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物語性に溢れた着物で世界を虜にする 久保田 一竹展

日加修好 90 周年の今年、Textile Museum of Canada では久保田一竹展が 2 月 7 日から 5 月 13 日まで開催されることが決定した。 久保田一竹は 1917 年に生まれた日本を代表する染色工芸家だ。 その作品は辻が花と呼ばれる 15 世紀後半から 16 世紀前半に失われてしまった染色・装飾技法の復刻への取り組みが世界的に評価されている。

このような伝統を重んじる面と同時に草木染の染料の代わりに化学染料を使用したり、金糸を使ったりといった工夫をすることで着物に色鮮やかな物語を作り込んでいき、"光のシンフォニー" とも呼ばれるその作品は高く評価され、1990 年にはフランス芸術文化勲章シュバリエを受章、更に 1995 年には "宇宙の威厳" の作品の一部がワシントンにあるスミソニアン博物館に展示された。

今回トロントには 1976 年から一竹の没年である 2003 年までの作品の内 41 点が展示されており、壁一面に飾られた色鮮やかな着物は近くから見たり遠くから見たり、様々な角度から物語を感じることができる。

着物をキャンバス代わりに心に刻まれた風景を

展覧会は 3 階で開催されており、一歩踏み入れるとまず目に入るのは 1986 年に発表された「燦(シベリアの夕陽)」という作品だ。 この作品は戦時中、シベリアでの過酷な拘留生活を経験した久保田の心に刻まれた風景であるシベリア海に沈む太陽を思い出して作った着物だ。 遠くからみても勿論美しいのだが、近くで見ると幾重にも金糸が織り込まれており、その輝きに惚れ惚れしてしまう。

美術館を少し進んですぐのところには全 80 連作で四季・海・宇宙を表現しようとする一竹のライフワークである「光響 80 連作(宇宙)」が展示されている。 この作品は宇・波・渦・炎・宙・頭・主の順に並べられており、一着を見るだけでは気が付かないが燃え滾る炎の中には化学染料を活かした色彩豊かな龍が描かれている。 このように、一着見るだけでなく連作として様々なテーマが描かれている作品の多い一竹の作品は人々を魅了し、作品の前で足を止めている人も多く見受けられた。

また少し進んだところには「光響 80 連作(秋)」が展示されている。 この作品は一竹が 70 歳になってから取り組んだ壮大なプロジェクト。 何枚もの着物をキャンバス代わりに秋からはじまる日本の風景を描いた連作だ。 河口湖周辺の山々が紅葉し、雪が降り始め、一面が雪景色になっていく様子が 29 枚の着物に描かれている。 春と夏は未完成だが今後一竹の弟子が完成させていくのが楽しみだ。

数々の魅力的な作品が展示されているこの展覧会で特に来場者に見ていただきたい作品を同美術館のキュレーターであるナタリア・ネクラーソヴァ氏に伺うと、「光響 80 連作(冬)」だとのことだ。 染料の使い方や丁寧に刷毛で塗られた金銀の糸で見事に雪のニュアンスや冬の朝焼け、夕焼け等カナダでも親しみのある冬景色を見事に描いているという。 連作だからこそ少しずつ雪が積もり、やがては一面が真っ白になる冬の物語はカナダに住む方々にはきっと親しみやすいだろう。

また、一竹の作品を楽しむ上でネクラーソヴァ氏は「足を止めてじっくりと一着一着を鑑賞してほしい。 ゆっくり立ち止まって近づいてみたり、遠くから見たり、作品がつくられるに至るまでを知ることで心から作品の美しさを感じられることだろう。」と語った。

最後に、ネクラソーヴァ氏は「久保田一竹展覧会では日本の伝統である失われた辻が花を蘇らせただけでなく、新しい技術や染料を用いて常にイノベーティブな作品作り出してきた一竹の生き方を感じることができる素晴らしい展覧会であり、TORJA 読者の方々にはこの貴重な機会に足を運んでいただき、直接見ることでしか感じられない作品たちの息吹を感じてほしい」と期待を寄せた。 少しずつ暖かくはなってきているもののまだまだ寒いトロント。 是非 Textile Museum of Canada に足を運び、久保田一竹の着物から一足先に春を感じていただきたい。

(TORJA = 3-6-18)

着物染色家、久保田一竹氏の展覧会がカザフスタンで開幕

日本の着物染色家の久保田一竹氏の作品を集めた展覧会が 19 日夕方、カザフスタンの首都アスタナにある独立宮殿でスタートした。

展示品はメセナのファッタフ・ショディエフ氏の個人蔵。 久保田氏の没後、ショディエフ氏は作品を買取り、散逸の危機から守った。 久保田氏の生んだ着物の美しさは見るものの心を打つ。 久保田氏は 15 - 17 世紀に日本の職人らに用いられていた技術を復活させたことで知られる。

作品は一点ごとに数ヶ月の製作期間が要されており、どれも繰り返しのないオンリーワンとなっている。 久保田氏は 10 年前に 85 歳で亡くなったが、その作品は永久に 輝きを失うことはない。 久保田氏の没後、その作品を集めていた美術館は財政危機に陥り、作品は散逸の危機に瀕していたが、世界に誇る文化財を救おうとショディエフ氏は美術館の展示品全点を買い取った。 展覧会はアスタナをかわぎりにアルマタ、モスクワ、ドバイ、パリ、ニューヨークを回覧する。(ロシアのマスコミ報道より)

(ロシアの声 = 9-21-13)

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