夏の風物詩、浴衣もメード・イン・チャイナ

隅田川花火大会を 30 日に控え、浴衣(ゆかた)商戦がピークを迎えている。 現在の日本人に最も身近な着物文化とも言える浴衣だが、ここでも中国製品が存在感を強めている。

百貨店の銀座三越(東京・銀座)は特設コーナー「ゆかたガーデン」を開設した。 セット販売を提案している組み合わせを見ると、「仕立て上がり(プレタ)浴衣」の先駆けとなったブランド「撫松庵(ぶしょうあん)」の中国製浴衣を前面に押し出している。 素材はポリエステル 100% で、価格は 3 万 4,650 円だ。 組み合わせ提案している下駄(8,190 円)は鼻緒が日本製で台は中国製、バッグ(9,240 円)もかご部分が中国製で巾着は日本製という「和中折衷」だ。 帯や帯じめ、足袋は日本製を合わせている。 同ブランドは呉服製造卸の新装大橋(東京・中央)が展開している。

先に挙げた銀座三越のセットを全部そろえると、5 万円以上かかるが、ファーストリテイリングがカジュアルウエア店「ユニクロ」で販売している浴衣セットなら、浴衣本体に帯、腰ひも、巾着(きんちゃく)まで付いて 2,990 円(期間限定商品)だ。 「ユニクロ」で 2003 年から展開しているヒット商品で、主な生産地は中国だ。 しかし、中国生産では一日の長を持つ同社だけに、単純に中国工場に委託しているだけではない。 今年からは生地のプリント工程をインドネシアに移した。 同国は日本のかすりに似たイカットや、ろうけつ染めのバティックなど、染めやプリントの技術に定評がある。 同国の技術と中国のローコスト生産をミックスして、ぼかしや抜染などの技法を使った大人っぽい柄を実現した。 今年は全 30 柄をそろえた。

ただ、中国沿岸部の工賃上昇や、反日感情の高まり、さらに 21 日に発表された人民元切り上げなどを理由に、中国での縫製を周辺国のベトナムやタイに切り替える動きが出始めている。 手の込んだ本格呉服に比べ、浴衣は縫製が容易である上、生産コストが重視されるため、必ずしも中国生産でなくても構わないという事情があるようだ。 今春の反日デモ以降、様々な業界で生産の中国一極集中を見直す動きが広がっており、今後は「ユニクロ」のような合わせ技を含めて、浴衣の生産委託先がアジア各地に広がりそうな気配だ。 (7-23-05)


和装ファッション化、若者誘うメーカー 着物もほしいゆかた熱

「ゆかた」が元気だ。 湯上がり用の部屋着だった浴衣だが、約 20 年前のデザイナー浴衣の登場をきっかけにブレーク。 以来、夏のファッションアイテム「ゆかた」として、すっかり定着してきた。 ユニクロやセレクトショップなどの新規参入も活発だ。 呉服業界はそうした流れを何とか和装全体に引き寄せようと、「着物のファッション化」に取り組み始めた。

今、最も「ゆかたブーム」にわいているのは百貨店だ。 6 月下旬、平日の午後 7 時。 JR 池袋駅前にある東武百貨店(東京都豊島区)のゆかた売り場は、熱気に包まれていた。 仕事帰りの女性たちが、気に入ったゆかたを次々と店員に着付けてもらう。 価格は帯と合わせ 5 万 - 6 万円。 「サイズが合うか確かめる意味もありますが、ちょっとした着付けのコツもお教えしています」と、呉服部の栗原華世さん (34) は話す。

今年、同店の呉服フロアに新柄のゆかたが登場したのは 2 月下旬。 「他の百貨店も、年々ゆかたを強化しているので、少しでも早く並べたかった(栗原さん)。」 徐々に面積を広げ、6 月上旬には、最大の 560 平方メートルに。 10 年前の約 2 倍の広さという。 帯とゆかただけで 6,500 点をそろえた。 昨年の売上高 2 億 5,000 万円の 1 割増をねらう。

売り上げトップ 2 の伊勢丹本店(東京都新宿区)とうめだ阪急(大阪市)、その 2 強に迫る勢いの JR 名古屋高島屋(名古屋市)も年々売り上げを伸ばし、今年は年商 3 億円をうかがう勢いだ。 「市場が成熟したためだと思うが、トレンドが見えなくなった」という伊勢丹では、自分らしい着こなしを楽しんでもらおうと、小物の品ぞろえを充実。 JR 名古屋高島屋では選びやすさを重視し、ブランドではなく色別に売り場を構成している。

新規参入も活発だ。 03 年には、ユニクロのファーストリテイリング(山口市)がインドネシアでプリント、中国で縫製したゆかたと帯のセットを、破格の 3,990 円で売り出した。 担当部長の白井恵美さんは「ゆかたを作ってという顧客からの要望が多く、和ブームでもあり、ビジネスチャンスがあると判断した。 最適な場所で作り、最適な場所で売ったら、この価格になった。」と説明する。

今年は、人気セレクトショップ・ユナイテッドアローズ(東京都渋谷区)が自社ショップで初めてレディースを展開、アンティーク着物のカリスマ・豆千代さん (35) の「豆千代モダン(同杉並区)」も 1 着 2 万円前後のオリジナルゆかたを百貨店で初めて売り出した。

そもそも、ゆかたブームは 80 年代、呉服卸大手の京都丸紅(京都市)とゆかたメーカー最大手の榎本(静岡県浜松市)が相次いで著名ファッションデザイナーによるゆかたを発表したのがきっかけ。 高島屋は「美白ブームや新型肺炎 SARS の影響によるファッション水着の失速も、夏の定番商品としてのファッションゆかたが伸び続けた原因の一つ」と分析する。

ここ数年は、花火大会やお祭りなど夜の外出に限らず幅広く着られるようゆかたの「着物化」も進んでいる。 訪問着など着物のデザインを模した商品だけでなく、襦袢(じゅばん)や足袋を身につけ、帯締め、帯揚げを使って本格的に帯をしめる着こなしも見られるようになった。 年々、小物の売り上げも伸びており、不振の呉服業界の中で、ゆかたの一人勝ちが続いている。

◆ メンズも加速

レディースに遅れること 10 年。 ようやくメンズゆかた人気にも火がついた。 「着られるサイズがない」という声を受けて今年、各メーカー・百貨店とも、幅広いサイズの商品を充実させて今シーズンにのぞんだ。 銀座三越(東京都中央区)では、新しくメンズショップをオープン。 人気のふんどしでの着こなしも提案する。

「仕掛けて仕掛けてやっと伸びてきた」という呉服製造卸の市田(同)ではここ数年、前年比 5% 程度というレディースの伸びを上回る、20% 程度の伸びを記録している。 人気は、スーツ感覚で着られる無難な黒や茶、紺などの本格的な織りの生地。 品ぞろえの充実も、追い風になっているようだ。

◆ 呼び水 プレタ充実

ゆかたブームを着物ブームにつなげよう - -。 低価格のゆかたを大量に売っても、高価格の着物などの売り上げ減少に歯止めをかけられない呉服業界は、ゆかたと着物の溝を埋める「プレタ(仕立て上がり)着物」の開発・販売に取り組んでいる。 市田は 03 年、約 20 年続く合繊プレタブランド「夢工房」の姉妹版で、よりカジュアルで 1 着 3 万円程度と低価格な「夢工房 2」を立ち上げた。 04 年からは、他の老舗とタイアップ。 ユナイテッドアローズの男物の本格プレタ着物「九寸八分」も仕掛けた。

オンワード樫山も 01 年からゆかたに近い低価格の合繊のプレタ着物の販売を開始。 今秋には、正絹などの伝統的な生地によるプレタ着物を、1 着 10 万円以下で売り出す。 同社の原沢正好・きもの事業本部長 (57) は「合繊は市場規模も価格帯も中途半端。 デザインのよい正絹プレタが必要だと判断した。」と話す。

新装大橋(京都市)は昨年秋、正絹プレタ「青々庵(せいせいあん)」に 1 着 10 万円以下のカジュアルな商品を導入すると、売れ行きが伸び始めた。 百貨店でもプレタ着物の取り扱いが増え始めた。 横浜高島屋では今年 4 月、1 着 5 万円台の正絹プレタが 2 週間で約 130 万円売れた。

オリジナルゆかたを百貨店で展開している豆千代さんは、「アンティーク着物のファンだって、安くてデザインのいいものがあれば、新しい着物がほしい。 着物を普段着として楽しむ人が増えているのに呉服産業の経営が厳しいとしたら、そういう商品が少ないからかもしれません。」と話す。

矢野経済研究所の松井和之・上席研究員は「これまで、ゆかたを愛用してきた人たちは、アンティークやリサイクルの着物に流れていた。 和装業界がこの流れを引き寄せるには、顧客の求めるファッション性の高いプレタ着物を提案する必要がある。」と分析している。

呉服はどこで買うか 矢野経済研究所「きもの産業白書 2005 年版」による 2003 年の購入先別比率は、一般呉服店 33.6%、チェーン専門店 28.8%、催事・訪問販売 20.0%、百貨店 9.0%、リサイクル 3.8%、直販・インターネット販売 3.7%、量販・総合衣料店 1.2%。 (魚住ゆかり - 7-2-05)


ふんどし、2 カ月で 10 年分販売 TV 番組が火付け役

父の日の前には、ふんどしの売り場が通路側の「好立地」に進出した = 三越銀座店で

伝統的な男性用下着、ふんどしが百貨店の三越各店で、近年になく売れている。 銀座店(東京)ではここ 2 カ月間で若いカップルなどに例年の 10 年分を販売。

4 月にテレビ番組が取り上げて人気が出たが、一時的な盛り上がりに終わらず、なぜか勢いが持続している。 「銀座三越では、ふんどしに高級感を持たせるため『クラシックパンツ』として売っている。」 人気の情報バラエティー番組「トリビアの泉」で 4 月中旬、こう取り上げられた。 クラシックパンツは「ふんどし」と口にするのが恥ずかしい女性に配慮し、メーカーがつけた。

銀座店では翌日から 3 日間で例年の 1 年分に当たる約 150 枚が売れ、6 月中旬までに約 1,500 枚に達した。 銀座以外の各店でも例年の数倍が売れた。 甚平とのセットは 6 月 19 日の父の日のプレゼントとして好評だった。 価格は 1 枚 500 - 2,500 円程度。 白や赤の無地のほか、水玉、チェックなど柄物もある。 素材も綿のほか、シルクなどもある。 (6-27-05)


夏だ、浴衣に熱い視線 洋服感覚の提案も

夏の季節を涼で彩る浴衣の染色作業 = 東京都墨田区立花で

若者に夏の風物詩としてすっかり定着した浴衣。 今年は小物使いや、洋服感覚で楽しむ提案もあり、業界はさらなる需要を見込んでいる。 東京・銀座の百貨店、プランタン銀座本館前には 14 日、流行のグリーンやシックな黒など、浴衣姿の社員 9 人が並んだ = 写真。 8 月 14 日まで開設する浴衣の特設売り場の宣伝のため、道行く人たちに扇子やチラシを配った。 「ブローチを帯留めにしたり、帽子とコーディネートしたりしてみては」と広報担当。

すでに「ゆかたまつり」を開催中の新宿タカシマヤは、ピークとなる 7 月 8 - 24 日、約 4 千点を展開する。 男性用の浴衣は 02 年から 3 年間で 46% 増で、今年はカップルが色違いのそろいで楽しむ提案をしている。 オンワード樫山は初心者向けに浴衣専門ブランド「花いちえ」を立ち上げた。 パステル調中心で、帯、げたなどトータルコーディネートが楽しめる。

アンティークモール銀座は 21 日まで、銀座松坂屋で「田中翼 昔きものコレクション 3」と題して、大正から昭和初期の夏きもの 65 点を展示。 夏着物など約 1 万点の展示即売会「昔きもの大市」も同時に開く。 着物だけにとどまらない。 銀座三越では、ふんどしが好調だ。 「クラシックパンツ」として販売され、赤色だけでなく花柄などもあり、5 月は 800 枚売れた。 開催中の「ゆかたガーデン」では男性用浴衣や甚兵衛も展開中。 さらなる売り上げに期待を寄せている。 (6-24-05)


夏、染め上げる 東京・墨田の染物工場で浴衣の染色

夏の季節を涼で彩る浴衣地の染色作業が、東京都墨田区の染物工場で連日行われている。 「梅雨は湿気が多く大変だが、日が差せば一気に作業が進む」と手差し小紋染め小室染色工場(同区立花)の社長で、職人歴 42 年の小室一郎さん。

染色作業は、錦紅梅や奥州紬(つむぎ)と呼ばれる生地に絵柄の型を張り、のりを張る「糊(のり)付け」と呼ばれる作業や、ハケを使って地色を手で染める「引き染め」などの工程を経て、美しい藍(あい)色の浴衣地が出来上がる。 プリント柄の大量生産が主流の中、すべてが手作業で行われ、毎年40種類ほどの新種デザインを手がけているという。 (6-22-05)


ゆかた活況 百貨店売場拡大

記事コピー (6-11-05)

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