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北朝鮮の生活と経済 (35)

マンション崩壊で 500 人死亡の惨事も … 金正恩氏が下した決断とは

北朝鮮社会を蝕む病弊の一つが「横流し、横領、窃盗」だ。2014 年 5 月には、建築資材がことごとく横流しされたせいで、鉄筋の量が規定より著しく少なくなっていたマンションが突如崩壊。 500 人が死亡し、現場にはバラバラになった手足が散乱する地獄絵図が繰り広げられた。  そんなことがあった後も、資材の横流しや窃盗は日常茶飯事と化しており、当局はこれと言った対策を取っていなかった。 しかしそのような現状に、金正恩党委員長もさすがに痺れを切らしたのかもしれない。 遂に、下すべき決断を下したようだ。

北朝鮮では現在、平壌、元山(ウォンサン)、三池淵(サムジヨン)などで国を挙げての建設事業が行われているが、国際社会の対北朝鮮制裁で鉄筋、木材、セメントなどの建築資材の確保が円滑に行われていない。 そんな現状を受けて、当局は今まで事実上放置してきた横流し、横領、窃盗への対処を強化している。

江原道(カンウォンド)のデイリー NK 内部情報筋によると、当局が推し進める高級リゾート「元山葛麻(ウォンサン・カルマ)海岸観光地区」の建設には、多くの資材が必要だが、台風による被害で確保がさらに困難になっている。 そんな中、当局からこのような指示が下された。  「(制裁で)外国勢力との対決戦が繰り広げられている建設現場で資材を横流しする行為は党の方針に真っ向から反する行為だ、厳しく処断せよ。」 また、内閣の建設建材工業省の大臣も「資材の管理監督を徹底しなければ資材担当者を処罰する」と警告した。

建設現場では、軍の建設部隊の兵士や突撃隊員(動員された建設労働者)が、現金収入を目当てに資材を横流しする行為が横行してきた。 その手口も、食べ終わった弁当の箱にセメントを詰めて持ち出すなど実に巧妙で、防ぐのも容易ではない。 さらに、現場まで資材を運ぶ列車は停電で頻繁に立ち往生するが、夜陰に乗じて民間人はもちろん、鉄道イルクン(幹部)までが資材を盗んでいた。 資材が現場に到着するころにはすっかり目減りしているというわけだ。

実際、葛麻地区に向けて出荷されたセメントを横流しした資材担当者と保安員(警察官)や、釘を大量に盗み出した労働者など、この 1 週間で多くの人が摘発されている。 取り締まりに関する指示は、両江道の三池淵、恵山(ヘサン)などでも出されている。 現地の情報筋によると、三池淵建設を指揮する朝鮮人民軍 216 師団建設団は、所属の兵士、突撃隊員、一般労働者に「国家財産である資材を盗んだ者は地位を問わず厳罰に処す」と警告を発した。 両江道の現場でも、幹部が資材を盗み出す行為が横行していた。

厳しい取り締まりを行ったところで、「横流し、横領、窃盗」が消えることはないだろう。 現場で働く人々にとって、生きていくのに欠かせないことだからだ。 そもそも、建設現場で働く人々にはほとんど給料が払われていない。 兵士の月給は子どもの小遣い銭にもならないほどだ。 一般労働者はそれよりはマシなものの、平均的な 4 人家族の 1 ヶ月の生活費の 50 万北朝鮮ウォン(約 6,500 円)を稼ぐには 10 年もかかる。 それでも、一切の給料がもらえない突撃隊員に比べればまだマシだ。

現金がもらえなくても、食糧が配給されればまだ耐えしのげるが、それすらも貧弱極まりない。 資材を売り飛ばして現金を得て、食べ物を買うしかないのだが、その度胸がない人は現場から逃亡するしかない。 さらに建設現場では、安全対策の欠如で死亡事故が多発している。 怪我をしても国からは一切の補償が受けられない。 こんなないないづくしの状況なので、無理矢理にでも工期に間に合わせる「速度戦」を要求している現場監督の立場からも、人員を確保しておくためには、資材を横流しして食べ物を買う行為を黙認せざるを得ないのだ。 (高英起)

- Daily NK 2018 年 9 月 22 日 -


北朝鮮市民の正恩氏支持率、脱北者の回答は「75%」

韓国・ソウル大学の統一平和研究院は、金正恩(キムジョンウン)朝鮮労働党委員長への支持率が過去最高になったとする調査結果をまとめた。 2017 年から 18 年にかけて北朝鮮を逃れた脱北者 87 人を調べた。 生活が苦しくなったとする回答も多かった。 この調査は 11 年から毎年、主に前年に北朝鮮を逃れた脱北者を対象に行われ、8 回目の今年は先月 30 日に結果を公表した。 「北朝鮮市民の正恩氏に対する支持率」について、70% から 90% 以上と答えた人は全体の 49.3% で、前年の 36.3% を大きく上回った。

同院の金炳魯(キムビョンロ)教授によれば、脱北者の回答を平均すると、市民の支持率は 75% 前後になり、同調査では過去最高という。 正恩氏は 11 年末に権力を継承したが、これまでの支持率は 60% 台が多かった。 一方、脱北者自身の経験として、「肉類をどの程度食べるのか」という設問では、「毎月 1 - 2 回」が 37.9% で前年より 5.4% 増えた。 「毎週 1 - 2 回」は 33% で同 3.8% 減だった。 「季節ごとに服を 1 - 2 着購入する」と答えた人は 52.9% で前年より 9.8% 減り、経済制裁の効果とみられる結果になった。

同院は正恩氏の支持率が上昇した背景について、核・ミサイル開発や米朝対話などを通じて指導力のアピールに成功したことや、今後への期待感などが反映されたとみている。 (ソウル = 牧野愛博)

- 朝日新聞 2018 年 11 月 19 日 -


「我々式で生きて」 北朝鮮、市民に我慢を強いる文書

北朝鮮が最近、市民に綱紀粛正や韓国への依存心を捨てるよう繰り返し呼びかけている。 朝鮮労働党が市民向けの講演会で使う「扇動資料」を複数、朝日新聞が入手した。 資料のなかで労働党は、引き締めを訴える理由として国際社会の制裁強化を挙げている。 昨年末にかけて増産運動を呼びかけた資料のなかで労働党は「敵対勢力の制裁圧殺策動で、我々の前途に難関と試練が横たわっている」と説明。 「自力更生と艱苦奮闘」を呼びかけた。 脱北者の一人によれば、こうした表現は、市民に我慢を強いるときに党が使う決まり文句だという。

この脱北者によれば、北朝鮮の物価を数カ月前と昨年末時点で比べた場合、トウモロコシが約 1.7 倍、小麦粉が約 1.4 倍となるなど徐々に上昇しているという。 国連による経済制裁などの影響で輸入が難しくなり、中国製の液晶テレビやバッテリーは価格が 2 倍ほどになったという。 「我々式で生きていこう」と訴える資料では、「我々が南(韓国)の支援を受けて革命をしていたら、ソ連や東欧と同じように崩壊していた」と指摘。 「南への依存心や、輸入病のような害毒になる思想に反対しよう」と訴えた。 (ソウル = 牧野愛博)

- 朝日新聞 2019 年 1 月 12 日 -


金正恩氏の専用列車は「時速 20 キロ」 … 背景に大量死亡事故

北朝鮮の金正恩党委員長は今月 7 日から 10 日まで訪中し、習近平国家主席と会談するなどした。 その際、金正恩氏が乗った専用列車は北朝鮮国内で時速 20 キロしか出せなかったと、韓国紙・東亜日報のチュ・ソンハ記者が伝えている。 その背景には、大量の死傷事故が繰り返し発生する、北朝鮮の劣悪な鉄道事情がある。

脱北者であり、北朝鮮国内の事情に精通するチュ・ソンハ氏によれば、金正恩氏の専用列車は中国からの帰路、国境都市の新義州(シニジュ)から 11 時間かけて首都・平壌に到着したという。 走行距離は、およそ 225 キロだから、1 時間に 20 キロしか進めなかった計算になるわけだ。 北朝鮮の鉄道は、老朽化が著しい。 日本の植民地時代に作られたレールや枕木を未だに使用している例も珍しくなく、列車が高速で走行するのは非常に危険だ。 実際、施設の老朽化が、大惨事に繋がった例もある。

昨年 12 月、韓国の調査団が南北の鉄道連結のため北朝鮮の鉄道の状況を調査した結果、開城(ケソン)から平壌を経て新義州を結ぶ区間では時速 20 キロから 60 キロしか出せず、国際列車が運行されている平壌以北の区間では時速 60 キロでの運行が可能な程度だったという。 平壌から新義州まではその気になれば時速 60 キロまでは出せるのだろうが、最高指導者を乗せた専用列車は「万が一」を考えて絶対安全なスピードに抑えたものと考えられる。

ちなみに、5,000 キロ以上に及ぶ北朝鮮の鉄道路線は 8 割が電化されているが、同国は 1990 年代以降の発電設備の老朽化、そして深刻な経済難により、極度の電力不足に陥る。 そして高い電化率がアダになり、鉄道はマヒ状態に陥ってしまった。 例えば首都・平壌から北部の恵山(ヘサン)までは、時刻表通りなら 23 時間ほどで到着するのに、実際には 10 日もかかった事例などが伝えられている。

ただ、デイリー NK の内部情報筋によると、最近の北朝鮮の鉄道運行は比較的円滑になっているという。 皮肉にも、従来は大部分が輸出されていた石炭が国際社会の経済制裁で輸出できなくなったことで、国内での消費に回されるようになり、電力の生産量が増えたことがその理由だ。 (高英起)

- Daily NK 2019 年 1 月 21 日 -

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