アレキサンダー・マックイーン「最後の新作」 パリで密やかに披露

2010 年秋冬パリ・コレクション開催中の 9 日、2 月に急逝したアレキサンダー・マックイーンの遺作が同地で発表された。 スタッフを含めて 10 人ほどの観客を前に、何回かに分けて新作が披露された。 フランソワ・プルミエ通りの屋敷で開かれたこの小さなプレゼンテーション形式の発表には、追悼の意味も込められいて、まるで家族だけの密葬を思わせた。

レクイエムが流れる中、ビザンチン美術とグリンリング・ギボンズ(オランダ生まれの英国の彫刻家)の彫刻からインスピレーションを得たという、細密で荘厳な作品がゆっくりと並んだ。

首から腰までぴったりと体に沿ったドレスやパンツスーツには、ボッシュやフーケ、メムリング、グース、ボッティチェリらからと思われる宗教画や細密画などの柄が大きくパネルプリントされ、時に背中や腕に天使の羽が描かれた。 胸やすそには綿密な金糸の刺繍。 マックイーンならではの大胆で流麗なフォルム。 そうした類まれなる才能の喪失が、心から惜しまれるプレゼンテーションだった。 (編集委員・高橋牧子、asahi = 3-11-10)


困ったときのお助けモノトーン

季節の変わり目はお洋服選びも難しいもの。 そんなときに大活躍するのが抜群のカラーコントラストを誇るモノトーン。 ときにシンプルなルックほど、最高にスタイリッシュに見えることをセレブたちはみんな分かっているんです! (Vogue =3-10-10)


第 10 回東京ガールズコレクション 132 名のモデルが集結し過去最大規模に

写真集

日本最大級のファッションイベント「第 10 回東京ガールズコレクション(以下、TGC)」が 6 日、横浜アリーナで開催された。 香里奈、山田優、マリエ、佐々木希、藤井リナをはじめとする日本のトップモデルから、ベッキー、ほしのあき、井上真央ら特別ゲストも登場し、総勢約 132 名による華麗なファッションショーが繰り広げられた。

TGC は、2005 年より行われているファッションイベント。 人気モデルが集結し、ランウェイを歩いたモデルたちが着用した服と同種類のものを携帯電話から購入できるなど、ファッションに関心のある 10 - 20 代の女性を中心に支持されている一大イベントだ。

過去最大規模となる約 2 万 5,500 人の来場者数を記録した今回は、京都市とのコラボレーション企画として「京都 x TGC 着物コレクション」を開催。 安田美沙子が艶やかな着物姿を披露。 「京都で作られた着物を着ることができてとても感動しています」と笑顔を見せた。

また、花王とのコラボ企画でスザンヌ、アヤカウィルソン、佐々木希、鳥居みゆきも着物姿で登場。 「TGC で着物を着るのは今回が初めてなんです」という佐々木は、春らしいピンクの着物姿で観客を魅了した。  ほか、ゲストモデルとして高垣麗子、はるな愛、ベッキーらを始め、俳優の成宮寛貴や山本裕典、歌手の倖田來未、清水翔太、いとうあさこらお笑い芸人も登場し、会場を盛り上げた。 (マイコミジャーナル = 3-7-10)


フリルアイテムで春先取り - シルエット可変のドレス

東京・渋谷の「ミントデザインズ・ガレージストア」では、背中のフリルが印象的なワンピースが目立っていた。 幾何学的に並んだ人形柄は、刺繍(ししゅう)を転写プリントし、更にオパール加工を施したもの。 光沢と透け感があって、柔らかな春の日差しによく合う。 背中のひもでタックを調節してシルエットを変えることができ、自分なりの着こなしが楽しめる。 (飯塚りえ、asahi = 3-6-10)



ハズレなしの使える一枚。 チェックシャツはマスト・ハブ!

この季節絶対に欲しいのがチェックのシャツ。 グランジの代名詞ともいえるチェックのシャツだけど、素材や丈、着こなし次第でロックにもモードにもなれる優秀品。 セレブたちもプライベートで愛用中。 (Vogue =3-3-10)


「おしゃれな親子」楽しんで 子供服合同展示会「プレイタイム」

春の兆しと共に、ファッション界にもポップで若々しい芽が育ち始めた。 今月 23 日から 3 日間開かれた子供服の合同展示会「プレイタイム東京」。 モダンなデザイン、シックな色使いなど、サイズはミニでも大人顔負けのセンスにあふれ、雑貨やおもちゃ、インテリアまで、親子で楽しむライフスタイルを総合的に提案している。

2 回目の今回は出展店舗数も増え、新進デザイナーと販売側を結ぶツールとして認知されてきている。 ブース名を掲げた風船が浮かび、凱旋門や東京タワー、摩天楼をイメージしたオブジェが天井を飾る。 会場内では、その名の通り「楽しい時間」を演出しようとする工夫がいっぱい。 昨年 9 月の第 1 回の 60 ブランドから、今回は約 80 ブランドが出展した。

初出展となる「グッドイブニング(日本)」は昨年ブランドを立ち上げたばかり。 デザイナーの松浦巧枝(ことえ)さんは、シンプルながらユーモアが感じられる服作りがコンセプトという。 蝶ネクタイを外した様を表したボーイズのカーディガンなどは代表的だ。

フランスの「コックアンパット」は、動物柄のTシャツとそろいのお面、バッグなどを出品した。 すべてオーガニック・コットンを使用、日本未上陸だが、フランスではボン・マルシェなど有名百貨店や美術館にも卸している。 ブランド名は「不自由なく暮らす」、「子供をかわいがる」という仏語の慣用句だ。

「プレイタイム東京」は、バイヤーやプレス向けに 07 年 2 月にパリで始まった同名展示会の東京版という位置付けだ。 今年 1 月のパリ展には 250 ブランドが参加、前回比 4 割増の約 4,200 人が来場した。 この夏には NY での開催も予定している。

「バイヤーにとっては、一カ所で子供を取り巻く商品を一覧できる利便性があり、ブランド側もその存在を周知できるとあって、合同展の価値は高まっている。 パリへ行かずとも日本語、日本円で仕事ができる利点は大きいのではないか」と主催元ピカフロール社のセバスチャン・ド・ユッテン氏。

パリ展に出展したのをきっかけに、今回、東京にも出した英国のブランドの「ポピー」。 赤毛の娘に似合うカラフルな服をとデザインを始めたベルギーのブランドや、フランスの初等学校 (CP) へ行こうという意味の「ジュ・スイ・アン・CP」など、国際色豊かだ。

雑貨類の出展も目立つ。 子供用インテリアの「佐々木デザインインターナショナル」は初出展。 赤ちゃんから大人まで使え、倒すと木馬にもなる食卓用のいすは、セレクトショップなどから引き合いの絶えないヒット商品という。

3 日間の来場者数は 1,000 人を超え、初日にインドネシアから大口の注文も入るなど、「国内だけでなくアジアにオセアニア、アメリカ西海岸の商圏に向けて発信していきたい」と、日本事務局の坂口慶之助さんは意気込む。 (柏木友紀、asahi = 2-26-10)


春のコート

英リントン社製ツイードのコート

青山「ウィム ガゼット」で見つけたのは、英リントン社製ツイードを使ったコート。 コットン、シルクなどの混紡で光沢感があり、ファスナーを使ったデザインはデニムにもドレスにも合わせやすい。 ツイードだがさほど重くはなく、気軽に羽織れそう。 襟元の微妙な開き具合や、ちょっと短めの袖丈など、自分なりにいろいろな着こなしを工夫できる一着。 (飯塚りえ、asahi = 2-26-10)

「ランバンオンブルー」のスプリングコート

伊勢丹新宿店本館地下 2 階「イセタンガール」では、24 日から店頭発売される「ランバンオンブルー」のスプリングコートに注目。 襟元の金具、裁ち目のかがりなど、ディテールにはクチュールブランド「ランバン」のコンセプトが生きている。 手ごろな価格もうれしい。 目に鮮やかなグリーンのサテンコート、春の日差しが待ち遠しい。 (飯塚りえ、asahi = 2-25-10)

◇ ◇ ◇

ニットながら立体的なコート

東京・丸の内の「エポカ・ザ・ショップ」で人気のコートは、変わりやすい気温にぴったりだ。 袖口や肩にデザインが施されているので、ニットでありながらシルエットは立体的。 襟元のボタンを留めればノーカラーになるなど、スタイリングの幅が広がる仕掛けもたくさん見える。 一枚仕立てで、着心地は軽く、シワになりにくいのもうれしい。 (飯塚りえ、asahi = 2-24-10)


鯛のうろこでイブニングドレス 1,800 匹から 50 万枚

レースの生地を鯛(たい)のうろこで彩ったイブニングドレスが 1 月のパリ・オートクチュール・コレクションで人気を集め、東京都内で 23 日に開かれるショーで披露される。 1,800 匹の鯛から 50 万枚のうろこを集め、脱臭したうえで、青や金に彩色。ファッションデザイナーの桂由美さんがドレスに仕立てた。

桂さんの知人の広島県三原市の田中京子さん (45) が魚屋で陽光にきらめく鯛を見てひらめいた。 捨てられるはずのうろこを再利用する、目からうろこのエコ発想だ。 (asahi = 2-22-10)



2010 春夏パリ・オートクチュールコレクション 手技の美 工芸品の域

手の技の美しさ。 それが新しい。 1 月末にフランスで開かれた 2010 年春夏パリ・オートクチュールコレクションでは、低価格や簡素化が進む既製服とは改めて一線を画した、熟練の伝統技で細部まで手の込んだ美術工芸品のような逸品が並んだ。 今回から五つの仏高級宝飾ブランドが参加。 中国など新興市場の景気回復や欧米の底打ち感も受けてか、手技の価値を積極的に打ち出す提案が目立った。

外気は零下だが、シャネルははっとするほど手の込んだロマンチックな作品で、観客の心に灯をともした。 白壁の会場を照らすのは、虹を思わせるパステルカラーの蛍光灯。 服も淡くかすんだアイスピンクやレモン色だ。

しかしよく目を凝らすと、かれんなミニ丈のツイードスーツにはとてもシャープなグラフィック柄が生地と同色で刺繍(ししゅう)されている。 複雑な地模様の薄地レースには、きらめくビジュー飾りの粒。 サテンのマーメードドレスには肩ひも代わりに銀細工ふうの鎖が施されていた。

伝統技術の尊さ、人間の手仕事の芸術性を小さな服に込めて、ひとつひとつの服が綿密で華麗なジュエリーのよう。 涼しげな銀ラメ使いが甘さを適度に抑え、18 世紀のウイッグか、はたまたミッキーマウスがヒントなのか、ほほ笑みを誘うヘア(日本の加茂克也が担当)が現代的な彩りを添えた。

月をテーマに、幻想的な輝きを放つドレス、スーツをずらりと並べたのが、ジョルジオ・アルマーニ・プリヴェだ。 色はムーンホワイト。 シルエットは三日月形にほっそりと長く、見たことのない極薄の生地が体に沿って、月影のようにゆらめく。

幻想的といえば、世界で上映中の人気映画「アバター」を想起させる近未来的でファンタジックな作風も目立った。 ヴァレンティノは、風に揺れる木のイラスト映像を背景に、花の精さながらのペールトーンのミニドレスをそろえた。 デザイナーは「軽く、明るく、でも芯は強い現代女性が求めるのは、はかなく美しい宝物みたいな服だと思う」と話した。

こうしたオーガニックな表現は現代社会ではもう欠かせない要素なのだろう。 ジャンポール・ゴルチエも、ヤシの葉のような布を編んだドレスなど凝った手仕事を盛り込みながらも野性的な力強さを打ち出した。

同じように、アマゾンで暮らす貴族の乗馬スタイルを見せたのはクリスチャン・ディオール。 基本はブランドの原点であるニュールックだが、端正なライディングジャケットに、両脚をそろえて馬に横乗りする時のように大胆なひだを寄せたスカートを組み合わせた。

このほか、ソプラノ歌手が 1 曲歌うごとにデザイナー自らが服を着替えさせたマウリツィオ・ガランテや、ビンテージのメンズシャツなどを解体してカクテルドレスに作り替えたアン・ヴァレリー・アッシュなど手仕事の妙を強調するブランドが多かった。 メゾン・マルタン・マルジェラも、古着をリメークした夜のドレス。 手間ひまかけた品ばかりだが、創始者がブランドから去ってデザインチームだけで手がけたせいか、独特のウイットやアイデア性は薄まり、精彩に欠けた。

今回は 1 月 24 日からの 5 日間の公式日程で約 20 ブランドが参加し、他に約 30 ブランドが高級既製服の発表やイベントを行った。 ここ数年で縮小されたショーの規模や参加数に大きな変動はない。 しかし、若手のデビューに加えて、19 世紀のオートクチュールの祖といわれるワースが新デザイナーにより復活するなど明るいニュースは多かった。

オートクチュールは世界中のほんのひと握りの超富裕層しか買えないが、そこにはファッションの最先端の方向と服づくりの目標が掲げられる。 鍛錬を続けた人間の心と手で作り上げた物の偉大さ。 そんなメッセージを感じた。 (編集委員・高橋牧子、asahi = 2-19-10)


スーパーモデルのリリー・コール 映画「Dr. パルナサスの鏡」に出演

俳優として挑んだ映画「Dr. パルナサスの鏡(公開中)」のプロモーションのため、1 月半ばに来日した。 私が演じたのは、旅芸人一座を率いるパルナサス博士の一人娘ヴァレンティナです。 普段着からステージ衣装、鏡の向こうの世界の中での豪華な衣装など、数多くの服をまといました。

特にお気に入りだったのが普段着です。 モデルという職業柄、ここ何年も着るのはアイロンのかかった完璧な服ばかり。 だからちょっと薄汚れた、オリエンタルな雰囲気の独特の重ね着がすごく楽しかった。 同時に、吟遊詩人のようなスタイルは、タフで負けん気が強く父親思いの少女、という役柄に入り込む助けとなりました。

皮肉なことに、俳優という仕事をして、初めて「ファッションは自分を表現するものだ」と気づかされました。 映画の取材やイベントでは、「自分」を表現するための服が必要です。 だから余計に流行や、その中から何を選ぶべきかを考えるようになりました。

ロック少女になりたければレザーのパンツ、中年のおばさん風に変身するならそれっぽい帽子。 着る服をちょっと変えるだけで気分もキャラクターも変えることができる。 それがファッションの楽しさだと思うんです。 (ライター・坂口さゆり、asahi = 2-1-10)

リリー・コール 88 年英国生まれ。 04 年、モデルデビュー、07 年映画デビュー。 ケンブリッジ大在学中。 美術史を学ぶ。



街角スナップ おしゃれな外国人編 「TOKYO 大好き!」

ストリートファッションのメッカ、東京。世界的な有名デザイナーもそのセンスを参考にしている。 ストリートの若者たちをお手本にしたり、東京ならではの服や小物を購入したりする目的で来日する人も少なくない。 最近は香港や台湾の書店でガイドブックが特集され、ロンドンの出版社発行の東京のガイドを片手に街を歩く、欧米のファッション業界人も増えている。 表参道や原宿、銀座などでおしゃれな外国人に声を掛けた。

■ 欧米系は原宿・青山

海外高級ブランドやストリートブランドが立ち並ぶ青山、表参道。 そこから、ファストファッションや古着、コスプレスタイルの店などがそろう原宿まで、一気に回る人が多い。

原宿の竹下通りでアイドルの写真入りキーホルダーを物色買いしていたオーストラリアの大学生セーラ・ホームズさん (18) は、ほぼ全身を日本で求めた品でコギャル風に装った。 レースがのぞくミニスカートにハイソックス、もこもこのブーツやイヤリング、バッグまで。 「日本のファッションは、カワイくて個性的。 しかも安い。 こんなに女の子っぽいデザインは私の国にはないですから。」と笑う。

東京は、「小さな店が密集している点が面白い」という人も多い。 モンゴルからきたばかりの留学生、アンハー・ノロサンブーさん (24) もそのひとり。 ファストファッションのフォーエバー 21 に寄った帰りだが、高級ブランドのウインドーショッピングにも通う。 「東京にはたまに気張り過ぎてダサイ人もいるけれど、ナチュラルなおしゃれが上手な人が多いと思う。」

原宿や青山近辺のブティックの建築を見物していたスイス出身の建築家ステファン・レメッザーレさん (33) は、「モードはもちろん、建築や広告デザインも含めて、東京は街全体が洗練されている。」 同行のジャーナリスト、ザラ・ヴェッチさん (31) が着ているヴィヴィアン・ウエストウッドのコートも日本で買った。 「ブランド物でも値頃なライセンス商品が多いのがいい」という。

コムデギャルソン青山店でミリタリーコートを試着していたのは、伊フェンディ家の三女でいま注目のバッグデザイナー、イラリア・ヴェントゥリーニ・フェンディさん。 「日本の若い子のトレンド動向はデザイナーとしてとても重要。 彼らがエコに関心があるのも興味深い。」と話した。

このあたりではモデルもよく見かける。 ポーランドからオーディションに来たマレーナ・マーゼックさんはちょっとアニメのヒロイン風。 「世界のトップを走るファッションタウンの一つ。 たくさん服を買いたい。」

■ アジア系にはアバクロ人気

一方、銀座では、百貨店やオープンしたばかりのアバクロンビー & フィッチを回るアジア系の若者が目立った。 香港から来た販売員のバーサ・リーさん (27) は、プランタン銀座などのデパートを回った。 アディダスの編み上げブーツは「日本のネットショップで見つけて、香港で買った」というお気に入り。

上海から遊びに来た男女 4 人組。 ニット帽がアクセントの戴俊亮さん (21) は「エヴィスのジーンズや、ア・ベイシング・エイプなどストリートファッションに興味がある。 東京は上海ファッションのお手本です。」 イン・ヤージンさん (27) は「東京の服はカジュアルでかわいくて、着やすいのが魅力。」 ダイアナの靴やファンケルの化粧品、銀座博品館のぬいぐるみなどのおもちゃも買い込んでいた。 (asahi = 1-25-10)


〈春夏のスタイル〉自由にミックス 気楽さ演出 希望を先取り

風はまだ冷たいけれど、春はすぐそこ。 今年の春夏ファッションは世界的な不況を反映してか、近年になく現実的で、着る人が自由な組み合わせを楽しむという傾向になりそうだ。 たとえば食べ物のメニューやトッピングを考えるのと似た感覚。 あなたならではのセンスでトライしてみてはいかがでしょう。

今年春夏のコレクションでは、特に大きなトレンドよりも、過去のさまざまなスタイルをミックスして「組み合わせの妙」を見せる提案が目立った。

合わせ方のポイントは二つ。 一つは、なるべくカジュアルで気楽な感じを演出すること。 ぜいたく感や隙(すき)のない決め過ぎは、時代遅れでかっこ悪く見える。 二つめは、大人っぽさの中にもどこか少女っぽさやロマンチックな感覚の表現。 暗い世相でも、できる範囲で明るさや希望を先取りしたい、ということだろう。

では、具体的に何を組み合わせたらいいのか。 大トレンドがないとはいえ、ミニマリズムやミリタリー、スポーツ、ラブリーといったいくつかの小さなトレンドはある。 その中から選んで手持ちの服とミックスすると今年っぽくなる。

■ 4 つの味覚

バーニーズジャパンは、今年の傾向を四つの味覚に置き換えて提案している。 「スイート」は、フリルやレースを使ったロマンチックなブラウスやドレス、ランジェリー。 「ビター」はトレンチコートなどのミリタリーやメンズ調、飾りを排したシンプルな服。 「サワー」はビンテージ風のジーンズや黒白のモダンな配色で、「ソルト」はナチュラルな民族調 ・・・ という具合。

四つの味を組み合わせ、甘辛や甘酸っぱい感じといった工夫ができる。 同社の鈴木春ファッションマーチャンダイザーは「今シーズンはまるでいいとこ取りのビュッフェスタイル。 何かにとらわれずに自由に組み合わせて。」と語る。

色には新味がある。 煙ったような優しいパステルカラーで薄いピンクやヌードカラー(肌色)、淡く冷めたアイシーブルーなどが注目されている。 また、素材も薄いレースやオーガンディといった繊細な透ける生地が目立つ。 革やニットも驚くほど薄い。 軽やかさが大事な要素なのだ。

■ きれい色のトップス

もし何か一着だけ新調するなら、フリルやリボン付きのきれいな色のトップスがおすすめ。 今年はそれに普通っぽいスカートやシンプルなパンツと合わせるのがコツという。

今シーズンほど着る側に自由度のある傾向は珍しい。 そういえば、かつて多くの人が、鏡の前であれこれきこなしを試したことがあったはず。 朝、いつもより 20 分早く起きてコーディネートを考える。 そんな忘れかけていたファッションの楽しみを改めて味わってみるのもいいかもしれない。 (編集委員・高橋牧子、asahi = 1-22-10)


〈2010 年 私のおしゃれ計画〉

TAO 個性的女らしさ追求

2010 年が始まりました。 さあ、気持ちも新たに、一歩進んだ装いにチャレンジしたいもの。 今年はどんなスタイルが旬なのか。 モードの世界の最先端で常に自分らしさを表現している3 人の方に、今年のおしゃれ計画を聞いてみました。

「今年はボーイッシュなスタイルの中にも、個性的な女らしさを表現したい。」 モデル歴 10 年目の昨年、電撃的に世界のトップモデルに仲間入りし、10 年春夏シーズンは約 60 ブランドのショーに登場した。 ユニクロのテレビ CM でも知られるようになった。 髪をベリーショートに変え、アンドロジナス(中性的)な魅力が注目されるようになったのがきっかけだった。

そこに内面的な女っぽさも混じり合って、もっとミステリアスな感じが出せる。 たとえば、写真のようにヘルムート・ラングのメンズ調の白シャツと細身の革パンツに、フィリップ・リムのミリタリーコートを羽織るといった具合。 靴もがっしりとしたワークブーツ。 ラインのきれいなジャケットとパンツの組み合わせも狙っている。

髪をばっさり切ったのは、パリ・コレのモデルオーディションでなかなか採用されなかったから。 ほかにも東洋人モデルがいるとも言われた。 「アジアンビューティーの象徴の黒髪をなくしたらどうなのか。 賭けてみよう。」 帰国したその足で成田の美容室に駆け込んだ。 今年はパリ・オートクチュールコレクションに挑戦してみたいという。 「こんな細身の体形でも、自分にしかできない仕事をしていきたい。」 (asahi = 1-11-10)

たお 本名は岡本多緒。 85 年千葉県生まれ。 14 歳でデビュー、06 年からパリ・コレなどで活躍。 ニューヨーク在住。 写真は郭允撮影。

黒木メイサ 王道トレンチに注目

昨年はエンポリオ・アルマーニのイメージモデルも務め、ドラマに映画にと活躍がめざましい。 新春ドラマ「最後の約束(9 日夜 9 時、フジテレビ系)」でヒロインを演じる。 一見、清楚な OL だが、こうと決めたら突き進む役。 内に秘めたがんこさは自身にも通じるという。

例えば服選び。 プライベートでは「本当に自分が好きで着たいかどうかが大事。 流行だからとがんばって着てもフィットしないと思う。」 普段はパンツが基本。 デニムはスキニータイプを中心に 40 本は持っている。 「ずっとダンスをやっていたので、いつでもどこでも踊れる格好というか、自然にパンツが多くなって。」

今年、挑戦したいのはシフォン素材の服。 「そろそろ大人の服も着てみたいかなと。」 ワードローブはモノトーンが大半。 重ね着が楽しめる秋冬になると、「黒から脱出しようと思うんですけど」と笑う。 取材時のクールなスタイルは、スタッズが利いたレザージャケットからブーツまですべて自前だ。

注目のアイテムはトレンチコート。 「オーソドックスさゆえに難しいけれど、女性らしく格好良く着こなしたい。」 まずは王道のベージュを狙っている。 (asahi = 1-12-10)

くろき・めいさ 88 年沖縄県生まれ。 歌手活動も。 1 日にミニアルバム「ATTITUDE」発売。 写真は川瀬洋氏撮影。

三原康裕 上級素材でバランス

東京でデビューし、ミラノやパリ・コレクションと活躍の場を広げている。 2010 年春夏コレクションのテーマは、メンズは「星の王子様」、レディースは「女神」に。 「どんなに暗い夜空でも星だけは光っている。 いや、闇でこそ輝き、周りを照らし出す。 暗い世の中から脱却する希望を見つけようとのメッセージを込めた。」と話す。

不況に苦しみ、あふれる情報に流されがちな社会に対し「知的生産物としてのファッションに何ができるか」を、今年も問い続けたいという。 その際に大切なのはバランスだ。 「僕の服はアバンギャルドと言われるが、それはコンサバな美もあるから表現できること。」 割合は半々でなく、むしろ極端にという。

メンズなら、例えばクラシックとカジュアルのバランス。 「スリーピースのスーツにミリタリーブーツとか。 難しいのは全身がカジュアルな中にクラシックなダンディズムをしのばせること。 カジュアルの機能性と、年齢や時間への反抗という本質は生かしたい。 素材も仕立ても上質な服にしかできません。」

個人的には? 「去年は気候の急な変化に振り回されたけれど、今年はグラデーションのように、素材や着こなしの変化をゆっくり楽しみたいですね。」 (asahi = 1-13-10)

みはら・やすひろ 72 年長崎県生まれ。 シューズデザイナーとしてデビューし、99 年からウエアも手がける。 写真は川瀬洋氏撮影。


ソニアと H & M のコラボ パリ

去る 12 月 1 日、ソニア・リキエルによる H & M のためのランジェリー・コレクションの発表会が盛大に行われた。 会場のグランパレには観覧車やエッフェル塔状のネオン、模擬店などを設置。 ブランコやシャンデリアなど趣向を凝らした山車がコレクションをまとったモデルたちを乗せて行進すると、会場は沸き返った。

流行のファッションを低価格で提案するスウェーデン発の H & M はこのところ、大物デザイナーとのコラボレーションを続けている。 (乗松美奈子、asahi = 12-23-09)


コシノジュンコさん流「日本の心」 キューバで披露

【ハバナ = 堀内隆】 デザイナーのコシノジュンコさんが 20 日、キューバの首都ハバナでファッションショーを開いた。 音楽が鳴れば自然に人の体が動き出すお国柄に魅せられ、1996 年以来 3 度目。 今回は、日本キューバ外交関係樹立 80 周年を記念する行事の一環となった。 テーマは「日本の心」。 「キューバにとって、日本は特別な人しか行けない国。 遠い国へのあこがれを持ってもらえたらいいなと思う。」と語った。

衣装に日本の伝統をアレンジするだけでなく、東洋全体の文化を広く取り入れた。 日本のファッション雑誌の取材でキューバに来ていた女優の萬田久子さんも、おいらん役で飛び入り参加し、拍手を浴びていた。 (asahi = 12-22-09)


激安ブーム、老舗は伝統回帰 2009 ファッション回顧

相次ぐ有名ブランドの経営破綻(はたん)に、ファストファッション人気や激安ブーム。 世界的な経済不況にファッション界も激動した。 老舗ブランドは伝統的な職人技によるもの作りへと回帰。 同時に発表や販売の場をネットにも広げるなど、生き残りをかけた模索が続いた。 米国オバマ政権に続き国内でも政権が交代。 その「チェンジ」を反映するように、ファッション界も変化を迫られた 1 年だった。

国内勢ではユニクロが一人勝ちし、海外からのファストファッションも不況知らずの勢いを見せつけた。 ユニクロの低価格ブランドのジーユーが 3 月に 990 円ジーンズを売り出すと、イオンなどが追随、3 けたジーンズ戦争が起きた。 ユニクロは 10 月、世界的デザイナー、ジル・サンダーによるプラス・ジェイのラインを発売。 10 月のパリ・オペラ店の開店時には約 500 人が並んだ。

また、米国のフォーエバー 21 が 4 月、H & M 原宿店の隣に出店すると、半年余りで来店者数は 300 万人を突破。 迎え撃つ H & M も渋谷の東急本店前と新宿の伊勢丹前、ZARA も渋谷駅近くに大型店を開き、百貨店の低迷を尻目に、日本市場での足場を固めた。 12 月にはお台場にできた初の都心アウトレットが話題になった。

一方、長引く不況で高級品市場が急激に冷え込み、有名ブランドの経営破綻が続いた。 2 月、ミラノのジャンフランコ・フェレに続き、5 月に「フランスの宝」とも称されていたクリスチャン・ラクロワ、10 月にはヨウジヤマモトも民事再生法の適用を仰いだ。 中国など新興市場への出店でしのいできた人気ブランドも、軒並み減益の苦境に立たされた。 パリやミラノのコレクションでは、ショーの中止や規模を縮小するブランドが目立った。

そうした中、老舗ブランドは「伝統回帰」としてブランドの象徴的なモチーフや職人技を強調して差別化を図った。 また、アートや環境、途上国支援など側面での活動も目立った。 伝統といえば、シャネルの創始者ココ・シャネルを描いた 3 本の映画が注目され、カルティエやヴァンクリーフ&アーペルなど宝飾ブランドの作品展も開かれた。

街では、自然派のスタイルが人気だった。 春夏はアニマル柄にスエードのブーツ、マリンスタイル。 素朴な重ね着を好む「森ガール」にもスポットが当たった。

秋冬のトレンドだったパワフルな 80 年代スタイルは一瞬のうちにあだ花のように消え、デザインやイメージ、価格にも「リアル」が重要視されてシンプルで現実的な服が主流になった。カーキのモッズコートやダウン、ぼろぼろのデニム、オーバーオールなどベーシックだがどことなく無頼な感じの服が目だった。

メンズでは、カジュアル化と中性化がますます進み、スカートをはく「スカート男子」が出現した。 パリのメンズコレクションで評価を高めるランバンが 09 年秋冬で見せたのも、少年っぽさを残す男の色気。 服の色も素材も柔らかく優しくなった。

そうした傾向を背景に、ルイ・ヴィトンは 10 月、前回までの華麗さから一転して、カジュアルなリアルクローズを打ち出し、ほとんどのモデルにバッグを持たせながらショーをネットで実況中継した。 アレキサンダー・マックイーンなども、世界の消費者に向けて直接ショーをネット配信した。 ブランド発のサイトも増え、高級ブランドを扱う会員制のサイトの登場も話題になった。

東京コレクションは、会期の短期集中はいまだ課題のままだが、若手の力が充実して、層が厚くなってきた。

09 年はこれまでのぜいたく過ぎる物や着飾ったイメージが急にださく見え始めた。 意図が感じられるスタイルよりも偶然のような自由な組み合わせがシックに見え、会ったことのない有名人よりも地元のおしゃれさんの方がリアリティーのあるファッションリーダーに変わった。 急激に変化するそんな価値観が、2010 年代の新たな幕開けを期待させる。 (編集委員・高橋牧子、菅野俊秀、asahi = 12-21-09)


いい物は高いという価値観も … 川久保玲

コムデギャルソンが創設から今年で 40 年を迎えた。 常に新しい創造性を打ち出すことで前衛派の旗手としての役割も果たし続けている。 長引く不況で一部の低価格ブランドを除いて売り上げが低迷する中、コムデギャルソンはその反骨精神をあえて示すかのような策を次々と打っている。 突破口は開けるのか? デザイナー兼経営者としてブランドを率いる川久保玲に聞いた。

- - 服を売らないアートスペースを大阪で 8 月に、博物館のような店を東京で 11 月に開いた。

服以外のものにも少し考えていることをプラスして「ああ、ここの服はこういうものなんだ」と思ってもらえる場にしたかったのです。 遠回りですが服を買うのにはそんな回路や順番があってもいいと思う。 私にとって表現の場や方法論の中で服はその一部にすぎず、店もその一つなのです。 効率的に売ることだけを考えているとファッションの先がどんどん見えなくなる。 そういう状況の中で、1 人であがいている感じですが。

- - 最近の安さ、早さを求める傾向への抵抗でも?

若い人たちが考えたり作ったりする楽しみや必要性を忘れていくのが心配なのです。 たとえば、ジーンズ 1 本が何百円なんてありえない。 どこかの工程で誰かが泣いているかもしれないのに、安い服を着ていていいのか。 いい物には人の手も時間も努力も必要だからどうしても高くなる。 いい物は高いという価値観も残って欲しいのです。

- - H & M やルイ・ヴィトンとのコラボや、価格を抑えた「エマージェンシーブランド」と、ハッとするような企画を次々と。

何かいつも、新しいこと、強いものをと思っていて、それを続けていないと次が生まれてこないのです。 自分が活動的に何か新しい物を生み出せば、それについて何かを感じたり、元気が出たりする方もいらっしゃるでしょうし、それがこの世の中を変えていくことに少しでもつながるならと思うからです。

- - レディースとメンズだけでも年 4 回の新作発表。 その創作の最初の手がかりは?

ほとんど何もない、何か海の中の一つの石を探すような感じですね。 ずっと考えているうちに何かこうぽつんぽつんと浮かんできて、ある日それがフォーカスされてテーマらしくなるのがパリ・コレのほんの 2、3 週間前。 いつもその途中で 3 回ほど、どうしようもなく不安になる。 でも誰でも、何を作る人でも同じですよね。 そう思ってなんとか耐えています。

- - ジュンヤ・ワタナベとタオを含めた 3 ブランドの共存は、パリ・コレでもまれなこと。

3 人ともが「前回よりも少しでも先に」と思って、同じ会社の中でそれぞれ自分と戦っていることがエネルギーになっているのかもしれません。 でも、創造性で頑張り過ぎると売れなくなる、という微妙な問題もあるし ・・・。 結果的に支え合っていることで強くなれるとは思っていますけれど。

- - 不況下で経営難に陥るブランドと違う点とは。

日々数字のチェックをしていて、何か手当ての必要を感じたらすぐに手を打つ。 その早さと、一方で目の前のことだけでなく長いサイクルで対応しなければならないことを常に考えています。 売り上げにはプラスになってもコムデギャルソンらしくないことはしない、というような。

- - 反骨精神は、何に対して?

自由に生きていきたい、皆が幸福でなければならないと思っても、そうできない世の中の仕組みがあります。 それに、人間はそれぞれ生まれてきても決して皆同じじゃないし、同じものをもらってないわけですよね。 そういうどうにもならない不平等の中でも、自分は自分だって頑張って生きていかなきゃならない辛(つら)さがある。 不条理って言ったら言い過ぎかしらね。 子供の頃からずっとそういうものに怒りを感じてきました。 その気持ちを今後も持ち続けたい。

- - いま社会が大きく変わる中で、正統に対する前衛的な創造ということの意味も変わってくるのでは?

私のしていることはずっと同じです。 周りが少しずつ変わって、その時々の社会やムーブメントに合わせて語られてきただけ。 たとえば、私は 80 年代からライダースジャケットを着ていましたし、いつも同じスタイル。 私自身の在りようや気持ちの中は何も変わっていないし、これからも変えるつもりはありません。 (編集委員・高橋牧子、asahi = 12-21-09)

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