=== 地震・津波の科学的分析と対応 (e-8) ===

北海道・東北で想定される巨大地震って? M9 級、30m 近い津波も

内閣府が、北海道から東北にかけての太平洋沿岸で巨大地震が発生した場合の被害想定を公表した。 どんな地震なのか。

Q. 巨大地震が起きるかもしれないの?

A. 北海道の南東沖の千島海溝(ちしまかいこう)と、岩手県沖の日本海溝を震源とする地震のことだね。 内閣府の有識者検討会が 21 日、ここでマグニチュード (M) 9 クラスの地震が起きると、最大で約 19 万 9 千人が犠牲になるという推計を公表した。

Q. そんなに …。 M9 ってどんな規模なの?

A. 2011 年の東日本大震災が M9.0 だった。 地球で起きる最大規模の地震だ。 M は地震の規模を表す単位で、M が 2 増えるとエネルギーは千倍になる。 今年 10 月に東京で震度 5 強を観測した地震は M5.9 だったから、M9 はその 3 万倍以上のエネルギーだ。

Q. 津波も来るの?

A. 内閣府の有識者検討会は昨年、一足先に津波の高さを公表していた。 推計では、岩手県宮古市で最大 29.7 メートル、北海道えりも町で最大 27.9 メートルの津波が来る。 岩手県北部の一部では東日本大震災より高くなるとみられているんだ。 国の地震調査委員会は、千島海溝を震源とする M8.8 以上の地震が 30 年以内に起きる確率を、最大 40% と見積もっているよ。

Q. どう調べたの?

A. 海岸近くでは、過去の津波で運ばれた堆積(たいせき)物が見つかることがある。 北海道や東北の調査から、この地域は三、四百年ごとに津波に襲われていて、前回は 17 世紀だったとわかった。 このため「発生が迫っている。」と評価されたよ。

Q. どうすればいいの?

A. 地震が起きたら津波は来るものと考え、すぐに高くて安全なところへ避難するべきだ。 日本では、関東の南の相模(さがみ)トラフや、近畿(きんき)から四国沖の南海トラフでも巨大地震が心配されている。 とはいえ、地震の発生数は、M が 1 小さいと約 10 倍になるとされる。 規模の大きさだけでなく、地震はいつ起きてもおかしくないという心構えを持つことが大切だ。(山野拓郎、asahi = 12-21-21)

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本当は違う「釜石の奇跡」 24 歳語り部が伝えたい真実

小中学生 3 千人のほとんどが助かり、「釜石の奇跡」と呼ばれた。 鵜住居地区では中学生が小学生の手を取って避難したと称賛された。 でも「全てが本当のことだったわけではない。」 あの時の中学生の一人、菊池のどかさん (24) は振り返る。 この地区にできた津波伝承館で働き始めて 1 年。 語り部として真実を伝えることの難しさを日々感じている。

《誤解があればできるだけその場で正すようにしていますが、十分わかってもらえたかどうか自信はありません。 でも、震災直後に報じられたことと、私たちが体験した事実と違うことはたくさんあります。》

県立大を卒業と同時に、「いのちをつなぐ未来館」に就職した。 今度は助ける人になりたいと消防士や教師をめざしていたが、地元に防災教育の場ができると聞き、ぴったりだと思った。

《避難のお手本のように伝えられてきたので、来館者の中には「釜石の子どもは全員助かった」と思って来る人もいます。》

しかし、鵜住居地区の鵜住居小と釜石東中だけでも欠席していた 2 人と、迎えに来た親に引き取られて帰宅した 1 人の計 3 人が亡くなった。 保護者対応のため学校に残っていた職員も亡くなっている。 この地区の犠牲者は 627 人で市全体の 6 割を占める。 「釜石の奇跡」が広まっていくうちに細部は置き去りになり、気づいたら「中学生が小学生を助けた」という美談が独り歩きしていた。 模範的避難の体験者として語ることを求められていると気づくたびに戸惑いを感じた。

《実は私たちも最初から小学生の手を引いて逃げたのではなかった。 いったんは自分たちだけ逃げたんです。 これからはそういう真実も語っていかないと本当の教訓にならないと思う。》

9 年前のあの日、釜石東中 3 年だった菊池さんたちはちょうど帰宅するところだった。 揺れが収まり、校庭にいた菊池さんたちに副校長が「何してるんだ。 走れ! 点呼などとらなくてもいい」と怒鳴った。 隣にある鵜住居小の校庭を駆け抜けるとき、児童らが避難していないことに気づく。

《「津波くっぞー、はやぐー」って大声を上げたんですが、しーんとしたまま。 やばい。 みんな死んじまうって、あの時はほんとにそう思いました。》

何分待ったか。 長い時間に感じられたが、誰も来ない。 菊池さんたちはそのまま高台に向かった。 幸い、直後に同小を訪ねた消防団員の指示と、東中の生徒が走り去る姿を見た教員らの決断もあり、児童も避難を始め、高台で中学生と合流した。 さらに高い所へと全員が走り去って間もなく、高台も水没した。

《合流して初めて、私は小学生の手を引き、走ったんです。 泣きじゃくる子もいました。 母親に連れられた幼児を見つけ、おぶって駆け上がる男の子もいたし、もちろん、1 人で走る子もいました。》

「釜石の奇跡」はその後、遺族の批判を受けた市が「釜石の出来事」と呼び方を改めた。 ただ、防災教育の成果という位置づけは変わらなかった。 菊池さんは言う。

《私たちが助かったのは消防団員の的確な指示や近所の人の助言のおかげ。 運や偶然も重なって生かされたんです。 一般的な防災教育だけではだめだと思う。 地形を知ること、ふだんから近所の人たちと交流しておくこと …。 今また震災が起きたらまずい。 やるべきことは多いと思います。》 (本田雅和、asahi = 3-11-20)

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3m 超す津波、広範囲で非常に高い確率 南海トラフ予測

政府の地震調査研究推進本部は 24 日、南海トラフ地震による津波が今後 30 年以内に沿岸を襲う確率を発表した。 影響を受ける 352 市区町村ごとに、3 段階の高さについて算出。 木造家屋を押し流す 3 メートル以上の津波は、非常に高い確率(26% 以上)で静岡県伊豆地方から九州東部にかけて押し寄せるとしている。 「確率論的津波評価」として初めて公表した。 2012 年に発表された南海トラフ地震による最大級の津波想定と違って、最大級には至らないものの発生頻度が比較的高い津波のリスクを示すのが狙い。

過去約 700 年間に南海トラフ周辺で起きた地震をもとに、震源域や、プレート境界のずれる領域などを変えた約 35 万通りの津波をコンピューター上で予測。 その結果から、@ 3 メートル以上、A 5 メートル以上、B 10 メートル以上の津波が 30 年以内に来る確率を、それぞれ市区町村別にはじき出した。 確率は、▽ 26% 以上、▽ 6 - 26%、▽ 6% 未満の 3 段階で示した。

3 メートル以上の津波は、静岡県の伊豆地方や中部電力浜岡原発のある御前崎市付近のほか、和歌山県、高知県の大部分、三重県、徳島県の南東岸、大分県、宮崎県の一部など計 71 市区町村で「26%以上」になった。三重県や高知県の一部は、10メートル以上の津波も「6〜26%」と高かった。 地震本部によると、「26% 以上」は 100 年に一度起きる程度の「非常に高い確率」、「6 - 26%」は 100 - 500 年に一度程度の「高い確率」にあたるという。 3 メートル以上の津波は大津波警報の発表基準に相当し、木造家屋を流失させるほどの強さがある。 人間は 30 センチの津波で身動きがとれなくなり、1 メートルだと多くが流されて亡くなるとされる。

内閣府の有識者会議が 12 年に示した南海トラフ地震の最大級の津波想定では、高知県黒潮町の 34.4 メートルをはじめ、6 都県で高さ 20 メートル以上の津波が押し寄せるとされている。 地震本部の平田直・地震調査委員長は「最大レベルでなくとも、津波では大きな被害が出る。 そのリスクを認識し備えを進めるべきだ。」と話した。 地震本部は、南海トラフで 30 年以内にマグニチュード 8 - 9 級の地震が発生する確率を 70 - 80% と評価している。 (桑原紀彦)

【解説】 津波リスク、見つめ直し備えを

地震調査研究推進本部が公表した南海トラフ地震の「確率論的津波評価」は、国や自治体が防潮堤整備や避難対策の基本にする「想定」とは違い、津波のリスクを社会に広く伝える試みだ。 様々な地震の起こり方を計算し、各地がどれだけ津波に襲われやすいかを確率で表した。 2012 年に内閣府が示した最大級の津波想定は、東日本大震災を踏まえ、科学的に起こり得る最大級としてマグニチュード (M) 9.1 の地震を設定。 高知県黒潮町で最大 34 メートルなど軒並み引き上げられ、防災対策が進められた。 一方で、高すぎる想定に「何をしても無駄」とのあきらめも生じた。

しかし、次の地震が必ず最大級とは限らない。 「最大級への備えができていればいいが、必ずしもそこまででないのが実情。 あきらめず、できるところから対策を。」と地震本部の平田直・地震調査委員長は言う。 今回の地図をみると、確率の高い地域は 10 メートル以上だと限られるものの、3 メートル以上では広範囲に及ぶ。 この高さでも建物が流され、命にかかわる。 確率が低めの場所でも、被害を受ける可能性はゼロではなく、安心してはいけない。

確率はなじみにくく、6% でも高いと言われてピンと来る人は少ないだろう。 「確率論的評価を防災に活用するノウハウの蓄積は十分でない」と事務局も認める。 南海トラフ以外でも津波は起こる。 改めて津波のリスクを見つめ直し、備えにつなげたい。 (編集委員・佐々木英輔、asahi = 1-24-20)

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地震予知失敗、100 回中 99 回 南海トラフで学者回答

南海トラフ巨大地震について、事前に発生する時や場所、規模を正確に言い当てる直前予知を 100 回試みても 99 回程度は失敗すると日本の地震学者が考えていることが、林能成関西大教授(地震学)が行ったアンケートで 19 日、分かった。 観測データを基に危険性を判断するのが地震学者で、予知の実用化が不可能に近いことを改めて示す結果となった。 林教授は、予知の難しさが市民や行政担当者に正しく伝わっていないと指摘。 「突然の地震でも被害を少なくする防災を進めるのが先。 予知を防災の前提としてきた過ちを繰り返さないようにすべきだ。」としている。 (kyodo = 5-19-19)

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日向灘で 3 日連続の地震

気象庁によると、2019 年 5 月 12 日午後 3 時 7 分ごろ、宮崎県沖の日向灘を震源とするマグニチュード (M) 4.3 3の地震が発生し、高知県宿毛市で震度 3 を観測した。 気象庁によると、この地震による津波の心配はない。  日向灘を震源とする震度 3 以上の地震は、5 月 10 日午前 8 時 48 分に M6.3 の地震が起き、宮崎県宮崎市や都城市で震度 5 弱を観測したのをはじめ、5 月 11 日午前 8 時 59 分に M4.9 の地震発生で、愛媛県愛南町、高知県宿毛市、宮崎県延岡市で震度 4 を観測するなど、3 日連続で発生している。 (J-cast = 5-12-19)

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「南海トラフ地震」、巨大地震「警戒」で 1 週間避難も

大雨と南海トラフ地震、2 つの災害に備えて住民の避難を促すためのガイドラインを、政府がまとめました。 政府は、南海トラフ沿いでマグニチュード 8 クラスの巨大地震が発生するおそれが高まったと判断した場合に、沿岸部の一部の住民に 1 週間程度、避難してもらうことなどを盛り込んだガイドラインをまとめました。

南海トラフ沿いでマグニチュード 9 クラスの超巨大地震が発生すると、最悪の場合、死者は 32 万人を超すと政府は試算しています。 過去には「半割れ」と呼ばれる、南海トラフ沿いの東側でマグニチュード 8 クラスの巨大地震が発生した後に、西側でも巨大地震が続けて発生するケースが起きています。

そうしたことから、内閣府のガイドラインでは、マグニチュード 8 クラスの巨大地震が発生した場合、反対側の領域でも巨大地震が連動して発生する可能性に備えて、国は「巨大地震警戒対応」を取り、津波からの迅速な避難が難しい沿岸部では、一部の住民に対し、あらかじめ 1 週間程度、安全な場所に避難するよう呼びかけることとしています。 そして、およそ 1 週間経っても巨大地震が発生しなかった場合は、「巨大地震注意対応」に切り替え、避難は解除しつつ、さらに 1 週間程度は住民に日頃からの地震への備えを再確認してもらうことなどが盛り込まれています。 (TBS = 3-29-19)

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宮城県沖、M7 級の地震確率は「90%」 30 年以内に

政府の地震調査研究推進本部は 26 日、青森県東方沖から房総沖にかけての日本海溝沿いで、今後 30 年以内に地震が発生する確率を公表した。 宮城県沖などでマグニチュード (M) 7 級の地震が発生する確率は 90% で、東日本大震災より小規模でも被害が出る恐れのある地震には、引き続き注意が必要としている。 この海域の評価は、2011 年 11 月以来。 今回は、その後の地震活動や地殻変動、過去の津波堆積物の情報を活用。 現在の科学的知見の範囲で、発生し得る超巨大地震などを評価し直した。

東日本大震災のように、岩手県沖南部から茨城県沖まで連動するような超巨大地震(M9 級)は、津波堆積物の痕跡から過去約 3 千年間に 5 回発生したとして平均発生間隔を推定。 直近の発生から 8 年しか経過していないため、確率はほぼ 0%。 津波から地震規模を推定する方法で、大きな揺れを伴わずに津波が発生する明治三陸地震(1896 年)のような「津波地震」の規模は最大で M9、確率は 30% とした。

一方、M7 級の地震は「青森県東方沖及び岩手県沖北部」で 90% 以上、「宮城県沖」は 90%、「茨城県沖」は 80% など、広い範囲で高い値になっている。 「宮城県沖」のうち、震災前に確率が 99% とされていた陸の近くで起こる地震は 50% とした。 この領域は前回は「不明」としたが、地殻変動の観測結果などから、次の地震発生サイクルに入ったと判断した。

M7 級の地震は、過去に観測された津波は高さ数十センチ程度が多い。 M9 級(10 メートル超)や、M8 級(数メートル)に比べて小さいが、波打ち際ではさらわれる危険がある。 1978 年の宮城県沖地震 (M7.4) では、ブロック塀の倒壊などで 28 人が死亡し、安全基準が見直されるきっかけとなった。 このほか、東日本大震災型以外の場所で起きる超巨大地震も否定できないが、確率は不明とした。

また、地震発生の危険性をより認識しやすいよう、発生確率が高い順に四つのランクに分け、併せて表記した。 地震本部地震調査委員会の平田直委員長は「東北の太平洋沿岸ではしばらく大きな地震はないと思う方もいるかもしれないが、M8、7 クラスの確率は高い。 津波や強い揺れに備えることが必要。」と話している。 (小林舞子、asahi = 2-26-19)

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地震、南海トラフ新観測網、23 年度完成 空白域解消へ

切迫する南海トラフ地震に備え、政府の地震調査研究推進本部は、高知県と九州をつなぐ海底ケーブル式の地震・津波観測システム「N-net (エヌネット)」の整備案をまとめた。 文部科学省は来年度予算の概算要求に約 32 億円を計上し、2023 年度の完成を目指しており、総工費は約 200 億円を見込む。 N は南海トラフをローマ字表記した際の頭文字。 震源により近い海底での観測により、緊急地震速報に用いる地震波は最大で約 20 秒、津波の高さは約 20 分、従来より早く検知できる見込み。 気象庁は津波警報で予想される津波の高さの修正などに反映し、住民の避難に生かす。

文科省などによると、高知県の室戸岬沖から日向灘に約 900 キロのケーブル 2 本を張り巡らし、計 40 の観測地点に揺れを検知する地震計や、津波の高さを測る水圧計を設置する。 地震前に異常な地殻変動を捉える可能性がある「ひずみ計」などの導入も検討する。

海底観測網は、防災科学技術研究所が「S-net (エスネット)」を東日本大震災をきっかけに北海道沖 - 千葉県沖の日本海溝沿いに整備し、運用。 南海トラフ地震の想定震源域では静岡県沖から室戸岬沖にかけて、ケーブル式海底地震計の気象庁の観測システムや防災科研の「DONET (ドゥーネット)」が運用されている。 ただ室戸岬沖 - 日向灘は空白域で、地震本部は早急な整備が必要と判断した。

新システムを運用予定の防災科研の青井真・地震津波火山ネットワークセンター長は「整備されるのは巨大地震の発生がほぼ確実なエリア。 地震と津波を海域で観測できるようにすることで、防災力の向上につながる」と話す。 (池田知広、mainichi = 9-2-18)

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<東日本大震災> 固い岩盤同士が衝突 プレート構造で判明 東北大の趙教授ら

2011 年の東日本大震災を起こしたマグニチュード (M) 9.0 の巨大地震は、海底のプレート(岩板)境界にあり、周りに比べて固い岩盤同士がぶつかり合った場所が震源になったとの研究成果を、東北大大学院理学研究科の趙大鵬教授(地震学)らがまとめた。 20 日付の米科学誌サイエンスアドバンシズで発表した。 3 月 11 日の本震は、太平洋プレートと陸側プレートの境界が震源となった。 研究成果を基に両プレートで固い岩盤が広がっている場所を把握することで、将来起こる大地震の震源を特定できる可能性があるという。

趙教授らは 00 年以降、東北の太平洋側で観測された 14 万件以上の地震データを「地震波トモグラフィー」と呼ばれる手法で解析。 地震波が伝わる速さから岩盤の固さなどプレートの性質を調べた。 両プレートとも岩盤の固さが異なる部分が混在する「不均質構造」があり、3 月 11 日の震源ではより固い岩盤同士がぶつかり合っていたことが判明した。

過去 100 年間に起きた M7 以上の地震も、両プレートの岩盤が固い部分や周辺で発生していた。 従来の国内外の研究では、主にどちらか一方のプレート特性が巨大地震の要因になったとの見方が示されていた。 趙教授は「今後は海底地震計の観測網によるデータも分析し、より詳しい地下構造を把握するのが目標。 巨大地震の発生が警戒されている南海トラフ周辺も分析したい。」と話す。 (河北新報 = 6-21-18)

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「防災計画」の過失、高裁が一転認定 大川小・津波訴訟

東日本大震災で津波に襲われた宮城県石巻市立大川小学校で犠牲となった児童と教職員計 84 人のうち、23 人の児童の遺族が市と県に約 23 億円の賠償を求めた訴訟の控訴審判決が 26 日、仙台高裁であった。 小川浩裁判長は学校の震災前の防災対策に不備があり、市教育委員会も指導を怠ったとして責任を認め、一審より約 1 千万円多い約 14 億 4 千万円の賠償を命じた。

原告側の弁護団によると、東日本大震災の津波訴訟で、震災前の防災の過失を認めたのは初めて。 判決は学校が児童生徒の安全を守る義務を強調する内容で、各地の学校の防災計画にも広く影響を与えそうだ。 一審・仙台地裁は防災計画について学校側の責任を認めず、津波発生後の学校側の過失を認定した。 控訴審では、大川小の危機管理マニュアルが避難場所を具体的に明記していなかった点など、事前防災の適否が争われた。

高裁はまず、学校側に児童生徒の安全を確保する義務があり、地域住民と比べて「はるかに高いレベルの防災の知識や経験が求められる」と指摘。 市のハザードマップで大川小は津波の浸水想定区域外だったが、「校長らは市からの情報も、独自の立場から批判的に検討することが要請されていた」として、立地条件などを考慮すれば津波被害が予想できたと述べた。

そのうえで、大川小のマニュアルについて検討。 市教委は 2010 年 4 月を期限に改訂を求めており、この段階で校長らは津波を予想し、避難場所や避難経路を決める必要があったにもかかわらず怠ったと判断。 このため、震災が起きた後も近くの高台への避難が遅れ、児童が津波に巻き込まれたと結論づけた。 市教委もマニュアルを確認し、不備があれば指導する義務を怠ったと述べた。 市は判決を受けて、上告について検討するという。 (志村英司、山本逸生、asahi = 4-26-18)

仙台高裁の判決のポイント

  • 校長らは、児童生徒の安全確保義務があり、専門家が示すデータも独自に検討しなければならない。
  • 大川小の立地を考慮すれば、校長らは津波の危険性を予見できた。
  • 校長らは避難経路などを危機管理マニュアルに記載せず、市教委も不備を指摘しなかった。 適切に定めれば被害は避けられた。

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南海トラフ地震、30 年以内「70 - 80%」 最新予測

政府の地震調査委員会は 9 日、静岡県から九州沖合にかけての南海トラフ沿いでマグニチュード (M) 8 - 9 級の大地震が 30 年以内に起こる確率が「70 - 80%」に高まったと発表した。 毎年の数値の更新によるもので、震源域に特別な変化はないという。

地震の発生確率は、過去の発生間隔と直近の地震からの経過年数で計算し、毎年少しずつ高まる。 南海トラフ地震は平均間隔の 88 年と、1944 - 46 年の昭和東南海・南海地震からの経過時間を使って計算し、毎年約 1% ずつ上昇。 最大確率が 74.2% だった昨年は「70% 程度」の表記だったが、今年 1 月 1 日時点で 75.3% になり、四捨五入すると最大で「80%」の表記になったという。

また北海道・根室沖で M7.8 - 8.5 の地震が 30 年以内に発生する確率も、昨年時点の 70% 程度から、80% 程度に上昇した。 委員長の平田直・東京大教授は「大きく値が変わったわけではないが、次の地震に少しずつ近づいていることを表している。 起きる可能性を忘れずに備えていただきたい。」と話す。 (竹野内崇宏、asahi = 2-9-18)

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千島海溝で巨大地震予測 北方領土でも被害恐れ 元島民「ふるさとがなくなる」

政府の地震調査委員会が 19 日、千島海溝でのマグニチュード (M) 9 級の巨大地震の発生について「切迫性が高い」とする長期評価を公表した。 津波被害が予想される沿岸自治体は「今できることを突き詰めるだけ」と冷静だが、海溝周辺にある北方領土では、不法占拠するロシアが津波対策を十分に行っていない恐れがあり、元島民は「ふるさとがなくなってしまう」と懸念を示した。

これまでもずっと大地震は来るといわれていた

本土最東端の北海道根室市。 国の平成 29 年版予測でも、震度 6 弱以上の地震が 30 年以内に起こる確率は 63% とされていただけに、担当者は冷静に受け止める。 自治会レベルごとに住民の避難計画を定めるなどの対策を進めてきた同市。 担当者は、国の津波浸水予測などに変更があった場合のみ、「それに基づき計画も修正する」と説明した。

一方、北方領土の元島民らでつくる千島歯舞諸島居住者連盟根室支部長の宮谷内亮一さん (75) は「ロシアが津波対策を行っているなんて聞いたことがない」と話す。 墓参事業で訪れる先祖の墓地は海岸沿いに多いといい、宮谷内さんは「津波が起きたら故郷はどうなるのか。 共同経済活動より津波対策が優先ではないか。 日本が対策に関与できるようにしてほしい。」と訴えた。 (sankei = 12-19-17)

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熊本地震のデータ「不自然」 阪大「捏造かも含め調査」

昨年 4 月の熊本地震について大阪大と京都大、産業技術総合研究所の研究チームが公表した観測データに「不自然な点がある」との指摘が外部からあり、大阪大などが事実関係の調査を始めた。 問題が指摘されたのは、研究チームの大阪大准教授らがネット上などで公開した熊本県益城町の地震波データ。 共同研究者の京都大准教授が自身のホームページに「データに重要な問題があることを確認した」とする文書を掲載した。

研究チームは昨年 4 月 14 日の熊本地震の前震後、益城町に臨時の地震計を設置して地震波の観測を始めた。 直後に本震があり、計測震度 6.9 を記録したとして昨夏に論文を発表した。 また、ほかの研究者が自由に研究に利用できるように、ネット上でデータの公開を続けていた。 9 月下旬までに、第三者から「他の記録と比較して不自然ではないか」などの指摘があったという。 大阪大は「不自然なデータが捏造によるものかどうかも含めて、関係者から話を聞いて調査していく」としており、産総研も事実関係の調査を進めている。 (asahi = 10-2-17)

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南海トラフ対策、予知前提の情報発信見直し 最終報告書

南海トラフ巨大地震について、防災対策を議論してきた国の中央防災会議の作業部会は 26 日、地震の予知を前提とした大規模地震対策特別措置法(大震法)に基づく防災対策を見直し、南海トラフ沿いでの対策強化を求める最終報告書を小此木八郎・防災担当大臣に提出した。 先月 25 日に示された報告書案に沿った内容で、国は予知を前提とした防災情報の発信のあり方を見直し、南海トラフで異常な現象が観測された際に速やかに情報を発表する新たな仕組みを設ける考えだ。

国は今後、自治体や企業から話を聞き、地域の実情にあった防災計画を作成するためのガイドラインを示す。 報告書を受け取った小此木大臣は会見で、静岡、高知両県と、愛知県などの「中部経済界」を、ガイドラインを作るためのモデル地区に指定したことを明らかにした。 報告書は、避難に役立ててもらうため、震源域の半分で大地震が発生した場合など四つの想定ケースを示している。 自治体が一斉に避難行動に移れるよう、国に対して予知を前提とした警戒宣言に代わる情報の発信を求めている。 また、南海トラフ沿いで観測された異常現象を評価するための組織として、現在の東海地震のように、学識経験者らによる評価体制を気象庁に設置するよう求めた。 (asahi = 9-26-17)

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紀伊半島沖、「ゆっくり滑り」周期的に観測

海洋研究開発機構や東京大などの研究チームは、南海トラフ巨大地震が懸念される紀伊半島南東沖で、ゆっくりとプレート(岩板)境界面が滑る「ゆっくり滑り」が、8 - 15 か月周期で起こっているのを観測したと発表した。 詳しい震源域の状態や、地震のメカニズム解明につながる可能性があるという。 論文が米科学誌サイエンスに掲載された。 南海トラフでは、海側のプレートが陸側のプレートを巻き込むように下に沈み込んでいる。 そのひずみに耐えきれずに境界が急に動くことで、最大でマグニチュード 9 級の巨大地震が起こると想定されている。 一方、境界がゆっくり動く「ゆっくり滑り」については、よく分かっていない。 (yomiuri = 6-24-17)

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30 年以内に大地震、太平洋側で確率高め 予測地図公表

政府の地震調査研究推進本部は 27 日、特定の地点が 30 年以内に地震に見舞われる確率を示す「全国地震動予測地図」の 2017 年版(1 月 1 日時点)を公表した。 建物が倒壊し始めるとされる震度 6 弱以上では、千葉、横浜、水戸市役所がいずれも 8 割を超えるなど、関東、東海から近畿、四国にかけての太平洋側が引き続き高かった。

地図は、地震の起きやすさと地盤の揺れやすさの調査を元に作成した。 30 年以内の確率で、0.1% 以上 3% 未満は「やや高い」、3% 以上は「高い」とされる。 昨年 6 月に公開された 16 年版と比べ、確率が全国で最も増えたのは、山口県山陽小野田市付近の 3.6 ポイント増 (13.5% → 17.1%)。 一方、最も減ったのは岡山県井原市付近の 0.65 ポイント減 (10.21% → 9.56%)。 いずれも、中国地方の活断層を 7 月に再評価したデータを反映した。

太平洋側では南海トラフ地震など海溝型地震の確率が微増。 市役所の所在地でみると、千葉 85%、横浜・水戸 81%、高知 74%、徳島 72%、静岡 69% の順に高かった。 一方、熊本市役所は、熊本地震を引き起こした布田川断層帯・日奈久断層帯に依然、強い揺れを起こす恐れがある区間が残っているため、昨年と同じ 7.6% だった。 平田直・地震調査委員長(東京大教授)は「自分の所は安全だと思わず、日本はどこでも強い揺れにあう可能性が高いと考えて欲しい」と呼びかけている。

予測地図はウェブサイト「地震ハザードステーション」で公開。 住所や施設名で検索でき、その地点を含む 250 メートル四方の地震の確率が見られる。 (竹野内崇宏、asahi = 4-27-17)

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本震の布田川断層帯、7,300 年前以降に大地震

熊本大や名古屋大などの研究グループは 16 日、昨年 4 月に熊本地震の本震が起きた「布田川(ふたがわ)断層帯」の調査状況を一般公開し、約 7,300 年前から今回の地震前までに少なくとも 1 度は大地震が起きていた痕跡があったと発表した。 従来考えられていたよりも、頻繁に活動してきた可能性があるという。

本震では、同断層帯が動き、熊本県益城(ましき)町内では地表に最大 2.2 メートルのずれが生じた。 研究グループは、ずれた地点近くに深さ約 3 メートルの溝を掘り、地層を調査した。 その結果、約 7,300 年前から昨年の地震前までに、少なくとも 1 度は地震によって地層がずれた跡があるのを確認した。 政府の地震調査研究推進本部は、同断層帯の中でも本震が起きた区間の活動頻度を約 8,100 - 2 万 6,000 年に 1 回とみていたが、それよりも頻繁に動いている可能性があるという。 (yomiuri = 4-17-17)

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VR で津波を疑似体験 JR 西、訓練システムを導入へ

JR 西日本は 4 月から、仮想現実 (VR) を使って電車の運転士が津波を疑似体験する訓練を始める。 専用ゴーグルの中に運転席の映像が表示され、目の前の線路に津波が押し寄せ、振り返れば混乱する乗客の様子が見えるなど、災害時の臨場感を体験でき、避難場所までの運転や避難誘導も練習できる。

KDDI が協力し、実際の映像と CG を合成して紀勢線の串本駅 - 新宮駅間(和歌山県)の約 43 キロの VR 映像をつくった。 この区間は巨大地震発生から 5 分以内に 10 メートルを超える津波がくると想定されている。 4 月下旬以降に約 2 千万円でシステムを導入し、同区間を担当する運転士約 70 人が年 2 回訓練を受ける。 訓練を体験した JR 西日本和歌山支社輸送課の岡田卓課長代理は「本当に運転席にいるようだ。 緊急時の判断力、瞬発力を養える。」と期待していた。(宋潤敏、藤崎麻里、asahi = 2-15-17)

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