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中国の官僚腐敗、暴露続ける郭氏に単独取材 一問一答

米政府系放送局ボイス・オブ・アメリカ (VOA) の番組をきっかけに、中国人実業家、郭文貴氏が訴えた中国最高指導部メンバーらの「腐敗疑惑」の波紋が広がっている。 その真偽はわからない。 そこで、朝日新聞は渦中の郭氏に連絡を取り、4 月末に米ニューヨークで単独取材をした。 郭氏は、疑惑の内容や経緯について語ったが、証拠はその場で示さず、近く開く予定の記者会見で詳細を明らかにするという。 主なやりとりは以下の通り。

「次官側から 5 千万米ドル要求」

Q : ボイス・オブ・アメリカ (VOA) のインタビュー番組に出演中、「習近平(シーチンピン)国家主席の意向で、(反腐敗の盟友である)王岐山(ワンチーシャン)・中央規律検査委書記の親族の腐敗を調べた」という趣旨の証言をした。 どういうことなのか。

A : 中国の政治はずっとブラックボックスで、外からは真相が分かりづらい。 日本人は表面からしか見えない。 2 人の関係がよいと言うが、互いに信頼し、気に入ったとしても、中国政治というのはある程度のところまで来ると、友情というのはあり得ない。 毛沢東と劉少奇(元国家主席・文化大革命で失脚)の関係、胡錦濤(前国家主席)と令計画(元党統一戦線工作部長。 胡氏の側近とされたが、汚職で服役中)の関係がよい例だ。 最良の政治パートナーこそが最大の政敵かもしれない。

番組では、42 分間の(電話のやりとりの)録音が放送されなかった。 これは公安省現役次官の弟との会話で、私の会社の社員や家族が捕まったという話をしている。 私が彼らの仕事(王氏らの調査)を手伝えば、家族を解放し、(凍結された)国内の資金も使えるようにすると。 お金のやり取りは会社の幹部がしたので米ドルか人民元か分からないが、(家族らが)捕まる前に、現金で次官側に 150 万を渡していた。 私は次官に(何かあれば)助けてもらおうと思っていたのだ。 なぜなら、中国ではこうしたトラブルは人に頼るしかない。 裁判所や検察、警察も彼の言うことを聞くからだ。

後になって、妻や娘が解放された。 その時に、次官側から 5 千万米ドル(約 55 億円)を海外で要求された。 この金のやりとり以外に、私が(調査の)ボスは習主席かと聞いたら、彼は肯定も否定もしなかった。 以前から公安省や国家安全省とはつながりがあり、海外の調査の多くは私が手がけ、金を出した。 (汚職容疑で捕まっている)同省元幹部が海外で最も頼りにしていたのは私だ。 私は海外に会社があり、法律も分かっていたからだ。

だから、次官も私を頼り、「王氏の親族を君に調べてほしいとボスが言っている」と言ってきた。 王氏のおいは(海南島を拠点とする)海南航空の株主だ。 次官側は海外での株や資金のやりとりを調べろと。 王氏には子どもがおらず、おいが後継者とみられている。

正直に言えば、私には習主席が調査を命じたとは思えない。 次官が恐怖心から私に調べさせたのだと思う。 (習主席が総書記になってからの) 5 年間の中国の反腐敗というのはすべて政治闘争だった。 それを指揮したのが、王氏であり、(公安、司法部門を取り仕切る)孟建柱・党中央政法委書記だった。 習主席は心から反腐敗を望んでいたが、王氏、孟氏、次官が反腐敗を利用してライバルを捕まえた。 次官は自分が偉くなるには、互いの弱みを握っていれば安全と考えたのだろう。 共産党員なら誰もが考えることだ。

「やくざのようなやり方で汚職をしている」

Q : では、王氏を調査しろというのは習主席の意思ではないと。

A : かなりの確率で次官の意思だろう。 だが、習主席の意思という可能性も排除はできない。 私が直接習主席の意思を聞いたわけではないし、次官は習主席の意思と言ったからだ。 だから、私が話すのではなく、録音を聞いてもらおうと思った。

だが、重要なのはそのことではない。 私が言いたかったのは、王氏らの家族が腐敗しているのかどうかということだ。 海南航空の話は簡単で、ボーイング 787 を買って、内装をし、使うまでずっと私が見てきた。 だから、暴露できる。 資金は王氏のおいの金ではない。 26 億元(約 420 億円)の飛行機を王氏のおいの専用機として使っている。 燃料や管理費なども含めると、1 時間飛ばすのに 6 万ドル(約 670 万円)かかる。 北京とニューヨークを往復すれば、100 万ドル(約 1 億 1 千万円)はかかる。 この金はどこから出ているのか。

飛行機には、モデルや軍人である護衛も乗っている。 当然、王氏も知っているはずだ。 多くの芸能人も飛行機に乗ってバリ島や日本に行ったり、フランスやブラジルにサッカーを見に行ったりしている。 おいは金を稼いでいない。 誰がこの権力を与えているのか。 もちろん王氏だ。 彼らが飛行機に乗って楽しんでいる間に、王氏は反腐敗闘争をやっているのだ。

私は商人で、捕まれば裏切りもの扱いされる。 悪人だと言われ、誰も信じてくれなくなる。 中国で発言権があるのは、共産党のメディアだけ。 十数億の人にはしゃべらせず、党の言うことをきくしかない。 海外のネットにもつなげないなんて、中国人はかわいそうだと思わないか。 私は貧乏人、草の根の出身だ。 当局は我々を豚と思っている。 太らせて、殺す。

孟氏は公安を管轄しており、逮捕も起訴も判決も、彼次第だ。 王氏は規律検査委だから、すべての人を捕まえられる。 中国の生殺与奪の権利はすべてこの2人の手中にある。 次官は死刑執行人だ。 日本のみなさんに伝えたい。 中国は反腐敗をやっているのではない。 王氏や孟氏はやくざのようなやり方で、汚職をしている。 親族が飛行機で世界を飛び回っている間、市民にはスキャンダルを語らせず、語れば捕まえる。 国家のためでも、正義のためでもない。 (ニューヨーク = 鵜飼啓)

- 朝日新聞 2017 年 5 月 18 日 -

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「情報ねじ曲げた」 中国メディア、「腐敗疑惑」に反論

米国に逃げた中国人政商がネット上で告発している共産党最高指導部メンバーらの「腐敗疑惑」について、中国国営新華社通信は 9 日夜、「航空関係者から違法に情報を入手し、大幅にねじ曲げた」と反論する記事を配信した。 中国紙も 10 日、一斉に転載した。 国営メディアが今回の疑惑について正面から反論したのは初めて。 中国政府はこれまで告発内容を一般の人が見られないようネットを規制してきた。 だが、政商が告発をやめず、国内でも多くの人が国外のサイトにつないで情報を見ている状態のため、反論に踏みきったとみられる。

告発しているのは、米在住の郭文貴氏。 習近平(シーチンピン)指導部で反腐敗運動を指揮する王岐山(ワンチーシャン)・中央規律検査委書記の親族が、海南島を拠点とする海南航空の飛行機を私物化しているなどと主張。 習氏が王氏の親族について調べるよう指示したことも示唆した。 新華社は告発対象が王氏らとは伝えていないが、北京紙・新京報は「某高級官員が別の某高級官員の親戚を調べるよう指示した」と実名を出さずに告発内容を報じた。

新華社の報道によれば、郭氏は面識のあった航空当局職員に海外への移民を支援するなどと言って情報入手を依頼。 2015 - 17 年に、職員は親しい海南航空関連会社員を通じて入手した 146 人の同航空の顧客情報やフライト情報を郭氏側に渡した。 郭氏は情報を元に告発内容を捏造したとしている。 職員と社員 2 人は情報漏洩の容疑で捕まっている。

新華社は「郭氏は人をだますのが得意。 金のためなら国も親戚も裏切る。」などの職員の言葉も伝えた。 郭氏の告発の信用性を下げる狙いがあるとみられる。 中国では今秋に最高指導部が入れ替わる党大会を控えており、次期指導部人事をめぐって駆け引きが続いている。 王氏らの告発を続ける郭氏の動きは「習指導部に反対する勢力が背後にいる」との指摘もある。 (北京 = 延与光貞)

- 朝日新聞 2017 年 7 月 10 日 -

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