戦争の大義と人間の叡知 (9)

日本はついに、国連での「核兵器禁止条約」の採択で、自己矛盾をさらけ出してしまいました。 現実には、米国の核の傘に守られている日本、そして、世界で唯一、核兵器の被害国であるという事実、その狭間で、賛成票を投ずることはありませんでした。

中国は、日本の首相が「真珠湾」を訪問したおり、犠牲者に謝罪する言葉が無かったことを非難しているようです。 これは、米大統領が広島で謝罪の言葉が無かったことと呼応しているのでしょう。 唯、中国が、南京は? 蘆溝橋は? と言い出すのはもっともです。 しかしながら、現在の中国の体制に、素直に、屈託なく受け入れる態勢が整っているのかどうか、己が抱える問題も、ことを難しくしているように思えます。

安倍氏「真珠湾犠牲者を哀悼」 中国「本当の和解望むなら南京に来い」

「戦争の惨禍は二度と繰り返してはならない。 子孫が真珠湾を和解の象徴と記憶し続けることを願う。」 28 日午前 7 時(日本時間)、米国ハワイ州の真珠湾。 安倍晋三首相は、1941 年の旧日本軍による真珠湾攻撃の犠牲者追悼施設「アリゾナ記念館」を訪れ、その後発表した演説で日米間の歴史と和解、そして和解の力を強調した。 演説はバラク・オバマ米大統領と退役軍人らが見守る中で 10 分間余りにわたって行われた。

安倍氏は旧日本軍の攻撃を言及しながら犠牲者に対する哀悼の意から明らかにした。 安倍氏は「1 人、ひとりの兵士に、その身を案じる母がいて、父がいた。 愛する妻や恋人がいた。 成長を楽しみにしている子どもたちがいただろう。 それら、すべての思いが(旧日本軍の爆撃で)断たれてしまった。 その厳粛な事実を思うとき、かみしめるとき、私は言葉を失う。」とし「戦争の犠牲となった数知れぬ無辜(むこ)の民の魂に、永劫の哀悼の誠を捧げる」と述べた。

引き続き「戦後 70 年間に及ぶ平和国家としての歩みに、私たち日本人は、静かな誇りを感じながら、この不動の方針をこれからも貫いていく」とした。 あわせて、米国に対して「日本に示してくれた寛容に、改めて心からの感謝を申し上げる」と謝意を表し、「歴史に残る激しい戦争を戦った日本と米国は、歴史にまれな、深く強く結ばれた同盟国となった」とし「希望の同盟」を強調した。

安倍氏は「日米を結びつけたものは寛容の心がもたらした『和解の力』」としながら、「日本人の子どもたち、アメリカ人の子どもたちが、またその子どもたち孫たちが、そして世界中の人々が、パールハーバーを和解の象徴として記憶し続けてくれることを願う」と述べた。 真珠湾攻撃を受けて米国で叫ばれるようになった「真珠湾を忘れるな (Remember Pearl Harbour)」を、憎しみではなく和解で振り返ろうとしたものと考えられる。 安倍氏はこの演説で、真珠湾攻撃に対する反省や謝罪はしなかった。 日本の爆撃と米国の被害に対する言及にとどまった。 当時、日米が戦争当事国だった点と反省など表現にともなう右翼の反発を考慮したものとみられる。

オバマ大統領は続くスピーチで「安倍氏の演説は和解と結束の力を示す歴史的な行動」とし「最も厳しい敵対関係だった国が最も強い同盟関係を作ることができる。 平和の実は戦争の侵奪をはるかに上回る」と述べた。 両首脳は演説後、出席した 3 人の米国退役軍人と短く話を交わした。 安倍氏は彼らと抱擁し、ケースから名刺を取り出して渡す場面もあった。

両首脳はこれに先立ち、ホノルル市内で最後の首脳会談に臨んだ後、真珠湾奇襲当時沈没して 1,177 人の犠牲者を出したアリゾナ戦艦の上に建てられたアリゾナ記念館に船で移動した。 引き続き戦死者の名前が刻まれた大理石の壁前で献花して黙祷を捧げた後、海の中の船体に向かって花びらをまいた。 安倍氏のアリゾナ記念館訪問直後、日本では今村雅弘復興相が A 級戦犯が合祀された靖国神社を参拝した。 安倍氏が旧日本軍攻撃の犠牲者を慰霊する行事を進めていたことに反し、日本の閣僚が靖国神社を参拝したことで批判が出た。 今村氏は「安倍首相の真珠湾訪問と偶然に重なった。」と説明した。

中国官営メディアは真珠湾訪問で謝罪と反省をしなかった安倍氏を非難した。 中国人民解放軍機関紙「解放軍報」は 28 日、「(安倍氏が)いわゆる『慰霊』外交を行う中、真珠湾事件に対して謝罪もせず、日本がアジアの国々を侵略したことに対しても反省しなかった」と批判した。 環球時報も社説で「日本が歴史問題の和解を真に追求するのであれば、真珠湾でなく南京大虐殺の現場である南京と七七事変(盧溝橋事件)の現場である北京の蘆溝橋、韓国ソウルなどを訪れるべき」と主張した。

- 韓国・中央日報 2016 年 12 月 29 日 -


被爆者「満腔の怒りで抗議」 核禁止条約に首相触れず

核兵器禁止条約の歴史的採択から初めて迎えた、広島原爆の日。 しかし安倍晋三首相は 6 日の平和記念式典で、条約には一切触れなかった。 唯一の戦争被爆国として、核廃絶で世界をリードする覚悟と戦略は日本政府にあるのか。 平均年齢が 81 歳を超えた被爆者は、不信と怒りを募らせる。 6 日午前、広島市内のホテル。 安倍晋三首相らが被爆者の代表から要望を聞く会で、広島被爆者団体連絡会議の吉岡幸雄事務局長 (88) は、核兵器を法的に禁じる核兵器禁止条約に対する日本政府の姿勢に、強く反発した。

「核兵器禁止条約は被爆者の悲願であり、世界各国の大きな喜びだ。 ところが、被爆国である日本が署名しないという、驚くべき態度をとった。 満腔の怒りをもって抗議する。」 国連に加盟する 193 カ国中、122 カ国の賛成で核兵器禁止条約が採択されたのは 7 月。 米国の「核の傘」に頼る日本政府は、核保有国が参加せず、北朝鮮が核・ミサイル開発を進めていることから、「現実の安全保障問題の解決に結びつくとは思えない(高見沢将林〈のぶしげ〉・軍縮大使)」と、条約の意義を否定してきた。

松井一実・広島市長は 6 日の平和宣言で「条約の促進を目指して核保有国と非核保有国との橋渡し」に本気で取り組むよう求めた。 もう一つの被爆地・長崎市の田上富久市長はさらに踏み込み、9 日の平和祈念式典で読み上げる平和宣言で、日本政府に条約参加を強く要請するという。 国連のアントニオ・グテーレス事務総長(ポルトガル出身)は日本政府とは対照的に、この日の式典で、核兵器禁止条約を高く評価するメッセージを寄せた。

中満泉・軍縮担当上級代表(事務次長)が代読したメッセージは、条約採択を「世界的な運動の結果」とし、「被爆者の方々の英雄的な努力は核兵器がもたらす壊滅的な影響を世界に強く印象づけ、核兵器廃絶を目指す運動に貴重な貢献をした」と称賛。ひときわ大きな拍手を浴びた。

- 朝日新聞 2017 年 8 月 6 日 -


「真珠湾を忘れない」 トランプ氏、会談で安倍首相に

米ワシントン・ポスト紙(電子版)は 28 日、トランプ米大統領が 6 月の日米首脳会談で、安倍晋三首相に「私は真珠湾を忘れない」と述べたうえで、対日貿易赤字に強い不満を表明したと報じた。 トランプ氏は米国産牛肉や自動車の対日輸出に有利になる二国間協定の交渉に応じるよう安倍氏に迫ったという。 トランプ氏の最近の安倍氏への冷めた態度を伝えている。

同紙によると、北朝鮮問題をめぐっても、米朝首脳会談前の日米首脳会談や電話協議で安倍氏はトランプ氏に、北朝鮮が非核化に具体的に取り組むまで、米韓軍事演習の中止や朝鮮戦争の終結宣言をめぐる合意に応じないように繰り返し助言したが、トランプ氏に完全に無視されたという。

カーネギー国際平和財団のジェームズ・ショフ上級研究員は同紙の取材に対し、「トランプ氏は最初の頃は安倍氏の指導で貴重なものを得たが、今は重要ではなくなりつつあるようだ。 トランプ氏にとって今の安倍氏は、よく頼み事をするものの、トランプ氏が欲しいものを与えない人物とみているのだろう。」と語った。 (ワシントン = 園田耕司)

菅長官「そのような事実ない」

米ワシントン・ポスト紙(電子版)が、6 月の日米首脳会談でトランプ大統領が安倍晋三首相に「私は真珠湾を忘れない」と述べたうえで、対日貿易赤字に不満を表明したと報じたことについて、菅義偉官房長官は 29 日午前の記者会見で、「報道の一つ一つにコメントすることは控えたいと思うが、ご指摘のような事実はない」と述べた。

- 朝日新聞 2018 年 8 月 29 日 -


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