戦争の大義と人間の叡知 (1)

「イラク戦争」の開戦前から現在まで、米国で「ブッシュ政権」への支持率が上がることはあっても下がることがなかったのは何故でしょうか? イラクが持つと云われる大量破壊兵器の問題から、開戦と同時に、大義は "抑圧されたイラク人民の解放" へすり変ってしまいましたが、やはり、米国民の心の中では、「9.11 テロ」の恐怖と屈辱がどうしても拭い去ることが出来なかったからではないかと考えます。

「9.11 テロ」の全貌が次第に明らかになっていくにつれ、「タリバーン」や「オサマ・ビンラディン」個人の力だけで起こせたとは到底思えず、当然、裏には国家レベルの組織と資金があったのではないかと、誰しも想像してしまいます。 そこで、ストレートに疑いの目を向けられたのが、やはり「イラク」だったのでしょう。 勿論、米国はその確たる証拠を示すことは出来ませんでしたし、「イラク情報省」の建物も炎上してしまったのでは、そこにその証拠があったとしても、それが人の目に触れることはもう無いのかも知れません。

日韓を含む東アジアで比肩されるのは、やはり北朝鮮による「大韓航空機爆破事件」です。 今、同様なことがこのアジアで起こると、米国と同様に、「主戦論」が大きく頭をもたげるのは間違いありません。 しかしながら、幸か不幸か、この「イラク戦争」が強烈な抑止力になったのは否定出来ません。 何せ、世界最大の「大量破壊兵器」を有する米国に刃向かうと、間違いなく国家の存続があり得ないことが証明されてしまいました。 非常に、皮肉ではありますが、これも哀しくも、又、厳しい現実です。

【追記】 この一年半あまりの短い期間に、上記の言葉とは裏腹に、武力だけでは「戦争の大義」は全う出来ないことが証明されてしまいました。 まるで火に油を注ぐように、テロの嵐はイラク国内に止まらず、世界各地に広がっています。 戦争を仕掛けた米国自身がその現実を追認せざるを得ない有り様です。 愚かな人間は、この愚かな経験を学習し、ヨーロッパから、次のような提案が生まれました。

米国社会をどう見る

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- 朝日新聞 2003 年 2 月 23 日 -


問われ続ける「大義」

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- 朝日新聞 2003 年 4 月 10 日 -


対テロ「EU に軍民混成部隊を」 専門家グループ提唱

テロの脅威に対処するには、紛争地域の住民の安全など「人間の安全保障」を実現するための軍民混成部隊の創設が必要だとする報告書を欧州連合 (EU) の専門家グループがまとめた。 部隊の 3 分の 1 を治安回復のための警察官や法律家、援助専門家らで構成するとの構想で、EU 側は提言を高く評価。 対テロ戦略をめぐり軍事力に頼りがちな米国と、欧州との理念の違いが浮き彫りになっている。

「欧州のための人間の安全保障ドクトリン」と題する 26 ページの報告書は EU の諮問を受けて、ロンドン大政治経済学院 (LSE) のマリー・カルド教授を主査とするグループが作成。 EU の共通外交安保政策を担当するソラナ上級代表は「EU 軍事幕僚部の中に軍民協力のための部署を近くつくりたい」と語り、提言の実現に向けた論議を進める考えを示している。

報告書は 99 年のコソボ空爆や米主導のアフガニスタン、イラクでの軍事作戦を分析。 破壊力を持つ兵器で軍事目標を達成したとしても治安回復は必ずしも実現していないと指摘。 イラクでは空爆による市民の犠牲やインフラの破壊が混乱に拍車をかけ、「軍事力と安定達成の度合いのギャップを示した」と、軍事的対応の限界を指摘した。 さらに軍事作戦の後、イラクやアフガンへ派遣された多国籍軍の活動について報告書は「治安回復のための手立てを十分持たず、今なお続く人権侵害や犯罪集団の拡大を防げないでいる」とし、治安回復と復興のために多国籍軍の編成が見直されるべきだとの考えを示唆した。

その上で「『人間の安全保障』対応部隊」と名づけた混成部隊の創設を提言。 規模は 1 万 5,000 人程度を想定し、警察官や、法制度再建、人道援助を担う専門家ら 5,000 人が軍部隊と行動を共にしながら、民族対立、失業、人々の暮らしを立て直すとしている。 部隊の創設年や派遣候補地は記されていないが、チェチェン武装勢力が犯行声明を出した学校テロ事件が起きたカフカス地方や、アフリカ、中東アラブ世界の混乱はテロや人身売買、難民流入などの形で欧州にも及ぶとし、早急な取り組みを呼びかけた。

欧州各国は従来、国連平和維持部隊のほかに、警察官、選挙監視員ら軍民双方の専門家を紛争地に積極的に派遣してきた。 03 年以降、EU 軍部隊がコンゴへ、EU 警察部隊がボスニアへそれぞれ派遣されているが、軍と警察、文民専門家は別々に組織されていた。

◇ ◇ ◇

〈人間の安全保障〉 国家単位ではなく、国境を越えた人間一人ひとりの生命や人権を重視した安全保障の考え方。 90 年代に国連開発計画が提唱し、政府の途上国援助 (ODA) が貧富の格差拡大や独裁的な政治体制の温存につながらず、恩恵が住民全体に行き渡るよう求めた。 その後、各地での難民の増加、エイズの拡大などを受け、紛争後の平和構築を含めた広い概念になりつつある。 日本政府も「人間の安全保障無償資金」を設けるなどの取り組みを見せている。

- 朝日新聞 2004 年 9 月 20 日 -


「人権優先でテロ対策を」 米国に厳しい意見相次ぐ

国連のアナン事務総長は 10 日、スペインのマドリードで開かれたテロ対策の国際会議で、包括的テロ防止条約の実現を呼びかけた。 だが、アナン氏は「テロと戦う時でも人権と法の支配は優先すべきだ」と強調。 スペインで対テロ戦争への疑念が噴出するきっかけになったマドリード列車同時爆破テロから 1 周年を記念した会議だけに、参加した各国元首脳からは米国を念頭に「軍事力依存はかえってテロを広げる」といった指摘が相次いだ。

アナン事務総長は、これまで各国が対立してきた「テロの定義」を、「人々を脅迫したり、国や国際機関に一定の行動をとらせたりすることを目的に、市民や非戦闘員を死傷させる行為」とする見解を表明。 特に核テロ防止に早急に取り組むよう訴えた。 一方、各国がすでに独自にとっている対テロ策を、「人権や自由を侵害する施策が多い」と批判した。

7 日に始まった国際会議には、ブッシュ米政権の対テロ政策に批判的な欧州や途上国、国連機関の首脳、元首脳らが参加。 「テロとの戦いが、人権侵害や無実の人の殺害というわなに落ち込むことがあってはならない(モラティノス・スペイン外相)」など米国に厳しい意見が相次いだ。

- 朝日新聞 2005 年 3 月 11 日 -


ジョージ・ケナン氏、死去

長寿に恵まれると、若いときの仕事に歴史がどんな審判を下すかを知ることができる。 プラスの評価を得る者は幸いだ。 今月 17 日に 101 歳で亡くなった元米国務省高官のジョージ・ケナン氏は、そんな一人である。 第二次大戦後、冷戦初期の動乱期に活躍したケナン氏は、辛抱強い外交でソ連の膨張的傾向をチェックすれば、内部矛盾から崩壊すると予言、「封じ込め」を立案した。 日本に対する占領政策を緩やかなものにして、経済復興を重視する路線に転換させた。

ソ連の崩壊と日本の経済大国化を、彼は自分の目で見届けることができた。 ただし、米外交の過剰な道徳主義や軍事手段の過大評価を戒める提言は、ワシントンでは理解されず、53 年に退任に追い込まれた。 プリンストン高等研究所に移り、著作を通じてベトナム戦争を批判するなど米外交に影響を与え続けた。

ケナン氏と言えば、思い出すことがある。 同時多発テロ直後、アーミテージ国務副長官に米外交への長期的な影響をたずねたところ、「国務省には、20 年先を考える部局がある。 政策企画室だ。」と胸をはった。 この政策企画室こそ、若きケナン氏が初代室長を務め、米外交の青写真を描いた部局だった。 しかし、米国は、国際社会の合意を待たずにイラク戦争に突入、いまだにイラクの民主化の確たる見通しはない。

国務省の彼の後輩たちは何をしていたのだろう。 「私たちは自国についてバランスのとれた見方をすべきだ。 自分で思うほど世界を変えることはできない。」 ケナン氏が残した言葉である。

- 朝日新聞 【天声人語】 2005 年 3 月 27 日 -


米「大量破壊兵器情報」調査委、情報活動の改革を勧告

米情報機関の組織的な問題点を洗い出す独立調査委員会は 31 日、ブッシュ米大統領に最終報告書を提出した。 報告書では、イラクの大量破壊兵器 (WMD) 疑惑に関する情報の収集や分析の誤りを指摘。 15 情報機関を完全に統合するため、新設の国家情報長官 (DNI) に権限を集中するよう提言している。 勧告は、核不拡散対策を一元化する「核拡散防止センター」の新設など 74 項目にのぼる。

独立調査委は、大統領が昨年 2 月に超党派のメンバー 9 人を指名して発足。 米情報機関と政府が「イラクに大量破壊兵器がある」という誤った分析・判断をした経緯を中心に検証し、機密部分を除いた上で約 600 ページの報告書にまとめた。 報告書は、イラクの WMD に関する米情報機関の判断は「完全に誤っていた」と結論づけている。 衛星写真情報や通信傍受、他国の情報機関の間接情報に依拠しすぎたと指摘。 パウエル前国務長官がイラク開戦前の 03 年 2 月に国連安保理で説明した「移動生物兵器工場」についても、ドイツの情報機関が得たイラク人亡命者の証言をうのみにしたと分析している。

こうした誤りを防ぐため、情報を政府内で共有し、多角的に分析、相互で検証するように提言。 情報を判断する際には、あえて異議を唱えるように提唱し、政策立案者も自分の考えにあわない情報も受け入れるように大統領に勧告している。 組織改革では、昨年末に発効した情報改革法に基づいて新設した DNI が国防総省や中央情報局 (CIA) を統制できるように権限を強めるほか、連邦捜査局 (FBI) の情報部門と統合して DNI の調整下におくように提唱。 これまでの教訓を生かすための機構を情報組織内にも新設するよう求めている。

- 朝日新聞 2005 年 4 月 1 日 -


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