天皇陛下のメッセージ (9)

天皇に即位があれば、当然、退位もある、実に明快な論理のはずですが、それが、関連法(皇室典範)に追加できないのは真に奇妙です。 一代限りの特例法にするとは、確かに、天皇ご本人に大変失礼です。 天皇のお気持ちは国民にストレートに伝わったと感じたのですが、何故か、法律を作る側に、意味もない屈託を感じるのは、筆者だけではないと思います。

退位議論に「ショック」 宮内庁幹部「生き方否定」

時代によって変わってきた天皇と国民の距離

天皇陛下の退位を巡る政府の有識者会議で、昨年 11 月のヒアリングの際に保守系の専門家から「天皇は祈っているだけでよい」などの意見が出たことに、陛下が「ヒアリングで批判をされたことがショックだった」との強い不満を漏らされていたことが明らかになった。 陛下の考えは宮内庁側の関係者を通じて首相官邸に伝えられた。

陛下は、有識者会議の議論が一代限りで退位を実現する方向で進んでいたことについて「一代限りでは自分のわがままと思われるのでよくない。 制度化でなければならない」と語り、制度化を実現するよう求めた。 「自分の意志が曲げられるとは思っていなかった」とも話していて、政府方針に不満を示したという。 宮内庁関係者は「陛下はやるせない気持ちになっていた。 陛下のやってこられた活動を知らないのか。」と話す。

ヒアリングでは、安倍晋三首相の意向を反映して対象に選ばれた平川祐弘東京大名誉教授や渡部昇一上智大名誉教授(故人)ら保守系の専門家が、「天皇家は続くことと祈ることに意味がある。 それ以上を天皇の役割と考えるのはいかがなものか。」などと発言。 被災地訪問などの公務を縮小して負担を軽減し、宮中祭祀だけを続ければ退位する必要はないとの主張を展開した。 陛下と個人的にも親しい関係者は「陛下に対して失礼だ」と話す。

陛下の公務は、象徴天皇制を続けていくために不可欠な国民の理解と共感を得るため、皇后さまとともに試行錯誤しながら「全身全霊(昨年 8 月のおことば)」で作り上げたものだ。 保守系の主張は陛下の公務を不可欠ではないと位置づけた。 陛下の生き方を「全否定する内容(宮内庁幹部)」だったため、陛下は強い不満を感じたとみられる。

宮内庁幹部は陛下の不満を当然だとしたうえで、「陛下は抽象的に祈っているのではない。 一人一人の国民と向き合っていることが、国民の安寧と平穏を祈ることの血肉となっている。 この作業がなければ空虚な祈りでしかない。」と説明する。 陛下が、昨年 8 月に退位の意向がにじむおことばを表明したのは、憲法に規定された象徴天皇の意味を深く考え抜いた結果だ。 被災地訪問など日々の公務と祈りによって、国民の理解と共感を新たにし続けなければ、天皇であり続けることはできないという強い思いがある。【遠山和宏】

【ことば】 退位の有識者会議

天皇陛下が昨年 8 月、退位の意向がにじむおことばを公表したのを踏まえ、政府が設置。 10 月から議論を始めた。 学者ら 6 人で構成し、正式名称は「天皇の公務の負担軽減等に関する有識者会議」。 11 月に 16 人の専門家から意見聴取し、今年 1 月の会合で陛下一代限りの特例法制定を事実上推す論点整理をまとめた。 4 月に最終報告を首相に提出した。

- 毎日新聞 2017 年 5 月 21 日 -


両陛下、フィリピンのドゥテルテ大統領と会見

天皇、皇后両陛下は 31 日、皇居・御所で、フィリピンのドゥテルテ大統領とパートナーのアバンセーニャさんと初めて会見した。 戦時中、フィリピンは日米両軍の戦場となり、多くのフィリピン住民が巻き込まれて亡くなった。 宮内庁によると、天皇陛下は「先の大戦では多くのフィリピンの人たちが犠牲になりました」と述べ、大統領は「両国は川の流れのように過去を乗り越え、今日の素晴らしい協力関係を築いてきました」とこたえた。

戦前にフィリピンに渡った日本人移民についても話題になり、天皇陛下が「マニラ麻の栽培に携わったと承知しています」と伝えると、大統領は自身が市長を務めた南部ダバオ市に触れ「数年前に日本人移民の人たちのための記念碑をつくりました」と話した。 大統領は最初は緊張気味だったが、徐々に打ち解けた雰囲気になったという。 両陛下と大統領は昨年 10 月に会見予定だったが、三笠宮さまの逝去で中止になっていた。 (緒方雄大、島康彦)

- 朝日新聞 2017 年 10 月 31 日 -


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