍首相が具体的にどう動くか、早急に考えてほしい」と求めた。

市川修一さん (63) = 同 (23) = の兄、健一さん (73) は会談で核問題が中心になることは想定できたとし「日朝交渉は長年進まず、拉致問題は膠着していた。 国のトップが金氏に明確な形で直接、拉致を提起したのは初めてではないか。 今後は日本政府の戦略と取り組み、国民世論の一層の後押しもお願いしたい。」と呼びかけた。 「北朝鮮の反応が分からない」と戸惑ったのは八重子さんの兄、本間勝さん (74)。 「トランプ氏が安倍首相に拉致の交渉をバトンタッチすると明言すれば、日朝交渉の先行きがはっきりする」と語った。

鳥取県米子市でテレビ中継を見守った松本京子さん (69) = 同 (29) = の兄、孟(はじめ)さん (71) は、トランプ氏の記者会見で拉致が質問されたことに触れ「世界へ発信され大きな力になる。 今後の協議によっては日朝首脳会談につながる」と前向きだった。 めぐみさんの弟、拓也さん (49) は「次の『協議』が米朝か、日朝なのか分からない。 日本と米国は解決に向けた道筋を明確に示し、取り組みを加速していただきたい。」と求めた。

「共同宣言で大事な拉致問題が触れられず、トランプ氏の会見でも思い入れが感じられなかった」と無念をにじませたのは、13 日が誕生日の松木薫さん (65) = 同 (26) = の姉、斉藤文代さん (72)。 「薫もまた、年を取る。 私にも時間がない。 悔しさと、悲しさがこみあげてくる。」と声を震わせた。 石岡亨さん (60) = 同 (22) = の兄、章さん (63) は「共同声明に具体性はなく、トランプ氏に振り回された印象もぬぐえない。 日本政府は北朝鮮へ独自に働きかけるなど解決策を矢継ぎ早に打ってほしい」と厳しく求めた。

- 産経新聞 2018 年 6 月 12 日 -


安倍晋三首相がかつて批判した平壌宣言 … 「拉致解決」最大のツールに 16 年前「国交正常化優先」

平成 14 年(2002 年) 9 月の日朝首脳会談で、小泉純一郎首相と金正日国防委員長(いずれも当時)が署名した日朝平壌宣言が 16 年の時を経て大きな価値を持つようになってきた。 官房副長官として会談に同席した安倍晋三首相は平壌宣言に批判的だったが、北朝鮮への多額の経済支援をうたったこの「証文」は、安倍首相が金正恩朝鮮労働党委員長に拉致問題の全面解決を迫る上で、最大のツールになりえるからだ。

「1970 - 80 年代に特殊機関で妄動、英雄主義があった。 これからは絶対に起こさない。 遺憾なことでおわびする。」 平成 14 年 9 月 17 日の平壌で開かれた日朝首脳会談。 小泉氏の抗議を受けた金正日氏は拉致を認め、謝罪した。 ところが、平壌宣言には「拉致」も「謝罪」の言葉も明記されず、「日本国民の生命と安全にかかわる懸案問題」という表現があっただけだった。

平壌宣言は、秘密交渉を続けた外務省の田中均アジア大洋州局長(当時)と北朝鮮側の「ミスター X」らにより作成された。 国交正常化を最優先させた内容で「過去の清算」を明記し、国交正常化後に日本が北朝鮮に行う経済協力に関する表記は、全体の 4 分の 1 以上を占めた。 その後に拉致問題担当相や内閣官房参与として拉致問題に関わった中山恭子参院議員は「宣言は拉致被害者救出どころか、拉致を認めて謝罪すれば、それ以前の拉致問題は不問にして終局する、拉致問題を収束させ国交正常化を図るという日本政府の方針がはっきり読み取れる」と批判する。

しかも田中氏は、北朝鮮が横田めぐみさんら拉致被害者 8 人が「死亡した」と伝えてきたことを、平壌宣言署名直前まで小泉氏にも報告していなかったとの疑惑もある。 こうした経緯から、安倍首相はかねて平壌宣言に批判的だった。 拉致問題をめぐる田中氏との確執は語り草となっている。 ところが、状況は大きく変わった。 米国のトランプ大統領とともに、核・ミサイル開発を続ける北朝鮮に対する国際包囲網を構築し、「最大限の圧力」をかける戦術は奏功した。

音を上げた金正恩氏は、トランプ氏との米朝首脳会談で体制保証と引き換えに「完全な非核化」を約束した。 だが、トランプ氏は経済支援する考えは一切ない。 疲弊した北朝鮮の経済を立て直すには、平壌宣言で多額の経済支援をうたった日本に頼らざるを得ない状況になりつつある。 韓国と国交正常化した際の経済支援を参考に試算すると、北朝鮮に対する経済支援は総額 1 兆 - 2 兆円になるとの見方もある。

このため、安倍首相は平壌宣言をちらつかせながら、核・ミサイル問題に加え、拉致問題についても全面解決を迫る構えだ。 拉致問題を置き去りにした「証文」が、拉致問題解決のテコとして役立つのは、歴史の皮肉といえなくもない。(田北真樹子)

- 産経新聞 2018 年 6 月 15 日 -


【北朝鮮拉致】 日本人拉致の現実、世界に発信

北朝鮮で 4 カ月半拘束の米記者、ドキュメンタリー制作

北朝鮮当局に約 4 カ月半拘束された経験のある米国人ジャーナリストが、日本人拉致問題を題材にしたドキュメンタリー作品を制作した。 拉致被害者の曽我ひとみさんを含む日米の関係者 16 人を取材し、問題の概要から直近の状況まで理解できる内容に仕上げた。 今月 10 日に英語版・韓国語版が発表され、関係者からは「海外で拉致問題の理解が広がる」と期待の声が上がる。

「生みの母親がいると知ったのは 21、22 の時でした。(田口八重子さん = 拉致当時 (22) = の長男、飯塚耕一郎さん)」、「自国のスパイ養成がうまくいかず、拉致した日本人を訓練に利用し始めたのです。(ニューヨーク大のロバート・ボイントン教授)」 米政府系メディア「ボイス・オブ・アメリカ」のサイトなどで発表された 27 分の映像作品「ペイン・ウィズ・ノー・エンド(終わりのない苦悩)」には、被害者家族や支援者のほか、加藤勝信拉致問題担当相や学者、新聞記者など多方面の関係者が登場。 それぞれの証言を基に経緯を振り返る内容になっている。

制作プロデューサーのユナ・リー氏によると、取材は昨年秋に開始。 トランプ米大統領の就任直後から、日本側が拉致問題に関する働きかけを再三行う姿に関心を持ち「これだけ時間の経過した問題が、なぜ日本政府と国民にとって今も重要なのか明らかにしたい」と考えたという。

ナレーションや劇的な音楽を一切挿入しない演出は、リー氏自身が取材中に北朝鮮に拘束され「自らの意思と関係なく家族と生き別れた」経験が反映されている。 「当事者の思いは、他人のどんな言葉や文章でも表現するのが難しい」と実感しており、「代わりに『話す』のではなく、事実をそのまま『伝達』する」ことを心がけたという。

「救う会」の西岡力会長は「取材を積み重ねたことがよく分かる作品だ。 問題発生当時だけでなく、現況まで伝えてくれる海外作品は他にない」と評価。 「影響力のある媒体で発表されており、日本の立場について海外で理解が進めば」と期待を寄せている。 作品は動画サイト・ユーチューブの「ボイス・オブ・アメリカ」チャンネルなどで公開されている。 (時吉達也)

北朝鮮による米国人記者拘束事件 2009 年 3 月、中朝国境を取材していたアジア系米国人ジャーナリストのユナ・リー氏ら記者 2 人が、不法入国などの罪で北朝鮮当局に拘束された事件。 ともに労働教化刑 12 年の判決が言い渡された。 解放交渉のため、クリントン元大統領が平壌入りし、金正日総書記らと会談。 2 人は同 8 月、恩赦が与えられ米国に帰国した。

- 産経新聞 2018 年 7 月 31 日 -

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